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モンスターハンター カシワの書(6) BACK / TOP / NEXT |
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「悪いけど、オトモについてなんにも知らない、っていうこの初心者に一から分かりやすく説明したげて」 ネコ嬢に向けられたクリノスの一声はカシワにとって辛辣極まりない。きょとんとしたネコ嬢に対し、新米狩人は悔しげに歯噛みしている。 周りのアイルーたちの眼がなければ今にも女狩人に掴みかかりそうだった。 大人げない大人ってイヤだよね、そうだニャー、クリノスとリンクの軽口はさりげなく続く。 ……二人の笑みには言い返さず反応せず、眉間に指を押し当てながら、冷静に冷静に、とカシワは自分に強く言い聞かせていた。 ふとネコ嬢と目が合う。丸い緑の瞳を忙しなく瞬かせ、一度二人の狩人を見比べてから、彼女はにこりと微笑んだ。 「初めまして。わたし、村の皆さんからはネコ嬢って呼ばれてます。よろしくお願いしますね〜」 「そうなのか、君が……こちらこそ、初めまして、だな」 「はい。まずは説明させて頂きますね〜。ここオトモ広場では、ハンターさんの狩りに役立つオトモちゃんを紹介しているんですよ」 自信たっぷりに宣言するかのように、ネコ嬢は背後に目を向ける。 釣られるように視線を動かすと、彼女の背後に何匹か、インナー装備のアイルーたちがずらりと並んで待機していた。 おおがらなムーファの荷台から全員降り、ご丁寧に横一列にきれいに並んで、一斉に頭を下げてみせる。 「狩りのお手伝いをしてくれたり、ハンターさんのサポートをしてくれたり、とってもお役に立つんですよ」 オトモがどれほど心強い存在かは、リンクを見ていれば容易に分かった。 狩りに役立つという彼らのサポート能力、所有スキル、個々の性格など、ネコ嬢は嬉しそうに話を進めてくれる。 早くに雇われた自負か、あるいは熟練度の高さからか、リンクはクリノスの隣でえへんと胸を張っていた。 「オトモ、オトモか」 「なに、また何かぐぬぐぬしてるの?」 「お前、俺をなんだと思って……そうじゃなくてな」 狩りを始めて数日。 その危険性を嫌と言うほど痛感した身としては、自身の狩りに自分以外の誰かを巻き込むことに、カシワは疑問を感じていた。 クリノスとリンクの信頼関係、連携には目を見張るものがある。頼りがいがあると誇る彼女の気持ちもよく分かっていた。 しかしそれでさえ、そうなるまでどれほどの時間を要したか、知り合ったばかりの自分にはまるで想像できない。 (いたら、心強いのは確かなんだけどな) クリノスの言う通りにぐぬぐぬしている事実に、我ながら辟易してしまう。彼女の気楽さを見習うべきだろうか。 うーん、と考え込み始めた、そのときだった。 「あの……」 腰に巻いた布を引かれる。目を開け、声のした方を見ると、一匹の小柄なメラルーがこちらを見上げていた。 「お前、さっきの……どうかしたのか」 片手にはボーンピックが握られている。先ほど誤って自分を殴ってきたメラルーであると、すぐに分かった。 気弱そうに遠慮がちに裾をつかむ様は、先の打撃の威力とはまるで正反対。同一人物、もとい同一ネコとは思えなかった。 小さい体のどこにあんな力があるのか。首を縦に振り、話を促す。メラルーは小さく手を合わせながら口を開いた。 「さっきはすみませんでしたニャ。つい、勢いあまっちゃって」 「ついって。お前なあ」 「カシワ、そんなちっちゃいコいじめて……大人げないよ?」 「お前は俺をいじめるなよ。で、どうした? 話があるなら聞くぞ」 「そうそう、困ったことにへっぽこだから時間だけはありあまってるんだよね」 カシワにはクリノスに言い返す気力がなかった。 一方、メラルーは双方のやりとりをおろおろしながら見ていたが意を決したように拳を握る。うつむきがちにぽつぽつと言葉を吐き出した。 「ボク、特訓してきた中で『動かないマト』に攻撃を当てられたの、あれが初めてでしたのニャ」 横で誰かがぶふっと噴き出したのが聞こえた。カシワは無視する。 「ボクは、モガの村ちかく、孤島からネコ嬢さんとここまでやって来ましたのニャ」 「モガの村?」 「タンジアの港町近くにある村ニャー。ここからは少し離れてるかニャ」 「あー、だねえ、懐かし……おっと! それにしても、情報が早いねー。さすが、リンク」 「タンジア……聞いたことあるな。確か、海沿いの街で水場で狩りができるって有名なところだよな?」 「モガの村を内包する『孤島』フィールドには、『モガの森』っていう広い探索地が備わっていて……ボクの故郷もそこにありますのニャ。 森はたくさんの美味しいものと、たくさんの緑と水源で溢れていて、人もモンスターも恩恵をいっぱい、受け取っているんですニャ」 「へえ……そんなにいいところなら、ちょっと行ってみたい気もするなあ」 「もちろんっ、お勧めしますのニャ! 探索地としても人気だし、今はギルドが周辺を管轄しているから何が起きても安心ですニャ。 最近は……色々あったけど、そのとき来ていたハンターさんとオトモさんが解決してくれたから……感謝しても、しきれませんのニャ」 モガの村で起きたという、一連の事件。カシワにはそれを知る術がない。 しかし、メラルーが当時の村専属ハンターの活躍に心酔していることは彼のうっとりした眼ですぐに分かった。 「んー。リンクは他に何か聞いてる? モガの村の話」 「ニャ。謎の大型モンスターが現れて、村専属のハンターがオトモと共に撃退した、って聞いてるニャ」 「撃退? そんなにでっかいやつなのか。どんな奴なんだ?」 「ボクもネコ嬢さんからすこーし聞いただけで、詳しいことは知らないニャ〜」 一斉にネコ嬢に視線が注がれる。 メラルーたちの話にうんうん頷きながら耳を傾けていた少女は、突然話を振られたことに慌ててあわあわと両手を振った。 「わ、わたしも、そのハンターさんに直接お会いしたわけではないんです〜。お力になれなくて、ごめんなさい」 「いやー、そんな、謝らなくても。なにもかもこのカシワが悪いんだし」 「なんで俺のせいになるんだよ。おかしいだろ」 眉間に皺癖がつきそうだ、指を押し当てながら、カシワは何度目かの嘆息を吐いた。クリノスはけろっとしている。 「モガの村の方々はいい人ばかりなんですよ。泳ぎもうまくて、ガノトトスみたいにスイスイ泳げるんです〜」 「ガノトトス?」 「魚竜種のでっかいやつ。ハンターなら、それくらい勉強しておきなよ」 「悪かったな!」 「それより、そのメラルーちゃんは雇い主さんを探しているところなんです。どうでしょう、雇用してみませんか」 「……ニャッ!?」 驚いたのはメラルーの方だった。今度は彼に視線が降り注ぐ。黒い毛を逆立てて、彼は大いにうろたえた。 カシワと眼が合う。何度も眼をしぱしぱさせ、ボーンピックを強く握りしめ……彼の緊張が、嫌というほど伝わってくるようだ。 「なあ。お前はさ、初対面の見ず知らずの奴に雇われるの、不安じゃないのか」 気づけば、雇う前提で話を振っている自分がいた。狩りに巻き込むという危険、互いに背を任せ合うという信頼。 どちらに対しても逡巡は生まれる。カシワは知らず、眉間に力をこめていた。 「ニャ? ……見ず知らずじゃありませんのニャ、今こうしてお話していますのニャ」 「そういうことじゃなくて、もっとこう、こういう雇い主だったらいいなー、とか。色々あるだろ?」 「……その、ボクには、夢がありますのニャ」 「夢?」 「将来の『旦那さん』のお手伝いをしながら叶えられる夢ですニャ。それさえできたら、それだけで十分ですのニャ」 不安と困惑を顔に湛えながら、メラルーは大きく頷いた。その眼に微かな期待が混じっているのも見て取れた。 そわそわと落ち着かない様子ではあるが、見下ろされながらも、決してその場から逃げ出そうとはしない。カシワは面食らう。 「夢」に命を懸けることさえ、いとわない――それは折しも、黒龍を追い求める自分と何も変わらないのではないか。 ネコ嬢に向き直る直前、駄目なのかと言わんばかりにメラルーが肩を落としたのが見えた。 「……ネコ嬢、だったよな。オトモの雇用に書類とかは必要なのか」 「ニャッ!?」 「そのかわり、俺はオトモがどういうものか知らないから、うまくやっていけるかなんて保証はできないからな」 さりげなく視線を後ろに投げる。 メラルーは口をパクパクさせながら、しかし次の瞬間には嬉しそうに眼尻に涙をため、何度も大きく頷いた。 ほっとしたカシワの横で、クリノスは冷やかすわけでもなく、腰に手を当てながら口笛を吹いている。 話はまとまった、そう言いたげに、彼女の顔は晴れ晴れとしていた。 「難しい手続きは、何もないんですよ〜。ぜひ、仲良くしてあげてくださいね――あ、そうそう、」 ネコ嬢のほがらかな声。一人と一匹はほとんど同時に少女の顔を見る。 見たもの全てを安心させる、柔らかな微笑みが浮かんでいた。 「初めてのオトモちゃんですから、名前をつけてあげてくださいね。良い狩りを〜」 こうして、新米ハンターに新しい仲間ができた。 「……こんな立派な防具、ボクにはもったいないですニャ」 「気にしすぎ、お金出すのはカシワなんだし」 「お前は少し黙ってろよ、クリノス」 ベルナ村の西側、勢いよく燃える溶鉱炉の火に照らされながら、オトモメラルーはその場で落ち着きなく足踏みした。 彼の横、同じように新調したばかりの革手袋に手を通しながら、カシワは口の減らないクリノスに視線を投げる。 気づかないふりなのか、彼女は隣のリンクと目を通わせ、お互いにウインクし合った。 ……ベルナ村の加工屋は、気のいい竜人族がたった一人で切り盛りしている。 その腕は確かなもので、過去にはクリノスが愛用するスパイオシリーズを一から半日かけずに仕立てた実績があるほどだった。 「おいさっ! 素材を集めて武器防具の生産、強化、こいつが基本だ。また何か作りたくなったら素材を持ってきな」 大ぶりの金属鎚を軽々と一振りして肩に担ぎ、加工屋はニヤリと笑った。 彼が今しがた製作した防具は、緑色の竜鱗と分厚い赤皮、黄色の羽根一枚を材料としていた。 言わずもがな、古代林でカシワが何度も相手取ったドスマッカォの素材である。 「結構な量、溜まってたみたいだねー」 「お前が採集ツアー受けるたびに俺に囮やらせるからだろ」 「人聞き悪いなー。『用心棒』っていう、立派なハンター稼業のひとつだよ?」 王者の冠羽と呼ばれる、ドスマッカォのシンボルとも言える頭部に生える黄色い大ぶりの羽根。 カシワに用心棒をさせる傍ら、いつの間にか入手していた三枚ほどをひらつかせながら、クリノスは小さく笑った。 ハンターが大型モンスターを狩る理由のひとつとして、この「素材入手」が挙げられる。 鱗、甲殻、牙、翼……モンスター特有のパーツは汎用性が高く、古くから様々な道具、武具に加工され、人々に重宝されてきた。 ハンターも例外ではなく、堅く丈夫な素材は上質な武具、防具へと姿を変え、新たな狩りの礎となってくれる。 「ドスマッカォは、俺が初めて狩った大型モンスターだからな。なんか感慨深いな」 素材をもとに作られた武具は、そのモンスターを制した証でもある。 入手した素材で新しい装備品をあつらえることは、多くのハンターの憧れでもあった。 最後の仕上げとばかりに、羽根飾りをあしらった唾付きの緑の帽子をかぶり、カシワは満足げに頷いた。 彼を見上げていたメラルーは、慌てた風に雇い主の手で強引に被らされていた帽子を、見てくれのいいようにさっと被り直す。 見習うには少しカッコつけ過ぎな相手だと思うけどね――クリノスはカシワに気付かれないようにニヤリと笑った。 「装備も一新したし、一度行ってみるか」 「行ってみるって、どこに?」 風に揺れる黄色の羽根の先を指でつまみ、ぴんと一度弾いてから、カシワが我先にと歩き出す。 置いてけぼりの一人と二匹が声をかけると、新米ハンターはやはり新調した片手剣の柄に手を添え、振り向いた。 「やられっぱなしはシャクだろ?」 鉄鉱石で鍛え上げられた光が、冷たく鋭利に反射する。対してカシワの表情は晴れやかだった。 言われた言葉にクリノスは眉根を寄せ、それはそうだけど、と反論を濁す。リンクはカシワとクリノスを交互に見比べ銀眼を瞬かせた。 「一体、なんの話ですニャ? だ……だ、『旦那さん』っ」 不慣れな呼称に声を小さくしながら、新米のオトモメラルーがカシワのあとを一足早く追いかけた。 追いつかれたカシワの手が、彼の帽子をぽんぽんと柔らかく叩く。青と黒の目が交差する。 「あのな。リベンジってやつだ、『アルフォート』」 ……ハンターとは、得てして負けず嫌いな連中ばかりだ。自覚がない分、カシワはより厄介な部類に入る。 クリノスはリンクと目を合わせながら、口端をにわかに吊り上げた。再戦の相手など、始めから決まりきっている。 新米狩人の足はすでに龍歴院前庭に向けられていた。つきあってやらないでもないよ、とばかりに先輩狩人も後に続く。 遠目に見えるクリーム色の気嚢が、青空の下でゆらゆら気楽に揺れていた。 |
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