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ある魔獣とその友人(楽園のおはなし3章SS) BACK / TOP / NEXT |
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(『嫉妬』を象徴するという『獣』) 戦争が激しい区域が故郷だった。だから家はずっと貧乏で、その日食べる分だけで暮らしは精一杯だった。 父親は若くして騎馬隊に抜擢された勇猛な戦士だったけど、敵方から放たれた砲撃一発であっけなく戦死した。 母親は身売りしてまでオレたちを養ってくれたけど、無理が祟って病気で倒れ、布一枚で隔離された病室の中、 ろくな治療も出来ないうちに一人きりで亡くなった。のちに、過労死だったと、馴染みの医者が教えてくれた。 オレたちはオレを筆頭に、早いうちから親を亡くした。戦争は収まりつつあったけど、未だ家は貧乏だった。 けど、ずっと泣いてるわけにもいかない。生きていかなきゃいけなかった。 オレの下には可愛い小さな妹が二人と弟が三人いて、一番上のオレが親代わりにならなきゃいけなかった。 かといって、オレは母親みたいに綺麗な体をしてなかったし、小柄で面立ちは父親似、筋肉量だって多かった。 小さい頃、戦争の対策にと父親から習った護身術代わりの体術とナイフ、長剣の扱い。それが仇になっていた。 ……オレは、お世辞にも可愛い、綺麗な女なんかじゃなかった。健康な体だけが取り柄だったんだ。 けど、今ならこう思う。「だからこそ、今こうして生きていけるんだ」って―― 「っはよう! カッさん」 「いって!! くっそ、背中叩くなよ、バーカ!」 妹弟を抱えて、その日暮らしをしていたオレを拾ったのは、国が経営を認可している正規の傭兵ギルドだった。 自信なんてなかったけど、採用試験は案外すんなり通せた。正式に雇って貰える事になって、ほっとした。 妹弟、そしてオレには個人用に、住居と衣類、飯の段取りを用意して貰えて、オレは安心して働く事が出来た。 恩を返そうと、オレは必死になって働いた。気付けば、カッさん、とかいう変なあだ名が付いていた。 いちいちムキになって言い返してたけど、実のところ、皆に認められたような気がして、気に入っている。 「カッさん、強くなったなあ。俺の息子なんかよりよっぽど強いんじゃないか」 「えー? 親父っさんだってヨワヨワじゃん。へへっ、ま、オレってばこの辺じゃ負け数ゼロだしー」 「なんだとクソガキ、やろうってのか!」 「いいぜー、どーぞどーぞ! ボコボコにしてやっからさっ!」 ギルドの連中は、職業柄か、血の気の多い奴ばっかりだった。 事ある毎に喧嘩や野試合、腕試しをして、強さを比べたがる。オレは大体、負け無しだった。 仕事のノルマだって、客の満足度にしたってオレがずっと一番だった。 そりゃーそうさ、頑張れば頑張った分、妹弟の暮らしは豊かになる。新規の仕事も入ってくる、言う事なしだ。 そうやって、気付けば七年。自警団や近衛兵も含めて、街の連中がすっかりオレを頼るようになった頃。 「――初めまして、『レヴィ』です。宜しくお願いします」 ……ある日突然、奴はやってきた。 真っ黒い髪に真っ黒な瞳、服や持ってるナイフの束まで真っ黒な、小柄なチビ。臨時雇用希望のアルバイト。 見た目で言うならオレと同じくらい、十代半ばか、それより少し上くらい、だと思う。 やたら生意気そうな目をしていて、予想の通り、加入手続きを終えるなり気性の荒い仲間に絡まれていた。 ……驚いたのは、連中だけじゃなく、オレもそうさ。 やおら肩を掴んだ奴の腕を取ったと思ったら、次の瞬間にはそいつは吹っ飛んでた。文字通り飛ばしたんだ。 体術の一種です、と後々独り言みたいにして教えてくれた。相手の力と体の軸で「回して」やっただけだって。 揉めるのは不本意らしくて、吹っ飛ばした奴とはすぐ仲直りしてたっけ。順応性はあるみたいだった。 雇用された後は静かなもんで、自分からあまり他と距離を詰めようとしなかった。いつも部屋の隅に一人でいて 誰とも喋らねーで、依頼書や見積もりを眺めているか、或いは、クッキーだの木の実だの食いもんを食ってた。 変わった奴だったよ。変わってるっていうか、なんかこう、どっか浮き世離れしてるって感じで変だった。 話し掛ければ返事はしたから、たまにそんな話をした。あいつはその度、問題ありません、なんて言っていた。 「問題ありませんって。あるから言ってんだろー?」 「カサブランカさんには、どこか問題があるように見えますか」 「はぁ? いや、どこだって聞かれると分かんねーけど。なんか変わってるよ、お前」 「自分としては『人間らしく』振る舞えているつもりでした。問題があるようなら以降、善処します」 ズレてるよな、って話は、仲間内でも有名だった。 なまじ腕が立つから、皆余計にあいつの事が気になるみたいだった。気配は消してるのに、存在感は抜群でさ。 チビの癖に力が強くて、頭も切れて、相手次第じゃ手加減だって出来る。いつの間にかあいつもオレくらいまで 顧客に頼られるようになっていた。っつーか、正しくはオレとコンビを組む機会が多くなっていったんだっけ。 オレとレヴィ、二人揃えば、どんな依頼だってサクサクこなせた。 父親が死んだような悲惨な戦場だって、母親がこき使われた色街だって、レヴィと一緒に行くなら怖くない。 気が付いたら、オレもレヴィに頼るようになっていた。悩み事や昔の苦労話だって、たくさん話した。 あいつは、野次一つ飛ばさないで、静かに聞いてくれたよ。余計な口出しもしなかった、それが有り難かった。 僕は鈍い質ですから、なんて言って、下手な慰めだってしなかった。不器用なんだろうと思ったよ。 「なぁ、レヴィ」 「なんですか」 「オレたちさ、ずっと……」 「はい」 「い、いや……な、なんでもねー!」 気が付いたら、目で追うようになっていた。 声が聞こえたら、耳を澄ませるようになっていた。 姿を探して、近くにいたくて、話を聞いて欲しくて、あいつの話だって、聞いてみたくて。 それで、ギルドにいる間や依頼をこなしてる間、なんだかんだ理由を付けてレヴィのすぐ隣にいるようにした。 別に、今すぐどうこうなりたいってわけじゃない。そんなの想像だって出来ない。 何より、オレは親代わりに家族を守らなくちゃいけない。けど、それでも、オレはレヴィが、レヴィの事が…… 「なぁ、レヴィ」 「はい」 「この依頼片付いたら……オレと、」 「なんです」 「……かっ、帰ったらさ! 親父っさんのウマい飯食おーぜ!」 「そうですね。いい考えだと思います」 あいつはあんまり自分の話をしないけど、それでも時折、オレと二人きりの時なんかに、小さく小さく笑ったり 自分の家族の話をしてくれたり、出先が冷え込む環境の時は、オレに自前のマントを羽織らせてくれたりする。 ギルドの連中にそれとなく聞いたら、そんな事をしてくれんのはオレに対してだけだって、そう分かった。 (……嬉しい) レヴィがオレをどんな目で見ているのか。それを確かめるのはすっげー怖くて、今でも聞けないままだ。 でも、もし、少しでもレヴィの中に可能性があるのなら。あいつにとって、オレが特別な相手になれるのなら。 そんな風になれたら、オレは、いや、オレたちはきっと、どこまでも行けるような気がするんだ。 なんだって出来る気がしているんだ。 (行く末に『災厄』を産み落とすもの) 「『アスター』ですの。レヴィとは、家族……みたいなものですの」 「家族? けど、レヴィは姉か妹がいるなんて、そんな話」 「古い付き合いなんです。カッさん、もしまたチョコレートを持っていたら、僕に下さい」 「チョコ……持ってるけど。お前、あんま甘いの食わないじゃん」 「僕が食べるわけでは。アスターさんの好物なので」 (……なぁ、レヴィ。オレたち、ずっと一緒にいられるよな?) 「――うふふっ。明確で的確な敵意、悪意……今回は『嫉妬』かしらね? 相手はあのレビヤタンですものねっ。 人間って短命で儚くて、やっぱりお馬鹿で可愛いわ。うふっ、『神の匣』とのシーソーゲーム……楽しみね!」 |
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