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楽園のおはなし (3-21)

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その日、ニゼルは夢をみた。

……大海原だ。気がつくと、真っ暗な大海原の上に立っている。周りは雨風と雷に酷く鳴らされ、足元の甲板はぎしぎしと不気味に軋んだ。
船だ、元は立派な帆船であっただろう船の上にいる。上を見れば分厚い黒雲が群を成し、豪雨も暴風もまるで収まる様子がない。
今は残されているものの、帆を畳んだマストがいつ折れるか分からなかった。体が風に煽られてよろめき、慌てて手近な木箱に縋りつく。
立っているだけで精一杯だという状況下、いつ自分がこの場に降り立ったのか、ニゼルにはまるで見当がつかなかった。

『藍夜? いないの!?』

たまらず一番身近な、最も信頼するひとの名を呼ぶ。返事は返されない。涙を払うように手で顔を雑に拭い、歯を食いしばり立ち上がった。
これは夢だ――頬を打つ雨風に冷たさや痛みは感じられない。初めてヘラと邂逅した夢に同じく、恐らく独りで進まなければいけないのだ。
実感とともに手すりを掴む。雷雨の最中、一瞬、刹那のうちにぱっと明滅する視界の先。ニゼルはふと人影らしきものを見て目を凝らした。
人影は二つ。片方は漆黒のような、真夜中のような、曖昧な髪色の少年だ。向かって左に立ち、睨むような目でこちらを見ている。
もう片方は更にその奥、船首より手前の位置、少年とは逆の向かって右に佇んでいた。こちらは白髪か銀の髪で、少年と似た年頃の少女だ。
どちらも神殿勤めのような、白い綿か麻で仕立てられた簡素な服を着ている。この天候の中、ニゼルと違い微動だにせずそこに在った。

『……誰?』

見覚えは、ない。いや、そう思考した直後、二人とは古くからの顔馴染みのような気がして混乱しかける。
頭を振り、もう一度慎重に目を凝らすと、二人はふとこちらを見つめたまま、船首の方へ向かってついと指を差し示した。

『来るのも気付くのも遅いんだよ。これだから元人間風情は』
『……兄さん』

二人の元へなんとか駆け寄った折、少年から突然罵倒に似た暴言をぶつけられる。身に覚えのないニゼルは、わけが分からず瞬きを返した。
少年の横に歩み寄る少女が、彼を兄と呼びながら窘める。二人は兄妹なのだろうか、首を傾げていると、双方はもう一度奥を指差した。

『さあ。あなた様の「成果」は、すぐそちらに』

少女に促された瞬間、いやな予感が全身を駆け抜け、冷たいものが背筋を這う。再度顔を手で拭って、ニゼルはそっと歩を進めた。
……船首の手前に、もうひとつ、人影がある。
黒に近しい濃い灰色の髪に、小柄な体格。雨風に晒される真っ白な洋装。その衣服は昨日、白羽根が赤い豹に裂かれたものによく似ていた。
顔を白い両の手で覆い、その表情を伺い知る事は出来ない。泣いているようにも、怒り狂っているようにも見える。
知らず、ごくりと喉を鳴らした。豪雨の合間に、すすり泣くような微かな声が漏らされ続けている。

『……の』
『えっ?』

耳を澄まし、目を凝らした。か細い声はしかし、何故か強風の中でも――耳元で直に囁かれたようにはっきりとして聞こえてくる。

『わたしが悪いんですの。真珠かあさまは悪くないですの。わたしが悪いんですの。全部……わたしが悪い子だったからいけないんですの』

泣き声は、眼前の少女が零すものだった。刹那、すぐ近くに雷が降る。ニゼルははっとしたように、謎の謝罪を止ませぬ少女に向き直った。
恐らくは、手を外した先に愛らしい小顔があるのに違いない。手を伸ばしかけて、ニゼルはふと足下に感じた違和感に視線を落とす。
……林檎の実だ。不思議とそれは美しい白銀で出来ていた。否、それは決して鉱石の類で造られたものではない。元から凛と輝く銀色なのだ。

『知恵の実? なんで、ここに……』

自身が管轄する神々の至宝、知恵の樹。その枝先に凛と実る筈のそれが、何故かひとつ、ふたつと足下にころころ音を立てて転がってくる。
雨は激しさを増し、足下はくるぶしのあたりまで水に浸りつつあった。船は沈んでもいないのに、とニゼルはばっと顔を上げる。

『ちょっと待って! 君は……君の名前は!? どうして知恵の実をっ、』

この少女が原因なのか、それとも。半ば反射と直感でそう問いただしたニゼルだが、いつの間にか少女は手のひらを腰の横に降ろしていた。

『そうよ。全て「わたし」が悪いの。アナタのせいよ』
『っ!? 君は、もしかして……』

目の当たりにして、目を見開く。その瞳の中に、件の種子と同じく、ぼんやりと霞んで輝く美しい琥珀色が満ちていた。
「この少女は、あの種子そのものであるのに違いない」。そんな予感が否応なしに確信へと変わる。
無感情をたたえた無表情が、言葉をなくしたニゼルを正面切って見つめ返していた。ぞっとするような、憎悪と冷酷の眼差しだ。

『アナタがわたしを造ったの、アナタがかつて「宿したモノ」を原材料に。だからこんな事になるのよ、忘れたとは言わせないわ』

その視線の先に、自分はいない――ニゼル越しに、彼女は「真実まことの母親」を見ている。胸が引き裂かれるように、ずきりと痛んだ。

『……ごめん。悪いけど、俺はアンジェリカとは別物なんだ』

本心からの否定。少女は、訝しむような眼でこちらを見上げる。ニゼルは苦笑の中に複雑な心境を混ぜながら、彼女に悲しげに笑いかけた。
そのときだ、船首の奥、海の彼方からどっと鉄砲水のような波がやってくる。津波と見まがうそれに体を浚われ、ニゼルは口を閉じた。
伸ばした手が掴み返される事はない。悲鳴を上げる暇もなく、後ろへ、後方へ……夢の先、現実世界へと意識ごと引きずられていく。
――そうか、無事に「宿された」のか。
目が覚める直前、今代のラグエルはそう確信しながら夢うつつの間に拳を握りしめた。夜明け前の冷たい空気の中、静かに一人、目を開く。

「……にぜ、る? もう、朝かい」

……否、隣にはいつもの如く審判官の天使が横になっていた。彼の寝起きの悪さは今も健在だったが、不思議と端に押しやられる事もない。
寝返りを打ち、藍夜に向き直って苦笑する。自分が件の実験を成した天使であろうと、彼は「傍にいる」と約束をしてくれていた。
沈んでなどいられない。これ以上の味方はいないと、改めてそう思う。

「ううん。まだ夜明け前だよ、また早起きしちゃっただけ」
「うん? そう……なのかい。そうか……」

彼がいる限り、自分はアンジェリカのようには決してならない……夢の中で出会った「成果」は頷きもしないだろうが。緩く嘆息した。
二度寝を始めた友人の髪に触れながら、心地よい微睡みに目を閉じる。もう一度目を開いたとき、新たな戦いが待っているのだ。
気合い入れていかなきゃな――眠気とは相反する思考を巡らせながら、ニゼルはぼんやりと薄れる意識を薄闇の中に手放した。






木枯らしが通りすぎ、やがては綿のような白雪が降るようになった頃。ばたんと自室の窓を開け放ち、ニゼルは身を乗り出して外を眺めた。
季節は冬。吐く息は目の前で白くけぶるばかりで、ふと頬を撫でた風は思った以上に冷たく、身震いをして室内に体を引っ込める。

「藍夜っ、あーいや!」

奮起するように苦笑いしながら、戻った足で寝台へ向かった。時計の針はとっくに九の刻を指しているというのに、親友は未だに夢の中だ。
無駄な抵抗とばかりに布団にくるまったままでいる。この寝起きの悪さは鳥羽藍夜の特徴の一つだが、審判官にはそんな癖はなかった筈だ。
ガブリエルはどこまで彼に鳥羽藍夜を写し込ませたのだろう……毎朝再考する疑問に首を傾げ、ニゼルはやはり毎度の如く布団を掴んだ。

「ほらっ、藍夜! 朝だよ、もうお昼前だよ!!」
「……うう、ん」

恒例行事とばかりに布団を剥ぎ取り、籠城を決め込んでいたところを叩き起こす。芋虫さながらの丸い姿勢に、失笑せざるを得ない。
いつものきりっとした言動と裏腹に、藍夜は寝ぼけた声で不満の息を漏らした。構わず布団をベッドの端に追いやり、体を容赦なく揺する。
……対のサラカエル曰く「甘やかしすぎだ」という話だが、オフィキリナス時代の習慣が染み込んだ二人に彼はそれ以上を指摘しなかった。
お子様とか思われてるんだろうなあ、親友が起き上がった頃合いを見て水差しを手にとりながら、件の天使の苦い顔を思い出して苦笑する。

「……ぅおはよう、にぜる」
「おはよう、藍夜。ほら、顔洗ってきなよ」
「うん……おやすみ」
「はいはい……ってこら! 寝ないのー! ほらほらっ、今日は大事な日でしょー!?」

案の定、寝直そうと体を前傾させた藍夜の背中をばしばしと叩いて無理やり立ち上がらせ、彼が自分から歩き出すまで洗面台に押しやった。
ふと、鏡の前で藍夜が立ち止まる。どうしたのか、と同じく鏡を覗き込み、ニゼルは彼とともに銀光沢の中で自分が首を傾げる様を見た。

「大事な日……そうか、そうだったね」

不意に視線は鏡から外され、伏せられた睫毛が悩ましげな表情に影を作る。憂いを帯びた顔を見上げて、ニゼルは一瞬言葉を詰まらせた。

「そうだよ。真珠が『あの子』を産む日。予定は未定だって、ケイロン先生は言ってたけど」

「予定日」だ――昨日の昼頃から、白羽根の神獣は琥珀色の種子の排出の兆しを見せている。件の事件から、既に一年が経とうとしていた。
ヘラが機転を利かせて呼んでくれていた魔獣医師の話では、分娩が済まされるのは早くて今日のうちだという。
ニゼルは付きっきりでの世話を望んだが、やんわりとケイロンに退出を促され、藍夜ともども早々と休息をとるよう言われてしまっていた。

「予定日、か。まさか丸一年も掛かる事になるとはね。ウマの生態に準じているのかな」
「どうだろうねー、それだって完璧な見込みじゃないわけだし。一緒にいてあげたいよ、俺だって真珠が心配なのに」
「そう言うものではないよ、ニゼル。ケイロン先生も分かっている筈さ……その種子とやら、誰を親と定めるか、分かっていないのだろ?」

ニゼルは親友の言葉に顔を伏せ、ちらと彼を盗み見る。藍夜は、いつにも増して静かで真面目な顔をしていた。

「珊瑚もよく言えたものだね。『気になった屋敷の住民を親として見なせ』、とは。この歳で子持ちになれと、そう言うのだからね」
「うーん。って、あれ? 俺も藍夜ももうそこそこな年齢じゃない? 麓の街の長、何回変わってると思ってるの」
「……そういえば、天使とは長寿な生き物だったね」

む、と考え込むように顔を歪めてから、親友はさっと外見を整える。後ろで髪を三つ編みに結ってやり、ニゼルも自身の髪を一つに纏めた。
すぐに目的の部屋へ足を急がせる。事は既に始まっていたようだが、難航しているのか、扉の向こうからは悲痛な呻き声が零されていた。

「真珠、珊瑚! ケイロン、開けるよ、開けたからねー!」

返事を待たずに入室する。叱られるかもしれないと内心身構えていたニゼルだったが、室内の様子を見て一歩踏み出した格好で固まった。

『ゥ、ウ……いっ、たァい……っ!』

目の前に広がるのは、真っ白な羽根だ。白羽根の神獣は、ニゼル達を軽々と乗せられそうな巨躯の原型に戻り部屋の中央で悶えている。
その横で、人型を維持したままの珊瑚がおろおろと狼狽えていた。彼は彼なりに、姉の翼を撫で、毛を撫で、と懸命に初産を励ましている。

「うむ、来よったか」
「あっ、ケ、ケイロン。あの、真珠は?」
『見ればッ……分かるでしょっ、いッ、いった、痛い! もうっ、ふざけないでよ……!!』
「ちょ、ちょっとねーちゃん、落ち着いて……」
『落ち着いてたら産むもの産めないじゃない、ッこのっ……』

羽ばたきが空を撫で、強風が駆け抜けた。暴れかけている真珠を宥めようと、ニゼルは腕まくりをして彼女の嘴の横に駆けつける。
ガチガチと鳴らされる白い嘴。痛みと恐怖が勝るのか、真珠の横顔にいつものような気高さや余裕が欠片も見当たらない。
いつからこうしていたのだろう、彼女は疲労と激痛で我を忘れかけていた。失神せずにいるのは、真珠なりの自尊の現れかもしれない。
しかし、同じく原型で出産した彼女の母はここまで苦労をしなかった筈だ。ニゼルは羽毛越しにケイロンを見るが医師は頷くばかりでいる。

「見てみい、ラグエル。こっちじゃ」
「えっ、あ……」
「ニゼル。ここは僕が代わるから、見てきたまえ」

ケイロンが屈んでいるのは、真珠の下腹部のあたりだった。琥珀達の姿が室内に見つけられず、ニゼルは強い戸惑いを覚える。
藍夜に促され、急ぎ医師の横に駆け寄った。屈んでいるのを見習って顔を上げると、牧畜家であった頃に体験した光景を目の当たりにする。

「え、でも、これって?」

困惑は一瞬だった。眼前、鮮血を主体とした体液に濡れに濡れた手のひら大の丸い塊が、産道から半分ほど外に露出している。
これがあの種子なのか。種子というよりは謎の果実にしか見えない。ふとケイロンが手を伸ばすと、彼の手は宙の一点で止まってしまった。
倣うように手を伸ばしたニゼルは、ぐにゃりと気色の悪い感触を感じて顔を歪める。隣の医師が小声で、結界のようじゃ、と補足した。

「結界? この、ぶにぶにしたカエルの卵みたいなやつ?」
「主、なんちゅー言いぐさよ。うむ、ワシは触れなんだ……もっと言うとの、出産の女神やこやつらの両親も、じゃがの」
「琥珀達も? じゃあ自然分娩しか……って、そんなの待ってられないよ! 真珠、凄い血が出てるじゃないか!」

何が結界か、おおかた種子が白羽根を苦しめようと悪足掻きしているのに違いない――無色透明のゼリー状の結界を、強引に掻き分ける。
ケイロンが止めるのも聞かず、ニゼルは両足に力を入れて球体を鷲掴みにした。そのまま真珠の呼気に間を合わせ、一気に引き寄せる。

『……ッ、〜〜っ!!』
「真珠、ファイト! 俺ならここにいるからっ!!」
『う、ぅっ、に、ニゼルぅ……!』

産ませなければならない。白羽根の足下に広がる染みの量に震撼したニゼルは、彼女の助けとなるべく膨らみきった塊を取り出そうとした。
自分はこれの創造主だ、予想していた通り、裂かれた結界が干渉してくる事もない。思わず、口端をにやりと釣り上げる。

(部外者には触られたくないって言いたいの? そっかー、『母親』によっぽど固執しちゃってるんだ)

とはいえ、女の非力な腕では力不足か。逆に引きずり込まれそうな感覚が腕を支配し、ニゼルは負けるものか、と意地を込めて歯を噛んだ。
強い、強すぎる――そのときだ。珊瑚でも、藍夜でもない、しかしどこか妙に見覚えのある腕が、音もなく突然横から突き出される。
その無骨な手は倣うようにしてすぐに果実を掴んだ。ニゼルが驚いて目を見開いた直後、腕の主の双眸がこちらをじろりと見下ろしてくる。

「ノク……うわっ!」
「――よそ見してる場合か。前だけ見とけ」

白金の髪、夜の瞳、目つきの悪さ。名を呼ばれたノクトは、感情の籠もらない顔でニゼルを見た。もう一度だ、そう言われているのだ。

(いつから? なんで種子の事知って……ううん、どこから聞きつけてきたの!? でもっ、今はそれどころじゃ……)

気を取り直し、二人で塊を掴み直す。そうでもしなければ強い吸引力に負け、白羽根の体内に捕らわれてしまいそうな予感があったからだ。
突如として姿を見せた喰天使。言いたい事はたくさんあるが、今はそれをしている暇はない。促されるまま、全力で球体を引っ張った。
ぶちぶちと奇怪で不気味な音が断続的に鼓膜を突き、たまらず悲鳴を上げそうになる。しかし、目の前で真珠が奮闘しているのだ。

(こんなの、アルジル羊のお産をちょっと大きくしてやっただけってとこだよ……弱音なんか、吐いてられないんだって!)

歯噛みしながら、しかし未だに抵抗を続ける種子を外に引きずり出した。ぼとんと軽い衝撃音とともに、それはニゼル達の前へと落下する。
血濡れのそれ、液体を滴らせながらも、やはり今も鮮やかに琥珀色に明滅する球体。それの見てくれは、知恵の実……林檎に酷似していた。

「う、で、出た……生まれた、って事?」
「ニゼル、無事かい! ……何故、君がここにいるのだい。ノクト」

思わずへたり込むと同時、親友が駆けつけてくる。崩れ落ちるように座り込んだ真珠と珊瑚も、疲れた様子でこちらに振り向いた。

「藍夜。あの、俺……」
「ね、ねーちゃん、真珠ねーちゃん! う、うま、うまれっ、」
『珊瑚! ……ねえ、ちょっと。それ、そいつ。こんな時に、一体、どういうつもりなのよ』
「そうとも、真珠。君の言う通りだとも……もう一度聞こうじゃないか、何故、呼ばれてもいない君がここにいるのだい。ノクト」

その場に居合わせた面々の視線は、やはり唐突に姿を見せた喰天使に釘づけになる。ニゼルもまた、困惑しながら改めてノクトを見上げた。
彼と会ったのは、百年以上は前の話だ。これまで何の音沙汰もなかったというのに、何故このタイミングで屋敷に入ってきたのだろう。
呆然としたままのニゼルを余所に、藍夜が一歩前に出る。ニゼルから見れば、親友の横顔は強い怒りと憎悪に震え出しているようだった。

「……何故って、聞くまでもねぇだろ。あのときと同じだ、仕事だよ。早速で悪いが、こいつは俺が貰っていくぞ」

おもむろに伸ばされた手は、落下したままの美しい果実を慈悲深くその両腕に抱き上げる。
それは、かつてオフィキリナスを襲撃したときと同じような、理不尽で一方的な強引な仕事の宣告だった。冷たい夜色がこちらを見ている。
彼はいつから、自分達をこんな目で見るようになったのだろう。一体誰の指示で、こんな非情な事を成そうとするのだろう。
幻のように霞む藍夜の怒声を聞きながら、ニゼルはぼんやりとその場に座り込んでいた……部屋の扉が開け放たれたのは、その直後の事だ。





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 UP:20/04/28