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モンスターハンター カシワの書 上位編(47)


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前略、オトモアイルーのリンクニャ。ベルナ村から中継でお届けするニャ。
ちょっと前まで流浪の冒険者をやってたボクだけど、今はネッコワークの要請もあって「クリノス=イタリカ嬢」のオトモを続けているニャ。
旦那さんは現役のハンターさんだけど、実はドンドルマに本店を構えるイタリカ商会の御令嬢でもあったのニャ。
お祖父さんはやり手の商人だし、ご両親だってお仕事頑張ってるから小金持ちニャ。旦那さんを愛でるついでに、ボクにもマタタビいっぱいくれるのニャー。
かといって、旦那さんがゼニーや権力を振りかざしているところは(今のところ)ボクは一度も見たことないニャ。
旦那さんには旦那さんなりのポリシーがあるみたいで、素材も装備も全部自分で集めることが重要だって常々言ってるニャ、真面目だニャ~。
そんな旦那さんだけど、根っこはうんと腕の立つ双剣使い! ボクと同じで、色んなところを旅しながら助っ人してたって聞いてシンパシーを感じたニャー。
口達者で負けん気が強くて、獣人みたいなパチッとした眼がカワイイ人ニャ。あとは、お肉とレア素材が大好きで、それからそれから……

「だからクリノスは、わ、た、し、と、狩りをしに行くの。あなたの出番はないの、早く屋敷に帰ったらどう? お父様も案じていらっしゃるでしょうから」
「父様は関係ないでしょう、姉様!! それを言うなら、いっそ三人で記念すべき初の共同狩猟に臨めばいいじゃないですか!」

……そう、なんでボクが改めて旦那さんについて解説する気になったかっていうと、現状を嘆き憂いているからに決まってるニャ。
旦那さんといえば妙な人たちに好かれることがちょいちょいあって、たまーに仕事の手が止まることもあるのニャ。モテるオンナはつらいのニャ~。
今だってやっとポッケ村から出てこられたと思ったら――ユカさんは『ギルドの仕事とチャイロさんの具合を見たいから』って言って雪山に残ったけど――
二人のハンターに挟まれて身動き取れなくなってるニャ。片方はポッケ村から着いてきたステラさんっていう知ってる人だけど、もう片方は知らない奴ニャ。
どっちも村に着くなり旦那さんと狩りに行くって言って聞かないのニャ。旦那さんの腕が知られてることは嬉しいけど、モテるオンナは以下略ニャー。

「あ、あのねえ、ステラ? わたし、あんたと狩りに行く約束した覚えなんてないんだけど?」
「約束? してないけど」
「してない、なら行く宛てすら決まってないってことでしょー!? わたしは女将さんのチーズフォンデュ食べるんだから、離して!」
「姉様ばっかりズルいですよ! クリノスセンパイ、姉様とは何回も狩りに出てたんですよね? 今日はボクと行きませんか、お役に立ちますよ!?」
「っていうかそう言うあんたは誰!? 先輩ってカシワじゃあるまいし……あんたみたいな後輩持った覚えないんですけど!?」

ニャイ。モテるオンナはつらいのニャ。

「旦那さん、旦那さん。お困り現在進行形ニャ?」
「……はっ! りっ、リンクぅー!! こいつらどうにかしてっ!」

けどそろそろ旦那さんも限界みたいだからボクが助太刀するニャ。これで二対二、ボクと旦那さんなら勝率百パーセントニャ!
話しかけた瞬間、旦那さんは二人組を振りきってボクに抱きついたニャ……これで旦那さんの中で誰がヒエラルキーの頂点に位置しているのか、分かるはず。

「リンクくん……で、でもチャチャとカヤンバだって可愛いから。わたしは、知っているんだから……」

オトモを愛でるハンターさんって、意外と多いのニャ。ボク知ってるニャ。

「せ、センパイ!! ボクっすよ、ほらっ、いつかタンジアで食事代を立て替えてもらった……覚えてませんか!? あの女王エビの炙りを……!」

ハンター飯って、世間一般からすると実は結構な高級品ニャ。それを女子にたかるオトコなんてろくでもないし、ましてや旦那さんが相手ならなおさらニャ。
というか旦那さんが全力でボクを頼っているのが見えてないあたり……こいつの扱いはカシワさん以下で決定ニャー。

「タンジア? 女王エビ? なんの話? っていうか姉様って……もしかして、あんたが前にステラが言ってた――」
「――クリノス? それにステラ! どうしたんだよ、こんなところで」

いい加減、しつこいオトコは嫌われるニャ、って手を叩き飛ばしてやろうと思って構えたとき。
オトモ広場の方からノコノコやってきた聞き覚えのある声に、ボクたちは活路を見出したような気がして顔を上げたのニャ。
悔しいけど、その人はいつだって物事の諦めが悪かったし、旦那さんとは狩り友の仲だし、なにより……いざってときの火事場力が凄いハンターだったから。

「……カーシワァー!! おっそい! どこで何やってたの!?」
「どぅわあっ!? ひでぶ!!」
「旦那さん、旦那さん。竜巻旋風脚なんてカシワさんにはもったいないニャ。ソニックブームくらいで許してあげた方が建設的ニャ」

この、ボクの眼と鼻の先でノびちゃってるのがカシワさんニャ。旦那さんの現相棒で、同じ龍歴院つきのお仲間ニャー!

「くっ……お前らぁ……相変わらず結託してからにぃ……あのなあ、俺だって遊んでたわけじゃないんだぞ!? ちゃんと仕事はしてたんだからな!?」
「あー、ハイハイ。わたしもだけどね。ふーん……怪我はしてないか。じゃ、早速頑張って行ってみよっかー」

ソッとさりげなく溜め込まれた依頼書の束を押しつけられて、カシワさんは目をぱちぱちさせてたニャ。
旦那さんとカシワさんにはハンターとしての経歴に大きな差があるから、こうやってたまーに荒療治してテコ入れしてるんだ、って旦那さんは言ってたニャ。
けど、最近のカシワさんは率先して仕事を頑張ってるみたいだニャー。腰のポーチの中から漂ってきてるのは、霞の銘持ちっぽいニオイだったし……

「なんだこれ? って、これ俺とお前宛てに発行されてる依頼書だろ! なんで俺一人にやらせようとしてるんだ!?」
「え? だって仕事好きでしょ?」
「それは俺よりユカの方だろ! でもあいつ、今頃ドンドルマかポッケ村で忙しくしてるはずだから……」
「え? ユカ? 誰それ、知らない人ですけど」
「えっ、怖っ……なんだよ、また喧嘩でもしたのか……?」

……とにかく、旦那さんとカシワさんはそれなりに上手くやれてる方ニャ。
さっきからステラさんと、ステラさんの周りをちょこまかしてるカシワさん以下がやきもきする程度には。

「ちょっとセンパイ! カシワさんを構うより、姉様かボクと話をする方が先なんじゃないんですか!?」
「うわっ、クレタ!? お前、村長たちと話をしてたんじゃ……」
「カシワさんは黙っててくださいっす! どうです、センパイ? ボクはカシワさんと違って根は勤勉だし、飲み込みだって……」
「――クリノス。手が空いてるなら仕事をしよう。龍歴院から依頼、出されているんでしょう」

「うわぁ、まだいた」。
全員から詰め寄られて一瞬そんな顔をした旦那さんだったけど、ボクが間に入るより先にまとめて一括スルーすることに決めたらしいニャ。
まっすぐアイルー屋台に向かっていって、真ん中の席にどかっと座って、ボクが隣に座れるように右隣のスツールを手でぺしぺししているのがその証拠ニャ。
慣れた感じでカシワさんは左に座ったし、ステラさんも後ろの空席を陣取ったからボクも着席しとくけど……やっぱり、モテるオンナはつらいのニャ~。

「なあ、クリノス。お前、結局クレタとは知り合いだったのか。俺はさっき、ゲリョスマンとクレタの三人で森丘から帰ってきたばっかりなんだけどな」
「っていうかゲリョスマンて誰? さあ……わたしは知らないしねー。一緒に狩りに行ったことがあるなら、覚えてたかもしれないけど」

いつもみたいに女将さんが二人分のチーズフォンデュを出してくれて、僕はそれを横眼にオトモ用のデカデカチーズを頬張ったニャ。
たまーにカシワさんに「それだけで足りるのか?」って聞かれるけど、これはこれで美味しいから満足ニャ~。

「そうか……クレタはお前のこと、かなり尊敬してるみたいだったからな。一緒に狩りに行ってもいいかなって俺は思ってるんだけど、どうだ?」
「あっそう。だからそれよりそのゲリョスマンって……や、別にいいや。わたしも色々あったし。今は仕事したくなーい」
「なんだよそれ? そうだ、アルは一緒じゃなかったのか? お前たちとポッケ村に寄って、そのあとは渓流に向かったって聞いてるぞ」
「えぇ? マイハウスあたりにいるんじゃない? 先にベルナに戻るって言ってたのアルくんだし。あんた、どうせまっすぐノアちゃん家に行ったんでしょ」
「うっ、そ、それは……! お、俺にも俺なりの事情ってやつがあったから……!!」

旦那さんとカシワさんは、ここしばらくの間離れていたニャ。もちろん色んな都合やタイムラグが絡んでいたせいなんだけど、情報交換は大事なことニャ。
ボクは早々とチーズを食べ終わっていたから、仕方なくマイハウスあたりにいるであろうアルフォートを迎えに行くことにしたニャ。
なんてったって、チャイロさんだけじゃなくアルフォートもボクがいないとダメダメなのニャー。多分雇用主が口下手なせいニャ。確率六十パーセントニャ。
皆して言いたいことがあってもモジモジしてるタイプ揃いだから、旦那さんみたいな人と一緒にいたいなら早く改善して欲しいところニャ。難しいかニャ?

「……クリノス。仕事、行こう?」
「うわっ、ステラ……あんたまでそんなこと……」
「センパイ! せーんーぱーいー! やっぱりカシワさんよりボクの方が……!」
「あー、もう! いっぺんに喋んないでよ、鬱陶しいっ!!」

振り向きざま、業を煮やしたように席を立ったステラさんが旦那さんににじり寄っていくのが見えたニャ。
旦那さんはユカさんにドス偉い目に遭わされたから仕事を休みたがってたはずなんだけど、実際旦那さんが双剣を振るう姿は最高にクールで格好いいニャ。
考えてみたら、旦那さんがモテるのもきっと仕方がないことなのかもしれないニャ~。誰かの憧れになれる人って、貴重だニャ。
だから、カシワさん以下――カシワさん曰く、クレタって名前の人らしいニャ――の奴も全然懲りずに旦那さんを口説きに掛かってるみたいだニャ。
なんかカオスニャ、かつ、旦那さんモテモテニャ……こんなの見てたら、ユカさんもうかうかしてられないと思うんだけどニャー。

「――ニャイィ! リンクさん! 旦那さーん!!」
「あ、噂をすればニャ」

とかなんとか、考えごとしてたらアルフォートの方からコッチにやってきてくれたみたいニャ。
久しぶりに、龍歴院つきのボクたち四人が揃ったニャー。それならきっと、旦那さんの意に反して狩りに行くことになる確率九十パーセントニャ!
だって、ボクも本音を言うなら早く旦那さんの双剣捌きが見たいし……中継もこのへんにしておくニャ。現場からは以上だニャー!!






「アル!! 久しぶりだな、元気にしてたか!?」
「旦那さーん!! 元気にしていましたニャ、旦那さんもお仕事お疲れ様ですニャ! 無事でよかったですニャァ……」
「聞いたぞ、ガノトトスを狩ってきたんだろ? 凄いじゃないか! ……って、それよりずっと連絡もしないままで悪かった。お前も無事で、よかったよ」

感動の再会――龍歴院前正面庭園で別れて以来、ドンドルマにポッケ村とすれ違いが続き会えていなかったハンターとオトモは、熱くひしっと抱擁し合った。
一連の流れをステラとクレタに挟まれる格好になりながら眺めていたクリノスは、チーズフォンデュを頬張りつつニヤニヤしている。
要はアルフォートを目で愛でているだけなのだが、両隣の……特に狩猟笛を担いでいる方は、自身のオトモと別の拠点で別れた不満からか唇を尖らせていた。

「旦那さん、狩りの帰りなんですニャ? 森のニオイがしますニャ」
「うんっ? 森? ああ、森丘に行ってきたんだ。そこのクレタと、あとゲリョス素材の防具を着たゲリョスマンっていうハンターと一緒にな」
「ゲリョスマン、ですニャ?」
「そうそう、ゲリョスマン。見せたかったなあ、二人とも凄かったんだぞ!」
「……仲、いいね。カシワとアルフォート」
「まーね、わたしとリンクよりはまだまだだと思うけど」

それにしてもゲリョスマンて誰なの、ツッコミのタイミングを見失った双剣使いは三串目――後輩狩人が食べ余した二串目だ――をチーズ鍋に突き入れた。

「それで、アルはどうしてたんだ? 確かクリノスやチャイロと一緒だったんだろ……」
「ちょっと、カーシワー。近況報告も大事だけど、あんたはこれから仕事に行くつもりなんでしょ。ちゃんとネコ飯、食べときなよ」

空になった串でチョイチョイと手招きされて、カシワはアルフォートとともに促されるまま屋台に戻る。
代わりにステラたち姉弟を手をひらつかせることでさりげなくこの場から追い払い、クリノスはあらかじめ注文していた肉料理に手を伸ばした。
合流すると同時、何故かすでに食べられ終えている自分の串を見下ろして黒髪黒瞳は目を瞬かせる。天色髪は素知らぬ顔をしていた。

「あれっ、俺、これいつ食べて……」
「食事の途中で席を立つのはマナー違反だよ。で、それより、次はどのクエストに行く?」
「お前なあ、俺さっき森丘から戻ったばっかりだって言っただろ。そういうお前は仕事行く気あるのか? ないんだろ?」
「移動時間も考えれば行けないこともないよ。ただ、ランクが上がったからあんたにとっては初めての狩猟場が目白押しっていうことだけは教えとくね」

ころんころんと盤上を転がるサイコロのような勢いで、サイコロミートが娘の口に放り込まれていく。
その間、カシワはクリノスがテーブルに広げた龍歴院発行の依頼書を見比べて、知らず眉間に深めの皺を刻んでいた。
どのシンボルも見たことがないものばかりだ。モンスターだけでなく、狩猟場の雰囲気を示したスケッチも初見のもの揃いになっている。
ちらと視線を横に向けると、先輩狩人が「ほれ見たことか、初めて揃いって言ったでしょ」と言わんばかりにわざとらしく両目を細めている様が見えた。

「原生林に氷海、沼地に地底火山……ホロロホルルとイャンガルルガは倒したことあったよな? ガララアジャラだって、前にお前が」
「それは『下位』の個体っていうんですー。上位個体については、あんたはまだケチャワチャとイャンクック、ゲリョスとしかやり合ってなかったよね?」

書類の上を走る指先を、大真面目な顔をして後輩狩人は目で追いかける。その心意気や良し、とばかりに先輩狩人は頷いた。

「氷海のザボアザギル。通称、化け鮫。こう、バーンて膨らんだりプシューって萎んだりする感じの子」
「バーンて、プシューて。お前、それで俺に伝わると思ってるのか」
「まあね。あとは、このヴォルガノス。溶岩に引き籠もっててなかなか出てきてくれないんだけど、一回出てくるとガノトトスばりに……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなんでどうやって狩猟するんだ? お前、大げさに話してるわけじゃないんだよな?」
「真面目な話だよ、ケチャワチャに散々コケにされてたカシワくん。上位個体は生態が複雑化してるのもいれば、単純に火力やタフさが上がってるのもいる。
 ベルダー装備の頃ドスマッカォに蹴っ飛ばされたときの痛み、覚えてる? あれと同じだよ。油断してると痛い目どころか命取りになりかねないってこと」

支給品も補充されるまで時間掛かるしね、そこまで付け足した上でクリノスは依頼書をまとめて拾い上げて束にする。
彼女の声が僅かに低くなったことに気づいたカシワは、その場で顔を強張らせたまま固まった。
鬼蛙テツカブラ、潜口竜ハプルボッカ、雪獅子ドドブランゴに黒狼鳥イャンガルルガ。そして骸の龍……彼女と狩りを重ねるごとに、学ぶことは多くある。
その度に自分は立ち止まり、あるいは新たな決意を抱いて歩いてきたのだ――学び得たのは、ハンターとしての技量だけとは限らなかった。

「リスクが高いほどいい素材が手に入るのは当然のこと、ハイリスクっていうのがミソだけどね。イャンクック、あんた一人で行ったわけじゃないんでしょ」
「……それはそうだろ。誰かと一緒に狩りに行くのも、クエストの醍醐味なんじゃなかったのか」
「もちろん正解、それを教えたのはわたしだし。けど『初心忘れるべからず』って言うでしょ。意識づけも大事だよ」

差し出された紙の束を受け取って、後輩狩人はそっと視線を紙面に落とす。
これまでとは違う、遊びではない……そんなことはとっくに理解したつもりでいた。しかし、先輩狩人はそう見なしてくれてはいなかったらしい。

「これから先、相手にするのは中堅って言ってもいい連中だよ。古代林で見つけたリオレイアのこと……忘れたとは言わせないからね?」
「……ああ。俺だって、下位のホロロホルルにもイャンガルルガにも翻弄されまくったんだ。気を引き締めろってことだろ」
「そういうことー。って言っても、あんた一人で頑張れ、なんて言わないけどね。わたしも武器とか強化しなきゃいけないし」
「あとはお約束の『レア素材』! だろ?」
「うんっ、それはもちろん!」

一変して満面の笑みを浮かべたクリノスを見て、カシワは「ここにユカがいたらよかったのになあ」などと呑気に小さく首肯する。

「よし。で、先輩のクリノス大先生。お前から見て、どいつから先に行けばいいと思う?」
「あはは、やめてよ先生とか! そんなガラじゃないでしょ!」
「ニャイ、旦那さんはカシワさんにとっての先輩兼先生ニャ! 近接武器っていう共通点からして、立ち回りの参考になること間違いなしニャー」
「リンクさん、それを言うならボクだってリンクさんにとっては生徒ですニャ。チャイロさんは師匠なので、また別枠ですけどニャ」

気を引き締めるときは引き締め、そうでないときは連係を深めるためにも談笑を交えて休息をとるべきだ……これも先輩狩人から学んだことだ。
ニカリと子どものような顔で笑った後輩狩人を見返して、クリノスは満足そうに食事に戻っていった。
まずは腹ごしらえと武具の手入れが先だな……そう踏んだカシワは倣うように料理を注文し、ついでにビールを頼もうと手を挙げるも横から鷲掴みにされる。
酔っ払ってダウンするのが関の山でしょ、そんなの分かんないだろ、没収一択な応酬の後、黒髪黒瞳は背中を刺すような視線を感じて振り向いた。

「……ハンターとして学びを得たいなら、クリノス以外とももう一回、一緒に狩りに出てみるのはどう?」

言わずもがな、マーレ家生まれの姉弟コンビだ。弟側の方はふて腐れてしまっているのか、不機嫌さと渋面を隠しもしない。

「ステラ……あんた、まだそんなこと言ってんの。暇なの?」
「そう。暇」
「はあ? あんたそれ、開き直りもいいとこでしょ」
「暇をしているから、カシワの特訓とランク上げにつきあってあげてもいいかと思って。その方が依頼も早く減らせるでしょう? どう、クリノス」
「ええ? ちょっと、本気? わたしは何も、あんたにそこまでやってくれなんて頼んでないし!」
「ま、待ってください姉様!! どうして姉様までそんな……カシワさんより、久しぶりに会えたボクのことを知りたいとは思わないんですか!?」

弟の叱声に、思わない、と姉は冷静な切り返し。半泣きに陥ったクレタをアルフォートが宥めに向かうも、ステラは前を向いたままでいる。

「長いつきあいだもの。クリノスなら、そろそろ麻痺系統と毒系統の素材を揃えたい頃合いじゃないかと思って。違う?」
「うっ、そ、それは……だって、わたしの双剣コレクションのためにはどうしたって……!!」
「お、おーい。クリノス……?」

以前もそうだった――この双剣使いは、眼前の狩猟笛使いにどうしても勝てない瞬間というものを抱えていた。
それだけ長く、モガやタンジアでペア狩りをしてきたということなのだろうが……何故かモヤモヤした後輩狩人は、知らずぐぬぬと奥歯を噛み締める。

「依頼はたくさんあるもの。緊急クエストももう少し先になるだろうし、今は早期消化を目指した方が依頼人のためになると思うけど」
「だからって! うぅん、ならわたしは別のクエストに……イベクエとか……でもなあ……!!」
「……なあ、ちょっといいか。ステラ」
「なに? カシワ」
「前に、俺と『どっちが早く拠点に帰ってこられるか』って勝負したことあったよな? まさかお前、『狩り』を遊びか何かだと思ってるわけじゃないよな」

不意に、ステラは上品な仕草で笑った。優美で、小綺麗すぎて、不思議と寒気すら覚える冷たい笑みだ。

「どうかな……わたしも元を正せば『お貴族様』だから。わたしとクリノスのことを知りたいなら、一緒に仕事をしてみた方が早いと思うけど」

挑戦的な笑みにも見えるそれを前に、カシワは無意識に拳を握りしめていた。
貴族とハンター、マーレ家、己が知らない双剣使い。いつの日か踏み込むことを躊躇した謎を紐解くチャンスが、今目の前にある。
しかし、自分はドンドルマで仲間だと思っていたユカの過去に対峙したばかりの身だ。安易に他人の過去を覗いてもいいのだろうか……逡巡したその瞬間、

「あの、旦那さん」

いつの間にかクレタを慰め終えた――残念ながら朽葉色の狩人は未だ落ち込んだままだったが――オトモメラルーが、自身の真横に佇んでいた。

「アル。……どした?」
「その……ボクは旦那さんに着いていきますニャ、ボクは旦那さんのオトモだから。どこまでもオトモしますのニャ。だから、迷う必要なんてないですニャ」

狗竜の革越しに、小さな手がなんらかの意を決したように微かに震えているのが感じられる。

(そういえば、アルにとってステラは憧れのハンターで……モガにいた頃の恩人でもあったんだよな)

「どこまでも」、「迷う必要」。彼は、今もこれからも、自分の選択を優先してくれるつもりでいるのかもしれない。
それが友情や倫理に反したものであろうとも、オトモとして必ず雇用主の味方につくのだと……小さな体を震わせて、恩人に対峙する形でメラルーは頷いた。
これがそのような大げさな意思表明でなかったとしても――彼は自分を信用してくれている。その事実が、照れくさく誇らしく感じられた。
……知らないことを識るための旅路。狩猟という、命と命のぶつかり合いに対するスタンスの違い。経験という名の隔たり。
自分は、また長い遠回りの道を選ぼうとしている。カシワにはそんな予感があった。

「分かった。よろしく頼むな、ステラ。依頼を進めるのはハンターの義務だからな……足手まといにならないよう、俺なりになんとか踏ん張ってみるさ」

気だるげな眼差しでこちらを見る朽葉色。弟とはまるで異なる雰囲気は、確かに彼女が腕利きの狩人である事実を再認識できる面があった。

「なに、結局二人して本気なわけ? ペッコもいないし、せっかくゆっくり出来ると思ったのにー!!」
「散々ポッケ村で休んでいたでしょう。働かざる者食うべからず、だっけ。働こう、クリノス」
「あー、うん、なんか分かってきたぞ……お前ら昔からそんな感じなんだな……」

かくして、依頼書は双方の手に振り分けられる。再会したのも束の間、カシワたちは再び特訓の名目で二手に分かれることになってしまった。
それぞれのオトモと同行者を連れ、食事と談笑を済ませたハンターらは各々のタイミングで席を立つ。

「って、ステラ。悪い、ちょっと待っててもらっていいか」
「うん? わたしは構わないよ。用事があったなら、そんなに急がなくてもよかったのに」
「いや、すぐ書き終わるから大丈夫だ。どのみちこの狩りが終わったら確認し直さなきゃいけないやつだしな……一応念のため、ってやつだから」

出立準備の合間、カシワは龍歴院とユカ――現在地がいまいち分からなかったのでハンターズギルド経由で――宛てに手紙をしたためた。
マルクスの仕事の確認と、ドンドルマで別れて来……アトリやグレゴリーがどうなったか、なによりユカ自身が無事であるのか把握しておきたかったからだ。
ステラはその間、得物を草原に下ろして丁寧に手入れを進めていた。黄金の光沢を跳ね返す、裏葉の色をした鐘を模す狩猟笛だ。

(あの色合い、どこかで……俺、本当に素材とかモンスターのことろくに知らないんだなあ)

手紙を郵便ニャさん、もとい郵便屋に預けて取って返すと、笛吹きは先ほどと打って変わり穏やかな笑みで後輩狩人を出迎える。
彼女の本来の笑顔は、どちらかといえばこちらの方であるのかもしれない――それでもノアの方が可愛いけどな、とは口に出さずにおれた。
見知らぬ狩り場、見慣れぬ大型モンスターに、同行者は腹の底が見えない相手。飛行船の甲板に足裏を乗せながら、後輩狩人は人知れず表情を引き締めた。





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 UP:24/11/14