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モンスターハンター カシワの書(5)

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「――は、」

目覚めると、頭上に見覚えのない天井が広がっていた。白い布地と材木、わらが簡単に組み合わされた天井だ。
横に伸びた梁には照明器具としてランプが吊り下げられている。どうやら即席のテントの中であるらしい。
入り口から吹き込んでくる涼しい風が、ここが確かに屋外に設けられた施設であることを証明していた。
カシワが身を横たえているベッドは、大人四人は寝られるであろう大きなもので、いまは自分以外の姿は見当たらない。
勢いよく跳ね起きる。直後、全身に走った痛みに顔をしかめた。

「目、覚めた?」

入り口から声がかかる。顔を上げると、見知った顔がテントの中に入ってくる。

「クリノス」
「あんた、エリア七で力尽きたんだよ。覚えてる?」

防具にかかった砂利を手で払いながら、クリノスは首を傾げた。彼女の横にはいつもの通りリンクが寄り添っている。
力尽きた――言われてぼんやりと思い出す。エリア七、暗がりの中、月明かりに浮かび上がる巨大な影。

(そうだ、俺は)

巨体を誇る、鬼のような面立ちの赤い蛙。奴と正面でかち合い、突進をもろに受けて倒れたのだ。

「覚えてる……いま思い出した」

額に手を当て、ベッドに座りながらカシワは低く唸った。
歩み寄るクリノス。ベッドの前に立ち、彼女はカシワを見下ろした。リンクは忙しく視線を巡らせている。

「俺は、あのモンスターに負けたんだよな?」
「なんで疑問形?」
「いや」
「あのあと少しやり合ってみたんだけどね。あれ、たぶん金冠サイズだよ。デカかったもん」

カシワは目を剥いた。戦ったのか、血走った目が強く訴えかけ、クリノスは頷く代わりににやりと笑い返す。
うなだれる新米に彼女は追撃を与えない。むしろ何か言いたそうに口元をもごもごさせている。
察したのか、リンクが忍び足で近寄った。腰を低くし、クリノスは自身のオトモと視線を合わせてひそひそと話し出す。
ビビっちゃったかな、ハンター辞めるのニャ、交わされる憶測はたいがいカシワに失礼だった。

「聞こえてるからな」
「あれー、聞こえちゃった?」
「ニャー」
「謝らんのかいっ」
「なんで謝らないといけないの。カシワに」
「ニャー」
「こんのっ……あー、もういい。分かった、分かった」

ツッコミを入れながらも、新米狩人の表情は晴れない。
苦いものを噛んだような顔に、先輩狩人は短く嘆息して見せる。彼女なりに心配しているのかもしれない。

「で、これからどうするの。まさか本当にハンター辞めちゃうわけ?」
「……なんで、そうなるんだよ」
「強いのに出くわして、心が折れるっていうのかなー。わたしはワクワクする方だけどね、負けっぱなしは悔しいし」
「まさか、また挑む気なのか」

カシワの問いに、クリノスはいつものように不敵に薄く笑う。それが答えだった。
おもむろにカシワが立ち上がる。思わず道をあけた彼女に振り向き、新米はやはり低い声で唸った。

「時間はまだあるんだろ」
「ん? まあね」
「クエスト失敗はハンターの名折れ、だったよな。時間切れになりそうになったらゼンマイ回収して離脱するからな」
「……」
「なんだよ?」
「ううんー、辞めないのかーと思って。なんだ、泣いてたら慰めてあげよーと思ったのに」
「ニャー」
「ねえー」

やっぱり一人と一匹は失礼だった。
誰が辞めるか、低音で威嚇する新米は、誰のまねか、にやりと不敵に笑い応えてみせた。






「……で、何か言いたいことある?」

クリノスの冷ややかな目線はまっすぐ足元に注がれていた。エリア八、巨大なキノコのカサの上という特殊な土壌。
その上にぼろぼろ姿のカシワがうつ伏せで倒れている。見た目カエルの死骸だな――さすがの彼女もそれは口にしない。
クリノスは「我ながら気遣いのできる女だ」と自己評価する。カシワにその気遣いが届いたかどうかは別の話だ。

「……なにがいったいどうなったんだ?」
「どうって、逃げられちゃったよー。時間もぎりぎりだしね。今、リンクが足りないゼンマイ拾いに行ってる」
「ゼンマイ……ああ、そうか、そうだった。特産ゼンマイの納品だったよな」
「忘れてたの? 気持ちいいくらいボッコボコだったのに」
「うるさいっ」

地を這うような声で顔だけ上げた新米に、先輩狩人はしゃがんで目線をあわせ散々たる狩りの顛末を説明した。
……狩猟の最中、特定の条件を満たしたときのみ柔らかく肉質を変動させる部位が存在することに、カシワは気付く。
ドスマッカォのそれより小ぶりな、先の丸い尻尾。剣を突き刺せばすんなり刃が通ると知れた。そこまではよかった。
その後の彼のやられっぷりにクリノスは感心さえしたのだ。これまでの訓練はどうしたと言いたくなる程度には。
傷が増えたことで怒り、攻撃性と行動速度を増したからか、件のオオガエルは凶悪に、執拗にカシワのみを狙った。
同じように彼女やリンクが接近戦を持ちかけようと、意地と言わんばかりのしつこいターゲッティングだ。
尻尾に追いつこうと自分の背後をうろちょろし続け、まとわりついてくる人間、それも見るからに初期装備の新米狩人。
どうにも鬱陶しい、そう考えてしまうのは野良モンスターにも共通するところがあったらしい。

「ワレなにヒトの背後つけ回しとんじゃ! そう言いたかったのかもね?」
「クリノス! ヒト、じゃなくて、モンスター、だろ」
「え? ああうん、いや、そこ?」

体当たりされ、腕でなぎ払われ、果てにはあの巨体にずしんと押しつぶされた新米は、文字通り自分が伸びている間、
クリノスの放つ猛攻撃にひるみ、慌てた様子でいずこへと逃げ去るカエルの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
なす術もなく、倒れたままでしかいられなかった。
オトモのサポートありとはいえ、単独で追い払うことに成功した狩人は「討伐までは無理だったかー」と独りごちる。
カシワが起き上がる。まだ体力的にも余裕を残す様子のクリノスに、彼は何ともいえない視線を送った。
妬みか、嫉みか、敵わなかった悔しさか。にが虫を噛んだような顔で首を左右に振った。

「行動パターンは覚えた。次は倒せるはずだ」
「はい? 時間切れ間際だから、もう行かないよ?」
「今は、だろ。次に見つけたときだ」

絞り出すような声色に、クリノスはやれやれといった風に肩をすくめた。
職業柄、ハンターはそのほとんどが諦めが悪く、クエスト達成、特にモンスター討伐に執着する傾向がある。
ベルナ村より遥か遠く、緑に囲まれた村や雪山に寄りそう村、そこそこ近しい地にある湯けむりと紅葉に抱かれた村などで
名をあげたという「伝説」、「英雄」となったハンターたちも皆そういった気質であったという。当然、この自分でさえそうだ。
新米とはいえ、カシワにもハンターとしての言い分、矜持が芽生えつつあるらしい。

(長い目で見てやるしかないか)

根性は悪くない、それをドスマッカォ初討伐の折に見いだしてここまで引っ張ってきたのだ。
長いつきあいになりそうだ――口をへの字に結び、だんまりを決め込む新米の横で彼女はオトモの帰還を待った。

「旦那さ〜ん!」

リンクが崖下から戻ってきたのは、ようやく思考を切り替えたか、カシワがベルダーソードを研ぎ始めたときだった。
戻るや否や、リンクはまっすぐクリノスに駆け寄り、嬉しそうに特産ゼンマイの束を見せてくる。数は十分にあった。
頭をなでてやると、両目をぎゅっと閉じながら手足と尻尾をばたばたさせる。
やっぱりオトモって可愛いなあ、しみじみ噛みしめている横で、高い金属音が微かに響いた。
研ぎ終えた剣を、カシワが腰に戻した音だった。

「うん? なんだよ?」

目が合って数秒。じっと観察してくるクリノス、そしてリンクとを交互に見比べ、カシワが問いかけてくる。
狩りにおいて、武器の手入れ、特に斬れ味を維持することはとても重要だ。
一流の武器でさえ、使い続けるにつれモンスターの厚皮や鱗、硬い肉、体液によってなまくらへと容易く変わってしまう。
ことさら手数が多く、斬りつけの初動が速い片手剣は、刃の消耗が他の武器に比べて激しいことで有名だった。
獲物に逃げられたとはいえ、手早くカシワが武器に手を加えたことをクリノスは純粋に評価していた。

(ある程度の基本は、覚えてきたってことかな)

そうでもないとむしろ困るけど――声には出さず、うんうん頷く。カシワはわけが分からない、という顔をした。
分かってくれなくて結構だ、軽く肩をぽんぽん叩き、すれ違いざまに南西へ足を向ける。帰還を促した。

「クリノス」
「うん?」
「その……なんだ、あー」
「なに?」

名を呼ばれる。振り向いてみると、カシワは土埃まみれの黒ずんだうなじをぽりぽりと掻きながら、

「助かった。ありがとう」

やや小声で、呟くように吐き捨てた。
言うや否や、さっと視線をそらして隣を横切っていく。照れ隠しかどうか、途中から足取りは駆け足へと変わった。
途中で石に足を取られて転びかける。さっと素早く体勢を整え直せたのは、さすがにハンターだからか。
こちらに振り向きもせず、男は軽快に夜の更けるエリアを駆け抜けていった。
逃げ足だけは速いなあ、妙なところに感心しながら、先輩狩人は小さく首を傾ぐ。

「……律儀なやっつぅ」
「ニャ!? 旦那さん、そろそろ迎えの時間ニャ、急ぐのニャー!」
「あれ、そんな時間? 行こっかー、リンク」
「了解ニャー!」

「からかってやるのは、やめておいてあげよっか」。見上げてくるリンクの頭をなで、クリノスは軽く笑った。
すでに遠のいた新米の背中を、早足で追う。






頬をなでる心地いい風、青々と濡れる草原、背丈の低い可憐な花。ところどころに下げられ光を反射させる金のベル、
ネコの肉球を模した紋章を刻んだ杖や角笛、巨大な石造りのネコ地蔵に、風に柔らかくはためくムーファの毛織物。
ベルナ村のはずれ、広く開けたのどかな場所を人々は「オトモ広場」と呼んでいた。
放し飼いにされたムーファが草を食む中、木の柵に囲まれた牧場と草原の境目、広場の奥に、ひとつの人影が見える。
ムーファの毛玉と飾り布で仕立てた大きな荷車の横、荷車につながれたムーファの毛を手櫛で梳きながら、その少女は
鼻歌まじりに高原の風に身を任せていた。頭には茶色の猫耳、柔らかそうな金の髪は、とがった耳の横からふた房ずつ
垂らして緩めに結び、アイルーの肉球モチーフが刺繍されたエプロンドレスがふわりと揺れる。彼女は竜人族だった。
可憐で愛らしい外見ではあるが、実年齢がどれほどか、知る者はいない。

「ネコ嬢さ〜ん!」

何者かが、ネコ地蔵の置かれた石造りの特設広場――オトモ道場から、彼女を呼ぶ。
ネコ嬢、とは彼女の通り名のようなものだった。彼女を知る者のほとんどが彼女をそう呼んでいる。
ぱっと振り返った彼女の顔が、柔和に微笑んだ。その視線の先には、駆け寄ってくるインナー姿のアイルーたちがいた。
彼らは皆、オトモとしてハンターに雇用されるべく、ネコ嬢の旅に同行している面々だった。

「アイルーちゃん、今日の超特訓の具合もばっちりですね〜」
「はいですニャー!」
「ボクの旦那さん、きっと喜んでくれるのニャ。楽しみニャ〜」

オトモの雇用斡旋と、ハンターと彼らの橋渡し役。それがネコ嬢の仕事だった。
オトモ広場に待機しているアイルー、メラルーは、その全てがオトモとしてハンターに雇用された身である。
彼らがハンターの元で働くために彼女はひと役買っていた。雇用主が希望するスキルやサポート行動の有無はもちろん、
毛や眼の色、尻尾の形といった外見など様々な条件に見合う獣人族をスカウトし、都度ハンターに仲介するのだ。

「さっき、素振りがすっごくうまくできたのニャ〜。ネコ嬢さんにも見せたかったのニャ!」
「あら、それは、ハンターさんも心強いこと間違いなし! ですね〜」
「とーぜんですニャー。ボクらはまだまだ未熟だけど、いつかはハンターさん自慢のオトモになるのニャ」

オトモ雇用を申請されたとき、すぐに彼らは彼女のもとから離れ、ハンターと行動をともにするようになる。
当たり前のこととはいえ、ネコ嬢はこの仕事とアイルーたちそのものを好いていた。故に寂しさを感じることもある。
それでもハンターの期待に応えよう、強くあろうと努める彼らの姿は彼女の目に眩しく映った。
彼らの旅立ちを見送るとき、確かに誇らしい思いが彼女の胸中にも存在するのだ。
息を弾ませるアイルーたちに微笑むネコ嬢の背後、ふと、荷台をかつぐ大柄のムーファがムムムゥ、と小さく鳴く。
彼が背負う大きな毛玉製の荷台の中には、複数のアイルーとメラルーたちが控えていた。まだハンターたちに雇用された
ことのない、いわゆる「控え」のオトモ候補たちだ。荷台の窓から、ちらちらとオトモ広場の様子をうかがっている。

「さあ、休憩にしましょう〜。ハンターさんたちもそのうち帰って来ますよ〜」

広場で休憩、あるいは特訓をして雇用主が狩りから帰るのを待つオトモと過ごす、ちょっとした息抜きの時間。
大好きなムーファの姿をながめることもでき、ネコ嬢にとっては至福の時間でもあった。
控えのアイルーたちにも手招きして、そそくさと草原にピクニックシート代わりの布を広げ、腰を下ろす。
ベルナ村のアイルー屋台の女将が用意してくれた簡単なおやつとゼンマイティーを皆に配り、自身も口に茶を含んだ。
ほろ苦く、それでいてほんのりと甘い、ベルナ村自慢と名高い独特の香りがした。

「おいしいですニャ〜」
「旦那さんにも、ごちそうしてあげたいニャ……」

皆が思い思いにくつろぐ中、ふと、ネコ嬢の目に止まったものがいた。
黒の毛並みに独特の模様、他に比べてやや小柄なメラルー。よく見ると、彼の手元にはオトモ用の装備品がなかった。
雇用されたオトモのほとんどは、雇用主に専用の装備品をあつらえてもらうことが多い。
控え状態のオトモ候補と就職済みのオトモアイルーを見分けるのに、オトモ装備の有無は一つの基準になっている。

「どうしたんですか、お口に合いませんでした?」

思わず歩み寄り、そっと声をかけた。
メラルーは大きく眼を見開き、とても驚いたような顔をした。首を傾げて、話をうながしてみる。
しばらくの沈黙。手に握った骨製のピック状の武器を手持ちぶさたに回しながら、彼はぽつりぽつりと話し始めた。

「ネコ嬢さん、ボクはいつ、ハンターさんに雇ってもらえますかニャ」
「それは……」
「カリスマタイプの他の子は、もう皆、雇われて行きましたのニャ。あまってるの、ボクだけですニャ」

たまたま、というだけの話だった。
回復、攻撃、防御、支援と、あらゆるサポート傾向を幅広く網羅するオトモタイプ、カリスマ。
その雇用がここ最近とても活発で、確かに今残っているのは、ここにいる孤島出身の彼だけになってしまっている。
しかし、それだけではないと、メラルーの視線は強くそう主張した。

「ボク、孤島で暮らしてるときからずっと皆からからかわれてきましたニャ」
「からかわれて……?」
「『お前みたいなチビで泣き虫が、ハンターになれるわけない』って。でも、ハンターは無理でもオトモなら、って」

ネコ嬢に着いてきたはいいものの、自分はチビで泣き虫なままだから雇用されないのではないか……。
メラルーは肩を落としながら嘆息した。
彼のように、ハンター稼業、あるいはハンターそのものを目指すアイルー、メラルーは別段珍しいものでもない。
ハンターに雇われる形で彼らに貢献し、気づけば災厄の古龍を狩って、伝説のオトモとして名をあげたものもいる。
彼は強くなりたいのだ……気落ちした様子の彼の肩に、ネコ嬢はそっと手を乗せた。

「大丈夫ですよ。きっと、あなたを必要としてくれるハンターさんが来てくれます」
「本当ですニャ?」
「もちろんです。きっと、もうすぐですよ〜」

本当にそのような気がしていた。まっすぐ見上げてくる青の眼に、ネコ嬢は柔らかく視線を落とす。

「だから、そのときまでうんと強くならなくちゃ〜、ですね。頑張りましょう?」
「……、はいですニャ。ボク、うんとがんばりますニャ!」

こうしちゃいられない、すっくと立ち上がると彼はボーンピックを手に素振りを始めた。
気合いが入っているのか、力強く腕が振るわれる。横なぎから縦斬りまでの連携、ジャンプ攻撃まで含まれていた。
微笑ましいですね、うんうん頷き、ネコ嬢はくるりと背を向けた。邪魔をするのも悪いと思ったからだ。
……とはいえ、今日はそれが判断ミスだった。

「――いって!!」

聞いたことのない声がした。同時に、ゴン、と硬い物音も。ゆるりと振り向くネコ嬢の目に、二人の人影が映される。
一人は天色の髪をなびかせる女ハンター。賢そうな面立ちをしている、黒尽くめの姿の双剣使い。
もう一人は、何故か地面にぶっ倒れていた。ベルダーターバンの中から、わずかに黒髪が見え隠れしている。

「ちょっと、カシワ。なに寝てんの」
「……! ……!!」

カシワ、そう呼ばれた方は、地面に転がったまま両足をばたばたさせていた。両手は頭を抱え込んでいる。
彼の横では、先のメラルーがあわあわと口を手でふさいで顔を青くしていた。
……横に転がる、ボーンピック。明らかに、男ハンターは彼に殴られ昏倒したものと思われた。

「アイルー、じゃない、きみ、メラルーか。メラルーに殴られて倒れるなんて、それどんな間抜け? 聞いてる?」
「……!」
「あ、あの、あわ、あの、ご、ごめんなさいですニャ……」
「ああ、いいのいいの。気にしないで。こんなのも避けられないこいつが悪いんだから」
「〜〜ッ、クリノスうううう!」
「なんだー。生きてるし」
「残念そうに言うなよ!」

跳ね起きた黒髪ハンターが、女ハンターの胸ぐらをつかむまでの間、ネコ嬢はぽかんと見守るだけだった。
それほど急なことだったし、女の言葉通り、メラルーに殴られて昏倒するハンターなど今まで見たことすらなかったからだ。
意外だったのは、女ハンターにはカンカンに怒りながらも件の黒髪ハンターは殴ってきたメラルーに対して、

「お前も。俺が避けられなかったのは本当のことなんだから、気にするなよ」

ぽんと頭に手を乗せるだけに留め、叱らずにフォローしてくれたことだった。
普通は怒るところのはずだ。当のメラルー本人でさえ、彼を見上げ、驚きのあまり固まっている。
またも何事か突っかかる女ハンターには一言二言言い返すが、メラルーについては本当に責めるつもりがないらしい。
彼は視線は女ハンターに向けたまま、片手をひらひら振るだけだった。

(……ここに来たということは、きっと、オトモを雇いに来た、ってことですよね?)

彼ならば、あるいは――会話を終えた二人の視線は、いつの間にかこちらに向けられている。
ネコ嬢は、静かに、静かに一歩を踏み出した。

「――ようこそ、オトモ広場へ。オトモちゃんをお探しですか?」





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 UP:20/02/08 加筆修正:23/01/29