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モンスターハンター カシワの書(36)

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暗闇に沈む庭園に、人の気配は一切感じられない。クエストボードの前や受付はもちろん、ギルド直営の商店や食事場さえももぬけの殻になっている。
都市群に備わる酒場同様、「集会所」には多くの人材や資源、情報が集まるものだ。それはここ、龍歴院前庭園も例外ではない。
しかし、今は……嵐の前の静けさと言わんばかりの静寂が、時折吹き抜ける山風と入れ替わりで滞留するに留まっていた。

「あの『新種』には、また逃げられてしまったようだね。赤色の」

暁、未だ星の煌めく時刻。マカライト鉱石製のランタンで周囲をぼんやりと照らしながら、龍歴院院長は山と積まれた書類を次から次へと手に滑らせる。
庭園の中央、小高く作られた特等席。いつもと同じように彼女はそこに座しているが、今夜は声を掛けられても手元から視線を上げずにいた。
拡大鏡を見下ろす眼差しは、いつになく冷えている。彼女の背後に立つ赤色洋装の男は、後ろ手を組んだまま険しい顔で首肯した。

「ラティオ活火山の爆鎚竜、モガの森の海竜、同じく砕竜と……同様の捕食ないし拿捕が確認されています。各地の古生物書士隊にも協力を仰いでいますが」

一度、言いよどむように言葉を切る。羽根帽子の鍔の下、銀朱の眼はぐっと固く閉ざされた。
冷徹の皮を被った紅彩鳥、と呼ばれる男には珍しい、苦汁を舐めさせられた直後の苦悶に歪んだ表情だった。

「未だ、その足取りを掴むには至っておりません。申し訳ありません」
「聞き及んでいるよ、赤色の。神出鬼没、地中海中移動が常で足取りも掴めずと……まるで、彼の幻獣のようだとね」
「『キリン』ならば雷撃の筋と足跡である程度の移動ルートを捕捉できます。ただ、」
「それは驕りというものだよ。ふむ……しかし、うちの連中にも、もう少し狩魂ってものを見せてもらいたいものだ」

調査員の多くは知識には明るくともハンターのように前線に立つ力を持たない一般人、非戦闘員であることがほとんどだ。院長の要求はあまりにも無茶が過ぎる。

(とはいえ)

ユカは嘆息した。最近ようやく安定した立ち回りをみせるようになった新米狩人の今を思えば、彼女の言い分には自分でも頷いてしまう面もある。
……龍歴院は、研究機関としてはまだまだ新参の部類といえた。
ハンターズギルドと提携を結んでこそいるものの、管轄下のモンスターや新たな狩り場といった調査対象は、常に最新の情報を世に発信し続けなければならない。
そうでなければ信頼問題に関わるからだ。
調査と解析を滞りなく進め、研究成果という名の実りを出せなければ、資金面だけでなく手足となるハンターすら寄りつかなくなってしまう。
研究熱心な人員の手配と飛行船による物流経路の確立、他にも王立古生物書士隊や古龍観測局との連携など、あくまで研究分野においては他の追随を許さない。
ならば、あとは調査隊の護衛、囮役となる有能なハンターの確保さえできれば難度の高い調査を押し進めることも可能なのだ。
頭脳だけで生身の生き物であるモンスターの生態解明を果たすことは難しい。ベルナ村に現れた新参の二人は、龍歴院にとってまさに都合の良い手駒であった。

「院長。話にあった、龍歴院つきの新米狩人についてですが」
「ああ、あの『古龍』にじかに遭遇した黒髪の子のことだね。どうだい、目を覚ましたかい」
「それが、まだ。医師の話によれば過労とのことです。慣れない狩り場と初見のモンスター相手に消耗した結果ではないか、と……」

新米狩人、カシワ。異常なモンスター運の持ち主だとは思っていたが、よもや単独行動時に古龍に遭遇しようとは。

(それも、クリノスと離れている間にだ……命があっただけでも幸運だろう、あの命知らずめ)

ぎしり、と握りしめた革手袋が悲鳴を上げる。胸中に沸いたどろりとした怒りとも憂慮ともとれる感情を、深く嘆息することで逃がしてやった。

「どうやら、俺は甘やかしすぎたようです。狩り場で気を抜くなどハンターとして未熟そのもの。到底、看過できるものではありません」
「そうお言いでないよ、赤色の。あんたにも、似たような時期がなかったとは言い切れないだろう」
「俺のときとは状況が違います。院長、しばらく奴の身柄はこちら預かりとさせては頂けませんか」
「それは助かるよ、元から頼むつもりでいたからね。なに、リオレウス狩りが成せたくらいなんだ。あまりいじめないようにするんだよ」

「いじめる」とは人聞きの悪い。口角をにやりとつり上げ、ユカは凶悪に笑い返す。
院長兼ギルドマネージャーもまた、頷き返しつつも苦笑いを隠しもしない。赤色のも素直じゃないね、とは彼女は終に口にしなかった。

「これだけ目撃されているのです。古龍観測船も、じき尻尾は掴んでくれるでしょう。それまでの間、」
「赤色の。もう一度言っておくが、あまりいじめすぎないようにするんだよ」
「何を、もちろんです。貴重な人手ですから」

報告は終わった。くるりときびすを返すと、銀朱の騎士はまっすぐに龍歴院施設内の医療機関へと足を伸ばす。






……く、はやく……

いつの間にか、すっかり日も落ちていた。急いで帰らなければ。「あのこ」が腹を空かせて「俺」の帰りを待っている。
今日の土産はぴかぴか光る青い石。自慢の得物よりうんと色の薄い、水面に浮かんだ月の色だ。「あのこ」の眼によく似た色だから、きっと喜んでくれるはず。
「俺」たちの家は、ひっそりと沈んだ暗がりの奥にある。ぼんやりと光る青白いキノコや、珍しい艶めく羽虫なんかが帰途の目印だ。
いつものようにたくさんのご馳走を背に乗せて、いつもどおりに小さな土産を手に抱いて、「俺」はただまっすぐに家路を目指した。
「あのこ」は体格のわりにうんと臆病だから、帰るなりまた抱きついてきたりするんだろうな。「俺」はそれを、ちょっと役得だよな、なんて思っている。

『……ん?』

低い、重苦しい音を聞いた。それも地面の下からだ。耳を澄ませば、誰かが、何かが呻いて……いや、泣き叫んでいるような響きが返される。

『なに、誰か……そこにい、っ、』

思わず立ち止まった瞬間だった。ごごん、と地面が悲鳴を上げて、「俺」はバランスを崩して倒れ込んだ。
――そんな、「俺」の土産が、「あのこ」の食餌が!!
ばらばらと散らばったご馳走と土産の石を見て、「俺」はカッとなってやおら立ち上がり、その場で怒り任せに足踏みした。
誰かが、何かが足下に潜んでいる。とてつもなくデカいやつだ……ざわざわと背中に悪寒が走り、それでも「俺」は土産物を駄目にしたやつを許せなかった。
出てこい、力の限り叫ぶ。叩っ切ってやる、喉奥が熱く燃えている。怒り任せに怒鳴り散らしたその刹那、ついに「そいつ」は地中から姿を現した。

『……ッ、ぇ、あ……?』

たとえばそれは、ぼんやりと光る青白いキノコや、珍しい艶めく羽虫。暗闇に沈んだ視界には、仄かに灯された明かりが酷く不気味で不穏なものとして眼に映る。
ぬう、と這い出てきたそれは、骨という骨を掻き集めて作られた「腕」だった。ゆらりと関節を振るわせて、それは躊躇なく振り下ろされる。

『……!!』

怒声を上げて抵抗の意思を示すも、骨腕に怯む気配はない。「俺」はすぐさま自慢の得物を横倒しにして、滑り込ませる要領で肘部分に刃を突き入れた。
ずぷん、と嫌な感覚が返される。手応えは浅い。ぱらぱらと骨の破片がこぼれ落ち、直後、はっとして「俺」はそれから視線を外した。
得物の刃に「俺」の顔が映り込む。視界から大ぶりの刀身が退いたと同時、「俺」は傷を負わせた骨腕の向こう側に、また別の骨腕が出現しているのを見た。

『……腕……両うっ、でッ、』

思い知る。「俺」が対峙した一本はあくまで囮だ。本命は、「俺」が反撃した隙を突くために暗がりに隠れてじっと息を潜めていた。
そんな馬鹿な……叫ぼうとしたときには、体に二本の骨腕が纏わりついている。生き物の気配を感じさせない無機質な乾いた感触に、全身がぞくりと粟立った。
どうするつもりだ、そう聞き返そうとした矢先、何かの塊が頭上から降ってきた。どん、と頭に着弾した後、どろりと額を伝って流れ落ちる。
骨と骨の隙間に見える、青白い光を放つ液体だった。においはない。ただ「俺」の顔面にべったりと貼りついて、その粘度で呼吸や発声を阻害してくる。

『――! ……!!』

おかしい。何も……何も見えない。青白い視界の中では星が瞬くばかりで、住み慣れた太古の森の景色がまるで目に映らない。
ああ……あの先で、あの奥で恐らく「あのこ」が「俺」の帰りを待っている。腹を空かせて、寂しさに縮こまって、「俺」の帰りを今か今かと待ち侘びている。
……早く帰ってきてね、なんて笑って見送りをしてくれたのに。ひもじいのも寂しいのも我慢して、じっと巣の傍で待っているはずなのに。
「俺」は、もうあそこに帰れないのか? 「あのこ」はあんなに寂しがりなのに、なのにもう二度と会えなくなるっていうのか。嫌だ、そんなのは嫌だ……
だって、こんなのはあんまりだ。「俺」たちの「たからもの」だって、まだ日の目を見ていないのに――

『待ってくれ……死にたくない、嫌だ、暗いのは嫌だ、嫌だ、死ぬのは嫌なんだ……帰らなければ、かえ、ら、』

――何故、どうして。なんで、よりによって「俺」なんだ。
いくつもの星が瞬いて、ふと視界がより暗くなり。そのうち眼を開けることも息を吐き出すこともできなくなって、「俺」は途方に暮れてしまった。
そうして終に、そのときはやってくる。
星々の狭間に、無数に並んだ凶悪な牙が見えた。白塗りの、暗がり、真っ暗闇、生き物の気配、心音……うずたかく積まれるのは、ただ純粋な恨みつらみ。
がらんがらぁん、と敷きつめられた骨が泣き叫ぶ。ぶつりと、頭の上で何かが千切れる音がした。

……やく……帰ってきてね……

愛しいこ。大好きなこ。綺麗で、可愛くて、なにものにも代えがたい、「俺」の大切なこ。もう二度と、会えない「あのこ」。
ぽつんと取り残された「あのこ」が、未だ、あの懐かしい場所から「俺」を呼び続けているような気がした……







「……ッ、あ、あ……うわぁああああっ!!」

目覚めれば、石造りの天井が見えた。汗とも涙とも分からない体液に顔面を濡らしたまま跳ね起きる。
額を、頬を、顎を、次いで首や二の腕、脇腹や太腿を掻きむしる勢いで必死に撫で回した。腕は二本、足も二本。首と胴体は繋がっていて、体表には穴もない。
手のひらに感触が返されること、汗の感覚が不快であること、現在地がどこかの屋内であることを視認して、詰まらせていた息を吐く。
溺死から生き返れば、こんな心地になるのだろうか……何度か大げさに呼吸を繰り返したところで、ようやく「先の体験」は夢だったのだ、と理解した。

「ニャー!? せんせっ、ハンターさん、気がついたのニャ!」
「おお、ハンターくん。よかったよかった、どうだい、痛むところはないかな?」

ぽすん、と力なくシーツに手の甲を落とした矢先、白髭の医師とフルフル装備に身を包んだアイルーが慌ただしく部屋に雪崩れ込んでくる。
悲鳴を聞かれてしまった……顔から火が出そうだ、そう呟きかけて、未だに心臓が早鐘を打っているのに気がついた。
ぐっと息を詰まらせたカシワを見て、看護担当のアイルーが水を手渡ししてくれる。礼もそこそこにグラスをあおって、勢いのあまり盛大にむせてしまった。

「その、俺はどれくらい……いや、それより一体、何がどうなって」
「まあまあ、落ち着きなさい。ここは龍歴院施設内の医療機関だよ。ほら、僕の顔に覚えはないかな」
「ニャー! あの日ハンターさんがドスマッカォにボッコボコにされてネコタクが来るまでの間にセッカチ応急処置したのが昨日のことのようですニャ!」
「うおっ!? そ、その話は勘弁してくれ……!」

ラティオ活火山に不測の大型モンスターの乱入があったこと。同時期に火竜狩猟の重圧から解放されたこと。連戦に次ぐ連戦で疲労が蓄積していたこと。
様々な要因が重なって丸一日寝込んでしまっていたのだと、龍歴院つきの医師は笑いながら話してくれた。
今度こそ顔を真っ赤にして、ランゴスタの鳴くような声で狩人は頭を下げる。一度顔を見合わせてから、医師たちは陽だまりのように穏やかに笑った。

「初心者あるあるというやつさ。狩りのペース、自分の調子。それは追々じっくり学んでいけばいい。なあに、生きて帰ってこられたんだからこれからさ」
「……先生」
「龍歴院はねえ……研究機関というのもあってか、ハンターの手が足りていないんだよね。各地から協力を募っているけど怪我人も絶えないし」
「ニャー。なので、あたしたち、ハンターさんが無事でホッとしてるのニャ。生きてさえいれば、人生なんとでもなるものニャ」
「そうか……それは、いや、手当て……ありがとうな」

返されたグラスを両手に抱えて、アイルーはにぱりと破顔する。「生きてさえいれば」。五体満足で戻ってこられた自分は、本当に運が良かったのだろう。
カシワはふと視線を手に落とした。あの、真っ暗闇に見出した無数の星は……思い出すのも辛い悪夢だった。
同時に思う。あれは本当にただの夢だったのだろうか。まるで自分がその場で体験したかのような、妙にリアルで重苦しい、哀しすぎる体感だった。

「そうそう、君が目を覚ましたらベルナ村にすぐ戻るように聞いているんだ。なんでも、帰りを待っている人がいるとか」
「ニャー。もしかしてイイヒト、なのニャ? ハンターさんも『スミニオケナイ』ニャ!」
「うんうん、青春だねえ、若いねえ。なあに、僕が若い頃なんかはね、」
「いや、ちょっ……わ、分かった、分かったから! 早くベッドを空ければいいんだろう!? そんなのいないんだ、だからそんなこと言わないでくれ……」

言っていて悲しくなってきた。かくりとうなだれたカシワに、さあさあ早く退こうね、サッサと起きるニャー、と医師たちはからかい混じりに退出を促す。
降りがてら視線を巡らせると、室内は窓掛けや間仕切りで閉ざされたスペースが多かった。装備を手渡しながら、医師は渋面を滲ませる。

「新種のモンスターが出たそうなんだ。住処を追っているらしいんだけど、怪我して帰ってくる人が多いんだよ」
「新種の? じゃあ、あの人たちは龍歴院の、」
「うん……僕は医者だからね、こんなことは大きな声では言えないんだけど。せめてねえ……生きて、帰ってこられる程度に踏み留まってほしいんだよね」
「それは……そんなに危険なやつなのか。もしかしてラティオ火山に乱入したっていうのは、」
「それがね……おや、ハンターくん。一足早く迎えが来たみたいだよ」

跳狗竜の羽根帽子を被り、さて最後にパーツの微調整を、と急ぐ傍らで。医師の朗らかな声に振り向けば、新米狩人の顔はみるみるうちに歪んだ。

「寝坊にもほどがあるな。よく休めたんじゃないのか、カシワ」

如何にも、あからさまな嫌みを込めた視線とともに不穏に笑う男が一人。見慣れた銀朱の騎士は、カシワが後退るのを見た瞬間つかつかと足早に寄ってくる。

「では、これは返してもらうぞ。手間をかけさせて、悪かった」
「ああ、うん。僕は構わないよ。お大事にねー、もう無茶するんじゃないよー、ハンターくん」
「どわっ、ちょっ、ゆ、ユカ! 首! 首、締まっ……」
「ニャー。ハンターさん、しゅっぱ〜つニャ!」

襟首を掴まれたまま、新米狩人は引きずられるようにして出ていった。
残されたふたりは思う。無数の裂傷と解毒痕、少量の火傷と過労による精神摩耗。運び込まれたとき、件のハンターはあまり「よろしくない」状態だった。
死の淵に立ったわけではない、呼吸も脈も安定している……しかし、長年勤めていれば専門職として見えてくるものもある。

『生き急ぐ阿呆だ、あんたなら分かるだろう。若い頃の俺と同じだからな……治療は狩り場で済ませてある、少時間だけでも仮眠をとらせてやってくれ』

そんな中、ぶっきらぼうにそのようにまくし立てながらネコタクから彼を引っ張り下ろし、ここに預けていったのが先の男だ。
何年か前、ドンドルマという花形都市から龍歴院に派遣され、ハンターとしても「騎士」としてもがむしゃらに働く男。
派遣された当時、彼もまた黒髪の狩人と同じく生き急ぐかのような狩猟を見せていた。怪我の頻度は年齢を重ねるごとに減少したが、やはり今でも気に掛かる。

「ねえねえ、正直僕はさ、安心しちゃったんだよねえ」
「ニャー? ユカしゃんのことですニャ?」
「そうそう! 若いっていいよねえ、後続を育てる楽しみが持てるんだから。手の掛かる子ほどいいよ。でないと、やりがいがないもんねえ」

隣で新しい包帯の包みを開封する小さな相棒に、医師は心底おかしいとばかりに目尻をくしゃくしゃにして笑いかけた。
あの狩人は危うい。強敵を狩り、周りの期待に応え、自身の成長をその手で掴み取ろうとも……己の限界を見極められないようでは、いずれは破綻する。
かつて自分がそう諭したように、彼の騎士もまた、何度もしつこいほどにあの新米狩人を指導しなければならないだろう。
本音を言えばちょっとだけざまあみろだ、と医師は失笑した。若いからこその慢心、過信、自暴自棄。ユカのそれには常にひやひやさせられたものだった。
とはいえ、成長し大人としての落ち着きを得てからというもの、銀朱の瞳はかつての反抗や敵対心といった激情をすっかり潜めさせている。
近頃はこうして施設に顔を出す機会すら減っていた。それを、少しばかり薄情だな、寂しいな、と思わずにはいられなかったのだ。

「面白かったなー。ねえ、あの子を運んできたユカくんの顔ったら! 頑張って『先輩』をやっているんだなーって」
「ニャムー。せんせっ、そろそろお仕事して下さいなのニャ!」
「あは、ごめんよー。いやあ、次にどんな怪我をして担ぎ込まれるか……わくわくしちゃうねえ!」

あの銀朱の騎士の口ぶりから察するに、黒髪の狩人には助言を与えたり道を示したりと、彼の助けとなってくれるであろう協力者が他にもいるようだった。
思う存分、足掻いて欲しい――龍歴院管轄下の狩り場には、未だ解明されていない事象やモンスターの姿も散見されている。
願わくば、彼らの狩りが安全なものであることを。狩人として実になる出会いを、心から楽しめることを。
礼もそこそこに立ち去った若い二人の背中を思い起こして、医師は窓代わりに開けられた穴から眼下の庭園へ、静かに視線を落としてやった。





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 UP:22/03/21