・取扱説明書 ▼「読み物」 イラスト展示場 小話と生態 トップ頁 サイト入口・ |
||
楽園のおはなし (3-27) BACK / TOP / NEXT |
||
「……ご、珊瑚。……水、足にも吸わせるつもり?」 「……は? うわっ、たっ!?」 言われて初めて、爪先がずぶ濡れになっている事に気付く。じょうろを手にしたまま、珊瑚は足踏みをするようにその場で慌てふためいた。 鉄製の農具はどれも重く、負担をかけまいと自分から作業を願い出たばかりだ。横からそれを掠め取られ、黒羽根は情けなく立ち竦む。 「ええと、確かあとは香草類だけだったわね……あんた、大丈夫なの? 珊瑚」 「えっ、あ……や、はは。コレ、中まで濡れてら。ケイロンからの借りモンなのに」 「後で一緒に謝ってあげるわよ。いいから、靴履き替えてきて。これくらいの範囲ならわたしにも出来るから」 「でも、ねーちゃん」 「でも、じゃないの。ほら、早くしないと父さん達が掃除終わらせちゃうし……わたしの手だって、痺れきるわよ」 眼前、ゆったりとした造りの木綿のワンピースに身を包んだ白羽根が、柔らかくふわりと笑った。 ここ最近は見る機会のなかった穏やかな表情に、珊瑚は自身の胸が音を立てるのを聞く。弟の心情を察してか、真珠は小さく苦笑した。 ……さわさわと、爽やかな風が頬を撫でる。人間の世界は真冬の時期に入ったというのに、この場所は秋の入り程度の気候を維持していた。 姉が水たまりを平たい靴で踏んでいく。ねーちゃんこそ足びしょ濡れじゃん、と俄かに口を尖らせれば、お互い様でしょ、と真珠は笑った。 「ねえ、見て。これはミモザ、向こうのはラベンダーよ。おかしいわよね、ここの畑には季節なんて関係ないのかしら」 「……ねーちゃん」 「野菜も果物もいっぱいだし、食べるのには困らなさそうじゃない?」 アスターにも食べさせてあげたかったわ――ぽつりと呟かれた独り言に、珊瑚はぐっと言葉を詰まらせる。 アスター……それは最愛の姉が苦悩に苦悩を重ねてようやく産んでくれた、それなのに一目しか見る事の叶わなかった娘の名だ。 姉に似て綺麗な髪質だった。色こそ、自分達の髪を上手い具合に混ぜたような黒に近い灰色だったと、そう思う。 「アスターなら大丈夫じゃね? ……ニゼル達が、きっと上手くやってくれてるって」 口にしてから、胸を鋭い刃物で抉られたような心地になった。振り向いた真珠の訝しむような目に応える事が、今は出来ない。 あんたって昔から素直な仔だったわよね、白羽根は隠さずに苦笑する。ちらと視線だけを上げてみれば、困ったような笑みと目が合った。 「そう、そうなのよね。ニゼル達ならきっと上手くやるわ。あいつならわたし以上にきちんと『かあさま』を務めるでしょうね」 「ねーちゃん……もしかして、怒ってんの?」 「まさか。ニゼルには感謝こそすれ、怒りを向ける理由がないじゃない。わたしの具合の事もあるんだし、ここに来た事は正解だったのよ」 赤く熟れた林檎をぷちりともぎ取りながら、でもね、と姉はどこか遠くを眺めるような眼差しを果樹に向けて声を潜ませる。 「気に入らないわ。必要なのはわたしの胎とあんたの種だけ、そう言われたも同然よ。生まれたらお役御免って、そんな扱いあんまりだわ」 自分達はもっと怒ってもいい、暗にそう言われたような気がして、無意識に首を縦に振った。不意に放られた林檎を受け取り目を瞬かせる。 よく熟れた林檎だ。真っ赤な果皮は艶めいていて、ニゼルの好奇心に輝く赤紫の瞳や、ヘラのきめ細かな白い地肌を連想させた。 「だよねー……アスター、元気かな? 腹空かしてないかな、怪我とかしてないかな、誰かにイタズラとかされてないかな……」 ……黒羽根の神獣が偽造天使が隠蔽されていた塔を焼き払った、あの日。 事後処理をすると言って跡地に残ったヘラは、文字通り全ての片を付けてから、屋敷にいち早く帰還してくれたのだ。 治癒の天使ラファエルを同席させ、空の下という簡易的な場であったが、彼女は騒ぎを聞きつけたゼウス達にたった一人で応戦したという。 珊瑚の所業を責め立てられ、責任を追及され、果てには塔の弁償に鷲馬の両名を献上しろと詰られていたと、ラファエルからは聞かされた。 『無償奉公。珊瑚くん、君には当分、僕の先生の元で無給金で働いて貰う事になりました。要請があれば、ゼウス様方の元にも出向きます』 『え? 奉公って、タダ働きって……そんだけ? 大事な塔、燃やしたのに。神様方、カンカンだったんじゃねーの?』 『ええ、勿論です。ヘラ様が説得と交渉を重ねて尽力されたので、君や真珠さんは「多少不便な思いをする」だけのところに収まりました』 『はっ? って事は何かよ。ヘラはずっとオレやねーちゃん、お袋や親父を守ってくれてたって? 「女神さま」だってのに?』 『……昔からヘラ様はそういう御方でしたよ、珊瑚くん。護られる立場にありながら、有事の際は御自ら表にお立ちになられる方なのです』 それこそ、その話の詳細そのものは現在地に訪れる直前、真珠がアスターを産んだ後に彼女らを迎えに来た彼の天使から教えて貰えたのだ。 自身の師と地母神は常に連絡を取り合い、赤い豹以外の動向にも目を向けていたのだ、と。我が事のようにラファエルは寂しげに笑う。 『僕の師も大概ですが、お二方は本当に勘が鋭い上に手を回されるのが早いですから。あの手腕、僕はいつまでも見習えそうにありません』 古の時代に秘密裏に建てられたという、大神達でさえ遠巻きにし、近寄らずに放置していた巨大な塔。 カマエルの潜伏先であり、生体実験の根城でもありながら、件の塔は非常に貴重な建造物だったのだ、と治癒の天使は苦笑を漏らしていた。 (……もしヘラが口で負かされてたら、言いくるめられてたら。アスターだけじゃなく、オレ達も全員キザ男の手下になってたってワケか) 誰一人として味方のいない中、どのような交渉がなされ、どのようにヘラがそれらの私欲を跳ね除けたのか。珊瑚には知る由もない。 しかし、普段は飄々と殺戮を振り回すばかりの女神が、自分達の為にそこまでしてくれたのだという事実に――目頭が熱くなり、頭を振る。 『何故か、ですか。簡単ですよ。ヘラ様はあなた方を家族として愛されている。同じ地で同じ時間を過ごせるよう、取り計らわれたのです』 追憶の中で、治癒の天使は理解し難いとはっきりと口にしながら、それでも物悲しそうに、それでいてどことなく誇らしげに微笑んでいた。 自分も、今はそう思う。ヘラが賢い女性である事は十分に知っていた筈だが、実際の彼女は更に先を見通す力に優れた才女だったのだ。 ……感謝しても、しきれない。一刻も早く満足に勤め上げ、屋敷に戻る手筈を整えなければなるまい。珊瑚は拳を握りしめた。 ラファエルとケイロンの勤める診療所。ゼウス達の居城を遠くに臨む地に家族ごと住処を移され、早くも三日が経過しようとしている―― 「……ご、……珊瑚。そう、あんたはわたしの言っていた事を思いきり無視するつもりでいるのね」 「!? うぁいっ!?」 ――ふと、爪先にふにゃりとした奇妙な重さを感じた。はっと視線を落としてみれば、姉の平靴が自分の靴の先端を踏んでいる。 互いの靴はびしょ濡れのままで、踏みつける側も踏みつけられる側も、ぐじゅりと水気が滲み出る様をまざまざと見せつけられるままだ。 顔を上げたとき、珍しく真珠は悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべていた。否、仔を産んだ事で彼女は強くなったのかもしれない。 「どうせ、またラファエルの話を思い返していたんでしょう」 「うっ。そ、それは……そう、なんだけどー」 あんたって顔に出るものね、くすくすとくすぐったそうな声で笑われてしまうと、うなじのあたりがむず痒さを訴えてくる。 このひとには到底勝てそうにない、黒羽根は無駄な抵抗と知りながら、挑むような眼で白羽根を軽く睨みつけた。 「……なんてね、わたしも同意見よ。幸い、薬が合ってるのか調子がいいの。あとは傷に気をつけながら、体力を落とさなければいいのよ」 「ねーちゃん。じゃあ、」 「まだ本調子ではないけどね。でも、そうね。あんたの罪滅ぼしを済ませるのと一緒に、母さん達と揃って早く地上に帰りたい、が本音ね」 真珠の自信に満ちた表情に、珊瑚は内心安堵する。最悪の経緯で授かった娘を、彼女は懸命に愛そうとしているのだ。嬉しくない筈がない。 頷き返し、景気づけに赤い実に齧りつこうとしたところで――耳に届いた咳払いは、黒羽根の思考を奪い取るのに十分な威力を持っていた。 振り向いた先に、見覚えのある男の姿がある。珊瑚は咄嗟に、体を一瞬のうちに強張らせてしまった真珠の身を庇うように背に回していた。 「――罪滅ぼし、とは。そんな悠長な事を言える立場にあったかね? いや、君の犯した罪については贖いきれないものだとも、珊瑚君!」 穏やかな口調は最初だけ。ケイロンの畑に突如転移してくるや否や、現れたその男は赤い眼を怒りに燃やして、声を荒げながら寄ってくる。 ……庇っただけでは間に合わない! 黒羽根は即座に本来の姿を展開して、カマエルの眼前にその巨体を晒した。 「さっ、珊瑚、」 『ねーちゃんは下がってて! なあ、それ以上近寄んなよ……そこで止まっとけ!』 明確な威嚇。否、威嚇というよりは警告に近い。正面に自身の二倍はあるだろう鷲馬の体躯を見ても、赤い豹は表情の一つも変えずにいる。 それでも流石に立ち止まり、直後彼は常のようにこれを舐めるような目で見つめた。その視線が不快だ、と珊瑚は嘴をがちりと鳴らす。 ぶつかり合う、琥珀と赤色。次の瞬間、不意にくつくつと笑い声を漏らした赤い豹は、次いで大げさなほどわざとらしい嘆息を吐き出した。 「フフッ……まあ、概ね予想していた通りだとも。安心したまえ、珊瑚君。今後、私から君達に手を出す事は欠片の可能性もないだろう」 逸らされる視線、意味深な物言い。意味が分からず、珊瑚と真珠はカマエルの独り言めいた言葉にそっと目配せし合う。 赤い豹は、ぶつぶつと口内で何かしらの計算か、或いは呪詛じみた愚痴を連ねるばかりだった。これまでの態度とは明らかに様子が違う。 罠でも張られているのだろうか、そう踏んで素早くあたりを見渡す黒羽根だが、カマエルは自らそれを首を横に振る事で否定した。 「そんなに警戒せずとも。君達に実験素材としての価値が失われてしまっただけなのだよ、私も粗悪な材料に割く時間は惜しいのでね」 『!? このっ、』 「珊瑚! ……だったら何の用なのかしらね。ここにはヘラの加護はないかもしれないけど、ラファエルの守護範囲内には入っているのよ」 年月を経て、堅さと大きさを増した立派な漆黒の羽根に手を添えながら、真珠が珊瑚の体越しにカマエルに食ってかかる。 男は片眉を上げて白羽根をちらと見据えたが、最終的には鼻で笑うように失笑した。どこか諦めの意志を覗かせる表情に、二匹は息を呑む。 「ラファエル……ラファエル、か。フフッ、あの生真面目さだけがとりえの優等生が。君達こそ、あれを信用しきっていて大丈夫なのかね」 「……どういう意味よ」 「言葉の通りだとも。彼は大神の手先の一人でもあるというのに、そのような認識でいざというとき逃げ切る事が出来るのかね?」 「あっ……あんたに心配される謂われはないわ! わたしにあんな事しておいて、よくそんな事が言えるわね!」 「おや、望むまま交配を重ねて、望みのまま娘を授かったのではないのかね。結果としては私のした事は間違っていないと、そう思うがね」 姉の動揺が、手のひらを介して伝わってくるようだった。珊瑚は小さく身じろぎして、真珠に落ち着け、と暗に促す。 見上げてくる藍色の瞳。体を重ねた夜、そして彼女がアスターを産み落とした白昼に、自分は何があってもこのひとを護ろうと決めたのだ。 ……自分達は、きっとまだまだ幼い。ニゼルのように胆力が据わっているわけでも、ヘラのような確かな身分があるわけでもない。 だからこそ、今ここで口で負かされるような失態を犯してはならない。首を振り、一度人型に戻ってから、珊瑚は改めて赤い豹に対峙した。 「……おや? 原型変化などというパフォーマンスは終えたのかね、珊瑚君」 「はあ。わざわざムキになって、あんたに話のレベルを合わせてやんのも面倒くせーかなって思って」 ニゼルの姿を思い出す。考えろ、彼女はどうやってこれを手の上で転がしていたか――カマエルが片眉を上げたのを見て、珊瑚は薄く笑う。 「フフッ、面白い。随分と偉くなったような物言いではないのかね。私の手助けがなければ、君達は生まれてくる事もなかったというのに」 「あ、ソレ。親父に一服盛ったとか? あんた、結構姑息なマネすんの好きなんだなー。ニゼルならもっと上手くやりそうなのに」 その名を出した途端、赤い豹の顔つきが変わった。想定通りだ……彼らはあの塔の中でともに研究に勤しむ好敵手同士だったと聞いている。 「何故そこで、ラグエルの名を……君達は私の実験の副産物であるのだよ。敬意というものは教えられてこなかったのかね」 「感謝はしてるよ。オレやねーちゃん、お袋達も、とびきり可愛いアスターって家族を授かったワケだし。人生順風満帆って感じじゃね?」 「……何を、言いたいのかね?」 「だからー、あんたのやってきた事って全部オレらの為にしかなってねーじゃんってハナシ。ああ、悪ぶるのが趣味の慈善事業的な?」 「ちょ、ちょっと、珊瑚……!」 しかし、なんて事はない。思った事、考えさせられた事、或いは脳裏で反芻したここ最近の出来事を、ふと口に出してみただけの話だ。 途端に真珠が血相を変えて二の腕に掴みかかってきたが、姉至上主義の珊瑚にとってはこれもご褒美にしかならない。 「……ん? って事は、あんた結局ニゼル……今のラグエルにも負け続けって感じなんじゃね? さて。で、今のお気持ちはどんな感じで?」 双方の事情や関係性は、ニゼル自身から聞かされた程度のものしか把握出来ていなかった。饒舌に嫌み、ないし挑発を放ち、一度息を吐く。 予想していた通り、カマエルは顔を赤くし、また血の気を失せさせるほど青くし、固く閉ざした口の両端をぶるぶると震わせた。 ――流石に、少し言いすぎたか。後悔するよりもずっと早く、素早く伸ばされた手が黒羽根の喉元を鷲掴みしようとする。 「君達にっ……君達のような野蛮なものどもに! 私のこの崇高なる想いが、分かる筈もないだろう!!」 吐かれた言葉の意味を、鷲馬の姉弟は理解出来ない。想定よりも早く、思いのほか強い力が、珊瑚の年相応に逞しい首を易々と握り込んだ。 真珠が取り乱したように悲鳴を上げ、ふたりを引き剥がそうと間に入る。しかし、赤い豹の腕は彼女の細腕ではびくともしない。 「所詮、一時の使い捨ての駒に過ぎない獣め……悔い改めたまえよ、珊瑚君……!」 めきりと、何かが軋む音がした。いよいよ珊瑚がひゅうっと危なげな呼気を漏らした、まさにそのとき―― 「悔い改めるのは主じゃろうッ、この莫迦弟子めぃ!!」 ――ゴッツン! ごとり。 突如として鳴り響いた物音に視線を彷徨わせる間に、眼前、カマエルの頭がぐらりと大きく不気味に揺れ、その場に彼をへたり込ませる。 勢いよく咳き込む弟の背中をさすってやりながら、真珠はふと、足元に見覚えのある物体が転がっているのを見つけて眉を潜めた。 ……「ビールジョッキ」だ。それも、この診療所の主や珊瑚が好んで用いるような、ガラス製のとびきり大きく、頑丈に作られているもの。 ひび一つ入っていないあたり、持ち主が「盟友、ヘパの特注品よ!」と自慢していた事は事実だったのだ、と場違いに感心させられる。 「……久しぶりに姿を見せたと思うたら、これよ。主、手土産の一つもなしに情けないとは思わんのか。思わんのじゃろうのう、カマエル」 軽快な蹄の音が鳴り、姉弟に寄り添うようにしてしゃんと立った。見上げた先で、ジョッキを投げた張本人がにやりと意味深に笑っている。 「ケ、ケイロン……」 「うむ。すまなんだ、ちぃと遅れたわ!」 「……でしょうね。口の端っこに、ビールの泡ついてるわよ」 カラカラと悪びれもせずに笑う魔獣医師に、真珠は屈み込んだまま苦笑いを返した。手を差し出され、弟ともども厚意に甘えて立ち上がる。 一方、直撃を受けて悶絶していた赤い豹は、喉奥で唸りながら辛うじて身を起こした。盛大に頭を振ると、男は自身の師を睨み上げる。 「師匠……私の、邪魔をなさるおつもりか」 立ち上がれないところを見るに、ダメージは深刻なものであるようだ。目を血走らせるカマエルの言を、しかしケイロンは笑い飛ばした。 「何が邪魔じゃ。ここは種族不問の神聖なる診療所じゃわ、莫迦たれぃ。復讐とやらに勤しみたいなら、先にラグエルでも片付けてこんか」 会話の中身は非常に不穏だ。ぴいっと肩を跳ね上げた珊瑚を宥めるように彼の肩に手を乗せ、真珠は対峙するふたりの顔をそっと観察する。 元より適う相手ではないのだろう、カマエルは屈辱に塗れた表情で医師を見上げ、座り込んだまま微動だにしない。 昔からこうして丸め込んできたのだろうか、ケイロンは涼しい表情で、弟子の一人をからかうような笑みとともに見下ろした。 ふと、医師は前屈みになり、転がしていた鈍器を拾い上げる。重さは相当の筈だが、彼はこれを片手一本でくるくると器用に回して見せた。 「まっ、復讐話も休憩も、こんなところで済ませる必要もなかろうて。ほれ、いつまで呆けとるんじゃ。皆、さっさと着いてこんか!」 鷲馬の姉弟は、困り顔で互いに顔を見合わせた。言い終えるや否や、ケイロンはこちらの意見を聞きもせずに診療所内に戻っていく。 いつもこうなの、思わず独り言じみた質問を白羽根が投げれば、いつもに決まっているとも、赤い豹は臓腑を絞るような声で呻いてみせた。 着いていくより他にない――姉と弟は無言で頷き合い、そろそろとじょうろを片付けて屋内に戻る。数分遅れて、カマエルもそれに続いた。 |
||
BACK / TOP / NEXT UP:20/07/13 |