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モンスターハンター カシワの書(34)

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父は、慕われるハンターだった。いつでも楽しそうに笑っていて、大勢の人に囲まれていて、感情的に泣いたり怒ったりしたところを見たことがない。
優しくて、撫でてくれる大きな手が心強くて、ただ喧嘩っ早かった自分を穏やかな声で根気よく諭してくれる、出来たひとだった。
だけど、父が他のハンターのように遠方に出向して凶悪なモンスターを狩ってどこそこの村を救った……だとか、そんな話は聞いたことがなかった。
何故、父はこの村に住み続けることができたのだろう。狭い村だ、自分をいじめた連中のように性格の悪い奴だって少なからずいたのに。
どうして、村の名士の娘である母との結婚を許されたのだろう。小さな村だ、あちこちから反対されるのは目に見えて明らかだったのに。
父の口癖は『俺は大型モンスターを満足に狩れない、弱虫なんだ』だった。幼い自分には、そんな父の思わせぶりな言葉が不思議でたまらなかった。
だったらどうして、父はきちんとした片手剣を武器としていられたのだろう。
いつだって肌身離さず、巡回のときだって身に着けているものなのに。それが大型の素材から作られていることくらい、誰だって分かることなのに。
弱虫だ、大型は狩れない、そう言ってはばからない父を馬鹿にして、後ろ指を指してくる奴も中にはいた。
村中から好かれる狩人を妬んでのやり口だと分かっていたから、自分は……「俺」は、そうした連中にムキになって口答えばかりしていた。
それで結局喧嘩になって、最終的には父が黙ってそいつらの親に頭を下げに行く。俺は、母に宥められながら父の帰りを待つばかりだった。
『先に喧嘩を売ったのはお前だろ。謝りなさい』……そんなことを父が口にしたことは、一度もない。
父は黙っていた。無言で帰るなり俺の頭を撫でてくれた。何も言わず風呂に入れてくれて、俺を手招きして、男二人、布団にくるまって朝まで眠った。
俺にはそっちの方がよほど堪えた。叱ってくれた方が、怒ってくれた方が、すんなり謝ることだってできるのに。
村を出るまでの間、それこそ、ハンターを志すようになった今でもなお。俺はあの頃のことを、未だに父に謝罪できていない。

……たとえば、近くで飛竜が巣を作っただとか、川の周辺に小型がハーレムを築いただとか、貧村にしてはかなりの大がかりな狩猟がある日。
父は、決まって前夜のうちから家を空ける。俺が熟睡した頃を見計らって、母と示し合わせたようにして家を出るのだ。
どんな狩りが成されたのか、相手はどんなモンスターだったのか。俺が矢継ぎ早に尋ねても、帰宅した父は曖昧に笑ってはぐらかすばかりだった。
俺はそれが余計に父を弱虫に仕立て上げているような気がして、わざとむくれたりもした。だけど、それでも父は狩猟について何も語ってはくれなかった。
いつの日か、村が夕焼けで真っ赤に染まった、巡回の帰り道。勇気を出して、父に聞いてみたことがある。

『父さん。父さんのソレって、火竜の剣だよね?』
『うん? ああ……まあなー』

分厚い革と毛、鋼鉄で仕立てられた見慣れた防具。その腰部分に下げられる小振りな剣と、右腕にしかと固定された盾。
どちらも目を惹かれる鮮やかな銀朱の色をしていた。刀身に至っては文字通り赤熱を帯びており、昼夜を問わず明々と燃えている。
刃が赤く燃えているのに、どうして火傷をしないのだろう……疑問が顔に浮いていたのか、見上げた先で父は苦笑混じりに柔らかく目元を緩めていた。

『そうだな。こいつは、リオレウスの素材でできている片手剣なんだ』
『やっぱり! ……あれ? でも父さんって「アプトノス」や「ケルビ」くらいしか狩れないんじゃなかったっけ』
『ん? だなー、大型モンスターとか……弱虫には無理だよ』
『またそれかよ!? じゃあ、その剣はどうしたんだよ。ま、まさか誰かから借りてるとか』
『はは、そうかもな。俺の友人や知り合いは……皆、腕利きだったからなあ』

父の狩猟の腕前は、結局とんと聞こえずじまいだった。
狭く小さな農村にはギルドの支部もなく、幼い頃に聞かされた通り父は村の周辺を警備しているだけのひとなのだと思っていた。
母もそれを否定しない。父がどんな狩り人だったのか、本当に草食種しか狩らない弱虫だったのか……真相が語られたことは、一度もなかった――






「――なのに、これか」

思考を、回想の泥濘から引きずり出す。眼前、宙に浮く巨体を見上げてカシワは目を細めた。
鮮やかな銀朱の色、黒塗りの棘と、空色の眼。ハンターを目指す者なら誰でも憧れ、またハンターに縋る者なら誰でも恐れる、そんな巨躯がそこにいた。
火竜リオレウス。大型モンスターの中でも特に危険度が高く、縄張り意識の高い飛竜種に分類される雄の個体。
以前相手にしたリオレイアはこれの雌にあたり、彼らはその巨大な翼と高い飛翔能力を駆使して、広大なエリアを支配下に置く。
それというのも、彼らは仲睦まじいつがいとして共同生活を営むからだ。理想とする場で巣作りをし、雌が卵を守り、雄は餌を獲りがてら警備にあたる。
恐ろしいのは、その繁殖まっただ中にある彼らの気性だ。雌は仔を守ろうとし、雄はどちらも護ろうと警戒心を剥き出しにする。
故に、「繁殖期の火竜の巣には近寄るな」という暗黙のルールが世界各地に浸透しているほどだった。
その時期はただでさえ強い彼らの縄張り意識が、より研ぎ澄まされてしまうからだ。
ことにリオレウスは人間の手の届かぬ天上から地上を見張っている。
たとえ害意を持たない人間の子どもや菜食主義の神官といった相手であろうとも、巣に近づく者は彼らにとっては皆、平等に敵なのだ。

「……っ、う、クーラー切れ……ッ」

汗が滴る、視界が揺らぐ。背中、左肩と、太く鋭い刃物に抉られたようにほつれた防具の隙間から、じわりと滲んだ緋が流れ落ちた。
しかし、それに構っている余裕はない。目の前に滞空するリオレウスの口元には、ちらちらと赤い炎がくすぶっている。
……頭部、鱗はところどころを欠けさせた。両翼、どちらも無傷。首元、尻尾には浅い傷が少ししか付いていないが、脚にはおびただしい出血が見られる。
こちらも手負いだが、向こうも同じだ。体を内側から強制的に冷やす飲料より先に、カシワは手持ちの解毒薬のうち二本目を口にする。

「っ、ぶ、にっが……!」

今回は、上手く調合できた方だと思っていた。苦みが強い。いや、これは口内に残った鉄錆の味だ。知らず舌打ちが漏れる。
蛇鉈は手放さないまま、ぐっと両足に力を込めて前へ跳ぶ。直後、背中からとんでもない大音と衝撃が鳴り響いた。
着弾、火の粉、岩肌と生物の肉を焼く悪臭。リオレウスが自らの喉を焼くのと引き換えに吐き出した、強力無比な火球だ。
間一髪のところで避け、手に余る空き瓶をその場に投げ捨てた。
カチンと音が鳴ったと同時に、巨体が空から滑り落ちてくる。ブレスを外したと悟った瞬間、火竜は即座に至近距離での引っ掻き攻撃に身を転じた。
こいつを喰らうのは二度、いや、もう三度目だ! 振り下ろされる冷ややかな爪を、カシワはぐると後ろに身を転がすことで避ける。
とんでもない判断力の持ち主だと、そう思う。高度、体勢を維持したまま、的確にこちらの頭や関節めがけて爪を振るうのだ。恐ろしい以外の何物でもない。

「でぇいっ!!」
『カオォッ、』

地の利はリオレウスにある。凶悪な風圧を後ろに下がって辛うじてやり過ごし、着地したところを狙ってなんとか頭部に刃を食い込ませた。
メキッと嫌な手応えがあると同時、リオレウスはお返しとばかりに直立したまま体を回転させる。長い尻尾を活かした横殴りだ。
バチン、と構えた盾ごと後ろに下がらされ、また飛竜と距離が空く。
じわじわと腕が痺れていく。熱気に剥き出しにされた肩が重く苦々しい痛みを訴え、一瞬息の仕方を忘れた。
は、と吐き出したときには既に火竜の巨体が目の前に迫っている。盾で防ぐか、間に合わない、咄嗟に剣を収めて横に飛び退いた。

「……! あっ、」

振り向いた瞬間、カシワはリオレウスが両翼をぐわっと大きく揺らし、羽ばたく様を見た。
口元の火は一向に引かない。怒り狂ったままの状態で、火竜は単身、フィールドから上空へと飛び去っていった。

「……っ、くそっ。駄目だな……」

疼くような鈍痛が思考を妨げる。よろりと大きくよろめいて、倒れ込むようにして無数の穴が開いた溶岩石の岩場に背中を預けた。
冷え固まって形成されたはずの岩肌は、周辺の溶岩と熱気でじっとりとした熱を帯びている。しかし、消耗しきった体では寄りかかれるだけマシだった。
ポーチから分厚い動物の毛皮で覆われた瓶を取り出し、口をつける。
薄く白く濁った液体は混入させた大ぶりの氷できんと冷やされていて、喉に流し込んだ直後、瞬く間に体感温度を下げていった。
一、二秒と口内で数えた頃には、心身を蝕んでいた熱病に近い不快さと熱とが和らいでいる。盾をくくりつけた腕を動かして、僅かに残った額の汗を拭った。

「さて。あいつは飛べるから、どこに行ったのか……見当もつかないな」

一度げほっと大きく咳き込んでから、カシワはリオレウスが飛び去った方角へ視線を走らせた。上空、火竜の去った方角に、黒く燻る噴煙が見える。
ラティオ活火山。大陸に存在する火山地帯の一つで、経年変化で固められた地盤がそれなりに安定した足場を約束する狩り場だった。
噴火口は山頂近く、溶岩石製の足場の真下にあり、また、溶岩が絶え間なく流れる赤熱の大河はその外観も相まって、容赦なく来訪者の心をへし折る。
一方で、古い昔から、この地には豊かな鉱石資源と環境に適応した動植物が散見されていた。
どれもがここでしか見られない独自の進化を遂げたものばかりで、それ故に大型モンスターの狩猟依頼だけでなく採集クエストの出発点としても知られている。
カシワはおもむろにハンターノートを取り出すと、革製の表紙に貼りつけていた受注書に視線を落とした。
「リオレウス一頭の狩猟」。指定された狩り場はまさにこのラティオ活火山で、オトモなしでの挑戦も、来訪そのものも実は初めてのことだ。

「……せめて、アルかリンクを連れてくるべきだったか」

頭を振る。一人で挑むと、そう決めたのは自分自身ではないか。
ホロロホルル、イャンガルルガと連戦した結果、自分がいかに至らないハンターであるのか……数刻前に嫌というほど知ってしまった。
クリノスという先輩狩人、アルフォートやリンクといったオトモたち。彼女らが心強い味方であることは確かだが、依存してしまっては意味がない。

「……駄目だ、とか言ってる場合じゃないだろ。怖がるな、しっかりしろ、『      』に……会ってみたいんだろう」

額に拳を押し当て、言い聞かせる――立ち回りがなんだ、武器の扱いがどうした。知識の差も経験の未熟さも今に始まったことではない。
クリノスやステラが腕利きであることは、もうとっくに分かっている。それが見抜けないほど自分の目は曇っていない。カシワにはそんな自負があった。

「クリノスたちに笑われるぞ、しっかりしろ、俺は……俺は、『草食種しか狩れない』わけじゃないんだ」

ここまできた、ここまでこれたのだ。思い上がりでも傲慢でも構わない。少しでも夢みた邂逅に近づけているのなら――それだけでいい。
リオレウスは、名だたるハンターの誰もが相手にしてきた格式高いモンスターの一柱だ。彼を狩った者は、その時点で一人前の狩人と見なされるほどだった。
たとえ下位クラスの個体であろうとも、狩猟を果たせば相当の自信に繋がるはず。苦笑いする父の顔を振りきるように、頭を振った。
ぐっと両膝に力を入れ、身を起こす。飲み余したクーラードリンクの残りを飲み下して、回収し損ねていた解毒薬の空き瓶ともどもポーチに押し込んだ。

「ふうっ……翼があるんだ。行くとしたら、広くて障害物の少ない見晴らしがいい場所だよな」

回復薬を摂取した後、岩盤の上を一気に駆け抜け北上する。目指すは山頂近く、岩盤が露わになり、開けた平坦な足場を確約する狩り場だ。
黒煙と硫黄臭が絶えない、生ける山。かつては、父もこんな場所に狩りをしに来たことがあったのだろうか。
村に定住する以前、母にも自分にも見せなかった隠された一面があったりはしなかっただろうか。
「草食種しか狩れない」。そんなこと、信じたくなかった。いつだって自分にとって父は良い父親であったし、良い指導者であってくれたのに。
何故、父はその一言を否定してくれなかったのだろう。弱虫などと自称する男が、火竜の武器など持てるはずがないのに。

(やめよう。今、そんなことを考えてる場合じゃない)

……エリア七に到着すると同時に、カシワは再度手元に視線を落とした。抱えたままのハンターノートは、いつしか表面が汚れ、縁には破れかけた部分さえある。
まだ空欄と空白が多く残された狩りの軌跡。ぱらぱらとページをめくり、最終ページのところで手を止めた。

「ここを埋められる日なんて、本当にくるのか……?」

龍歴院の登録窓口で受け取った、自分のためだけの狩猟帳。決して手をつけまいと、普段は見ずにいる一番最後の一ページ。
そこに、あのおとぎ話の黒い龍のことを書き留めようと決めていた。
これは半ば願掛けのようなものだ。生涯を掛けて出逢えるかどうかも分からない、伝説の龍。実在するのかどうかも分からない、伝承の化身。
カシワは大きく嘆息する。刹那、頭上にふと影が差し、意外にも勘が当たってくれたことに目を見開いた。

「なあ、お前はどこから来たんだ。リオレウス」

滞空する王者は、狩人の問いに応えない。怒りに空色の眼を燃やして、ぶわりと熱風を翼に巻き込みながら着地する。

「どこから来て、どこに行くんだ。森丘か、それとも生まれたときからずっとここ育ちか」
『――ドギャアアアアッ!!』
「お前にも家族がいるのか。それともいたのか……俺たちみたいに」

たとえば、母親がぐずる幼子におとぎ話を聞かせるように。
あるいは、父親が狩りの方法を活発な少年に教えるように。
人間とモンスター、ハンターと自然の脅威。目指すものがなんであれ、愛するものが誰であれ、今を生き延びようとしていることは確かだ。
きっとそこに、明確な差はない。この火竜を狩ることで、自分はまたひとつ、父の深意に近づけるような気がしていた。

「答える義理も、ないっていうのか」

だから狩る。たとえ同じ生き物であろうとも、自分は先に進まなければならない。
父の名誉を挽回するため、伝説に一歩でも近づくために。

「ッ、バックジャンプ、それからっ……」

突如として後方に飛び下がり、リオレウスは間合いをとると同時に強烈なブレスを吐き散らした。
何発も続けて放てるのは、彼の治癒能力が高い証拠だ。己がブレスで焼けただれた喉は、すぐさま回復を済ませて次なる装填を可能とする。
生ける砲台さながらだ。立て続けに降り注ぐ火弾に、カシワは嫌な汗を垂らしながら逃げ惑う。

(……閃光、玉っ!)

かといって、逃げてばかりでは狩猟にならない。ポーチの中を乱雑に探り、石で練り込んで粘度を高めたネンチャク草の包みを取り出した。
迷わず、放る。火竜に背を向け、彼の視線が投擲物に釘付けになるよう祈りながら、カシワはぐっと目を閉じた。
目蓋の向こうで、閃光が熱を白く塗り替える。アオッ、と切ない悲鳴、次いで重量感ある物体の落下音。地鳴りを足裏に感じた瞬間、すぐさま取って返した。

「――一、二、三秒っ!! 起きる……!」

抜ききった蛇鉈で、懲りずに頭部を狙う。しつこい、とばかりに、リオレウスはカシワのカウント通りのタイミングで起き上がった。
ざり、と片脚が威嚇するかのように地面を掻く。恐怖を誤魔化すようににやりと笑い返してみたところ、火竜はお気に召さなかったのか、大声で咆哮した。

「ッ、うおっ!?」

広げた翼は、鮮やかな銀朱と鳥の子色。翼膜に描かれた、彼を火竜たらしめる特徴的な黒炎の模様。
間近から睨まれたような心地だった――威圧、畏怖――一度羽ばたき、体勢を整えた巨体が正面から突進してくる。
咄嗟に身をひねって、命を救った。密集した鱗が発達して形成された頑丈な甲殻は、跳狗竜の素材などものともいわず弾け飛ばす。
ざりざりとざらついた岩盤の岩を滑り、歯噛みして、片腕で地面を押しのけるように起き上がった。

「……! 飛びすぎだろっ!!」

再度、バックジャンプ、火球の連射。乱れた呼吸のリズムを取り戻す暇もない。おまけに閃光玉の効きも悪くなっている。
正面から飛来したブレスを盾で防ぎ、意地で前に踏み出す。重くなり始めた腕を叱咤して、リオレウスの視界の端めがけて四つ目の手投げ玉を放った。

「いいか、トッテオキだ! お前と俺、どっちが『保つ』か……っ」

赤色の瓶は、ボックスに溜め込んでいた秘密兵器。飲み干すようにヴァイパーバイトの刀身が怪しく光り、落下して身悶える火竜の頭に食らいつく。
ぞりん、と恐ろしい手応えが指先に走った。砕けた鱗と甲殻の一部が、ぱらりと黒塗りの溶岩石に吸い込まれていく。
怯み、歯噛みし、勢いあまって唇を切る。一人と一頭、ふたり分の緋が飛ぶ中、飛竜側の苦鳴が響いた。

「……っは、はあっ……逃げ、る……」

風圧に阻まれ、カシワは追撃の手を止めざるを得ない。よろりと、巨躯が傾ぎながら飛び立つ様が見えた。
……自分のルーツは、恐らくは父と同じ「弱虫」だ。見たことも対面したこともない未知なる存在、飛竜種をはじめ全てのモンスターの頂に座する「伝説」。
そんな存在に邂逅してみたいがために、ここまでやってきた。「知る」ことも「知らない」ことも、どちらも恐ろしくてたまらない。
手のひらに目を落とす。蛇鉈を納刀し、身軽になったはずの革手袋は、小刻みに震えていた。

「……今更……今更やめるなんて、できないだろ」

眉間に力が籠もった。もう一度額に拳を押し当て、気合いを入れ直して歩き出す。
目指すは山頂、恐らくはリオレウスの眠る巣の元へ。暗く染まりつつある天上に、ちらちらと銀光が瞬き始めていた。





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 UP:22/01/29