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モンスターハンター カシワの書

 サブクエスト : ある逃亡者の話


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「この話」「この話」の別視点vol2。この話関連でも。時間軸はクロス開始時より、二〜二年半前くらいの設定です。



はじめに口にしたのは、泥色の巨体の生き物。
狩りに慣れてきた頃の主食は、視界が暗くなる直前、真っ赤に燃える空と同じ色の殻に包まれた生き物だった。
前者は弾力が強い歯ごたえの肉で、後者は口の中で繊維がほぐれる、肉とは違った味の身をしていた。
たらふく喰って育ってきたが、どちらも特別ウマイわけじゃない。だからこそ、日々の食餌は退屈で退屈で仕方がなかった。
「オレ」が眼を覚ましたとき、一緒にいたはずの兄弟は皆、姿を消していた。恐ろしい雄叫びを何度か聞いて、誰かの「静かにしろ」という悲鳴を聞いた。
そんな騒がしいある日の以降、兄弟たちはおろか、餌を運んでくれていた母親の姿もいつの間にかどこにも見えなくなってしまった。
ねぐらの周りには血と腐敗した肉塊が散らばっていて、「オレ」は何度かこの場にいない家族に向かって声を張り上げたが、応えてくれるやつはいなかった。
ひとりきりで生きていくしかない……肉を食べにくるゲネポスやガブラスがそうぼやくのを聞いて、あぁ、「オレ」もこいつらと同じなのだと、そう思った。

『もし、もしまた「オレ」があの雄叫びのヌシに遭ったなら』

時々、そんなことを考える。日々、あのねぐらでの瞬間を思い浮かべる。
あの日、あのとき、あの熱い日差しの下で。思い起こせば、母親だった竜は大食らいの血生臭い生き物と戦い、大敗していた。
「隠れていろ」と叫んでいた何ものかがそう話していた。あれは「オレ」以外に生き残ったどれかの兄弟に向けて語ったことなのかもしれない。
殻にくるまれたまま、暗闇にまどろみながら、「オレ」はそんな恐ろしい生き物とオレたちが同じ大地に暮らしているのだという事実にただ耳を傾けていた。
生きるか死ぬか。狩るか狩られるか。食うか、食われるか。
この世界はそんな不条理に溢れていて、負けた側はただおとなしく喰われるか、砂の上で溶けていくしかないのだと。
……なぜ、「オレ」がそんな話を識っていると思う?
簡単だ。ひとりきりになったあの頃の「オレ」には、「オレ」と同じように生き残りに成り果てていた「兄」がいたからだ。
「静かにしろ」「隠れていろ」、そう叫んでいた生き物が、「オレ」の「兄」をねぐらから連れ出して、誰にも知られないようにコッソリ育てていたからだ。

『もし、もし「そこ」にいたのが「オレ」だったなら』

茶色の小っさい生き物と「オレ」の「兄」。ふたりは、「オレ」の知らない世界の色んな話をして砂と青色だらけの平原を旅して回った。
「オレ」はふたりに気づかれないよう大きく距離を開けながら、ときには崖の上から、ときには岩場の陰から、交わされる話を黙って聞いて過ごした。
食えるものと食えないもの。狩るものと狩られるもの。連中の話には小難しいものも多かったが、退屈をしのぐにはちょうどよかった。
いつだったか、茶色い生き物が「兄」に教えた狩りの仕方をコッソリ真似してみたこともある。
試してみて分かった。「兄」より「オレ」の方が獲物を捕らえるのが上手いこと。「兄」のように小回りは利かないが、力と技術は……「オレ」のが上だ。

『もし、もし「オレ」に力があったなら』

いつのことか、もうぼんやりとしか思い出せない。
「兄」は、「オレ」の見ている前であの雄叫びのヌシに再会した。逃げるか隠れるかするのだと思いきや、茶色の小っさい生き物を逃がそうと奮闘していた。
結果として「兄」はヌシに大敗した。茶色の小っさい生き物は、どこかから現れた二足歩行の生き物に連れられて行ってしまった。
『ひとりきりで生きていくしかない』。あぁ……本当にそうだ。ほんとうにそう思う。
ゲネポスやガブラスが「兄」の骸を突っつくのを、きっかり空の灯りが五回行き来する分だけ眺めた後、「オレ」は砂と青色だらけの平原をひとり離れた。
もう、ここにいても意味はない。「兄」はただの死肉になってしまったし、何より、茶色い生き物は「兄」から大事な道具を奪っていった。
「兄」のモノは「兄」のモノだ。生き残った「オレ」だけが、「兄」の手元に戻してやらなきゃならないのだ。
それに……それに、母親や「兄」の抜け殻の跡を見ていると眼のあたりが酷くシミて傷んだ。視界は霞むし、妙に疲れる。それが「オレ」には耐え難かった。



時々、夢を見る。なんてことはない、「兄」や母親と一緒にいた頃の夢だ。
特にここ最近、あの『灼けた銀色の破片』を手に刺した瞬間からは、頻繁に見るようになっていた。
あの破片は、気がついたら手からすっぽり抜け落ちていた。
どこにやったかは分からない。もしかしたら最初に見つけた白土の、寒い平原に落としたのかもしれない。
破片が刺さった傷口にうなされながら、何度でも夢を見る。あの破片と同じ声色で、夢の中で誰かが「オレ」に『あの日を忘れてはいけない』と豪語する。

『知ったことか――』

あの破片のおかげで力を手に入れられた。何ものも引き千切り、食い破れるような、暴力的で「オレ」にぴったりの力だ。
実際に、いつかの食餌の折に邪魔だてしにきた青色と赤色の毛だらけのバカでかい獣を、「オレ」はこの力で退けることができている。
力さえあれば、このチカラを振るい続けることができれば「オレ」は……「兄」をどうにかしたあの血生臭い生き物だって、越えられるに決まっているのだ。

『――忘れるな、覚えていろ、先に果てることなど赦すものか。オマエの顔を、声を、その足取りも! オレは忘れない、オレが必ず兄の代わりに………』

もう居ないモノが、面と向かって語らったことさえないモノが、はたして「オレ」に望むことなどあるのだろうか。
「オレ」を待ち侘び、「兄」から大事な道具を奪ったことを懺悔して、地に頭をこすりつけるようなことがあるのだろうか。
「兄」も「母親」も、なんならあの血生臭い怪物だって、「オレ」がここで生き長らえていることも……「オレ」の存在さえ知らないかもしれないのに。
何故、ここまで心が揺れるのか。
どうして、「オレ」はそうせずにいられないのか。
誰か……それを知っているのなら、汲み取ることができるなら、あの茶色の小っさい生き物のように「オレ」に教えてはくれないか。
「オレ」は最期に、どこに向かえばいい?


……、


凍て刺す風が吹き荒れる、紺碧の海の上。
ごく僅かな生き物しか住まうことを許さない、極寒の地。
白い積乱雲と黒い夜とを映し取る、海面にぽかりと浮かんだ透ける氷塊。
その地には、黒銀の古びた龍の抜け殻と、赤黒い獰猛な気配を纏ったひとりの竜が暮らしているという。
後に件の竜は二足歩行の群れより「獰猛化轟竜」と称され、何者かがこの地より排除した暁には特別な報酬を約束される手はずとなったというのだが……
何ものかを待ち侘びるように頻繁に甲高い轟音を上げ、また時には二足歩行のように物思いに耽るように黙する様は、なんとも人間味があり趣深いのだ。

彼の竜の真意を知る者は、未だ現れていないという。
「わたし」は生き物の早死にする様を楽しむ性分ではないのだが、出来るだけ早くに彼の竜が目的の相手と相対することを願って止まない。
恐らくその方が、彼の竜の、あるいは双方のためとなるだろう。彼の真の願いが叶う日を、「わたし」もまた心待ちにしているのだ。




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 UP:25/05/09