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モンスターハンター カシワの書

 サブクエスト : 轟虎、砂塵の追憶


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「この話」「この話」の別視点。時間軸はクロス開始時より、二〜二年半前くらいの設定です。



よく食べていたのは、ずんぐりむっくりとした大きい草食竜の肉だ。うまいっていうか……普通の味だったかな。
腹が減ってたから喰うって感じで、めちゃくちゃうまいわけじゃない。
かーちゃんが分けてくれるから嬉しくてよく食べたけど、大好物ってわけじゃあなかった。
肉を食べるって大変で、かーちゃんはよく噛み砕いたのを喰わしてくれた。草食竜も結構、抵抗してくるしさあ。
あいつら、動きが鈍いくせに、オレが近寄るとすごい勢いで突進してくるから、その度にかーちゃんが追っ払ってくれた。
あいつらがいなくなった後は、かーちゃんに頭を噛まれて怒られる。巣から出るにはまだ早い、この大馬鹿、って。
よく分かんないけど、こういうのをリフジンっていうんだと思うんだ。
あいつら、オレがかーちゃんくらいに大きくなったら、ズタズタのギタギタにしてやる、って、ずっと思ってた。
だって、あいつら、オレとかかーちゃんに喰われるくらいしかできない連中ばっかだったし。
なんのために一緒のフィールドで生活していかなきゃいけないのか、オレにはさっぱり分かんなかった。
そう、オレが住んでたところには、あいつらとか、うるさい虫とか、ギャーギャーうるさいゲネポスなんかも暮らしてた。
かーちゃんにしがみついて遊んでると、砂が舞って、すぐ口がカラカラになる。
水場にはあの草食竜たちがたむろしてたから、かーちゃんが着いてきてくれないと飲みにも行けなかった。
オレは、自慢じゃないけど口がすんごいデカかったから、屈んで水を一口飲む、ってだけでも結構大変なんだ。
あいつらムカつくし。喰ってやりたいけど、オレにはまだできないし。あいつらのこと、今でもやっぱりムカつくし。
早くでかくなりたいって、毎日ずっと思ってたよ。オレ、かーちゃんがいないと、なんもできなかったから。



……ああ。あの日のことは、よく覚えてる。
空が眩しくて、いつにも増してすんごい暑い日で、腹は減るし喉は乾くしで、なんか、ムズムズして泣いちゃってた。
かーちゃんが、お肉とってくるから待ってなさい、って言って、巣から出て行ったんだ。
それっていつものことだったし、暑いなー、早く帰ってきてくんないかなーって、オレは特に気にしてもいなかった。
かーちゃんはすぐぱーっと帰ってきて、肉を喰わしてくれるんだろうなーって。そう思ってた。
なんていうか、リフジンなことって、すんごいいっぱいあるんだって、思ったよ。
あのとき……目の前が急に真っ暗になって、耳障りな音がして。気がついたら、見たことない奴が巣の真ん前に立っていた。
かーちゃんよりずっと大きい体で、そこかしこが真っ赤に充血してて……生き物の死骸とか肉片とか、そういう臭いがした。
そいつはものすんごく怒ってて、苛ついてて、不気味な音が鳴り響いてた。そいつの腹の音か、唸り声だったかもしれない。
オレはもう、わけ分かんなくなって、たぶんビックリし過ぎてて……巣に残ってた卵の殻に隠れるしかできなかった。
かーちゃんのでっかい声が轟いたのは、オレが頭を殻に隠そうとジタバタしてたときだった。
よかった、助かった、って、そう思ったよ。だって、かーちゃんはどんな奴にも負けたことないくらい強かったから。
そうそう、たまに、オレたちが住んでる巣の近くをニンゲンが通ることがあるんだ。二足歩行のひょろひょろした連中さ。
あいつらは、ハンター、って呼ばれてるらしいんだけど、かーちゃんはそいつらだってぱーっと追い返しちゃうんだ。
ほっとくと、巣から卵を持ってったり、かーちゃんやオレを攻撃したりするんだって。かーちゃんがそう言ってた。
な? かーちゃんって、すんごい頭よくて、強いだろ?
だから、あの真っ黒なでっかい奴だって、かーちゃんならケチョンケチョンのギッタギタにできるって、オレは思ったんだ。
かーちゃんは、やっぱり強かったよ。でも……でも、あいつは、かーちゃんよりずっと強かったんだ……。
オレ、かーちゃんを助けようと思ったよ。だってかーちゃん、頭を噛まれて振り回されて、すんごい痛そうにしてたんだ。
見てらんなかったし、聞いてらんなかった。オレだって雄だもん、かーちゃんをあいつから助けたかったよ。
でも、でも……足が震えて、怖くて、動けなかった。
オレ、かーちゃんが痛い、痛い、って泣いてんのに、動けなかった。逃げろ、って言われたのに、動けなかった。
怖かったんだ……あいつもそうだし、かーちゃんが苦しんでるを見るのも、オレがなんもできないのも、怖かったんだ。
どうしよう、逃げなきゃって、ぐるぐる考えて、巣の中で震えてた。血の臭いがして、頭が真っ白になった。
かーちゃんが殺される! 分かってたのに動けなくて、オレ、思いっきり叫ぼうとした……そのときさ。

「――オミャー……っばか、静かにするニャ!」

気がついたら、オレと同じくらい、うん、それくらいちっちゃい生き物が、オレの体に覆い被さってた。
土より濃い茶色のゴワゴワした毛と、細くて脆そうな腕と足、三角形の伏せられた耳。そいつはメラルーだった。
かーちゃんに聞いたことがある。ハンターをからかったり、時には手助けしたりすることがある、ジュージンゾクだって。
オレはどいてくれ、って言おうとしたけど、そいつがぎゅっと抱きついてくるから、それ以上を喋られなかった。
怖いのはそいつも一緒だったんだ。ちっちゃい体が、震えてたから。
そうやって、二人でブルブル震えてるうちに、あの真っ黒なでっかい奴の気配が、あるとき急になくなったんだ。
同時に、かーちゃんの声がなんにも聞こえなくなった。オレは、抱えられたまま辺りを見回した。かーちゃんを探したよ。
かーちゃんは……いたよ。巣の前で横たわって、ぴくりとも動かなくなっていた。
血なまぐさいなんてもんじゃない、ひどい血の臭いがした。
オレは我慢できなくなって、そいつの腕から飛び出した。急いで急いで駆け寄ったけど、かーちゃんはもう動かなかった。
どれだけ呼んでも、返事してくれなかった。抱っこだってしてくれないし、頭をかぷって噛んでもくれなかった。
だって、かーちゃんはどこもかしこもボロボロで、ぐちゃぐちゃで、そもそも喋ることすらできそうになかったんだ。
オレやかーちゃんが、草食竜を喰い散らかしたときとよく似てる。かーちゃんは、あの真っ黒な奴に喰われちゃったんだ。
オレ、胸がぎゅーっと痛くなって我慢できなくなって、ワンワン泣いたよ。枯れるんじゃないかってくらい泣いた。
かーちゃんはもう目を覚ましてくれない、オレと一緒にいてくれない。オレにだって、それくらいすぐに分かったから。
どれくらいそうしてたか分かんないけど、なんか、後ろがごちゃごちゃうるさかった。
あのメラルーがオレをかーちゃんから剥がそうと躍起になっていた。
オレ、必死に掴まったけど、噛みつきさえしたけど、牙がちっちゃかったから、あっけなくかーちゃんから離れちゃった。
頭ん中ぐちゃぐちゃで、体もブルブル震えっぱなしで、ずっと泣いてたけど、あのメラルーがぎゅっと抱っこしてくれた。
かーちゃんを呼びながら、オレはいつの間にかすとんと寝入っちゃってた……どこかで、誰かが言い争う声が聞こえた。






「――おう、起きたか。オレはチャイロニャ、茶色い毛並みだから、チャイロ。オミャーは……ま、ニャんでもいいか」

目が覚めると、オレはやっぱり、あのメラルーに抱っこされてた。ちっちゃい腕がすんごい頼りなかったのを覚えてる。
かーちゃんがよく草食竜を捕まえに行ってた、竜の巣の近く。まだオレがよじ登れなかった崖の上に、オレたちはいた。
降ろしてもらって、崖の下を見た。水場の周りにはやっぱりあの草食竜たちがたむろってて、目が合ったような気がした。
別に怖くなんかない。けど、つい、ほんとについうっかりそっと後ずさりしちまったオレを見て、メラルーは

「なんニャ。オミャー、アプケロスがこえーのか」

なんて、ケラケラ笑った。
なんかムカついたから、牙をカチカチ鳴らしてやった。かーちゃんみたいに、かっこよく鳴らせなかったけどさ。
腹が減っただろ、ってメラルーは笑いながら言った。言われて初めて、昨日から何も喰ってないことを思い出した。
腹が鳴りそうになって、オレはまたカチカチ牙を鳴らしてやった。先に腹の虫を鳴かせたのはメラルーの方だったけど。
飯にするか、って言って、メラルーは崖から降りてった。オレはどうしたらいいか分かんなくて、その場でウロウロした。
降りるのはいいけど、登り方分かんなかったし。あいつが、かーちゃんみたいにオレを背負って飛べるわけがないんだし。
ぽつんとあいつの帰りをひとりで待ってると、かーちゃんが動かなくなったことを思い出して、背中がぶるっと震えた。
牙をカチカチ鳴らしてみたけど、それは危ないからあんまりやっちゃダメ、って怒るかーちゃんの声を思い出した。
けど、かーちゃんはもう動かないから……オレは目がぎゅっと熱くなって、ちっちゃい声でメラルーを呼んだ。
もう戻ってこないんじゃないかって、ちょっとだけ、ちょっとだけオロオロしちゃったから。
いっそ思いきり叫んでやろうか、って首を低くしたとき、あのメラルーがのそのそ崖を登ってくるのが見えた。
オレは、別に心配したわけじゃないんだけど、急いで駆け寄って、そいつが怪我してないか、臭いを嗅いで調べてやった。
メラルーは、やめろニャ、くすぐってーニャ、ってケラケラ笑った。
オレはなんかほっとして、急に体がムズムズし出して、飛び跳ねたくなって、メラルーにべたべた引っついて回った。
メラルーは短い手足をバタバタさせて、思いっきり笑ってた。
そいつの腰んとこにあるポーチから、いい匂いがした。オレは、ジマンじゃないけど鼻がいいからすぐに分かるのさ。
そうだった、って言って、メラルーはポーチを開けて、中身を広げてみせた。見たことないヘンなのも、いっぱいあった。
そん中にあの草食竜たちの肉や、それを焼いた骨つきの肉なんかが混ざってて、オレはすんごい鼻をひくひくさせた。
腹は減ってたし、早くくれよ、ってメラルーにせっついたよ。メラルーは、笑いながら生の方の肉をオレにくれた。
メラルーはこんがり焼けてるやつをかじってたけど、オレがまだ肉を噛まないでいるのを見て、にじり寄ってきた。

「オミャー、ああ、こんなちっちぇー牙じゃまだ噛めニャいか」

オレは、そんなことない、って肉に噛みつこうとしたんだけど、牙が食い込まなくって、表面をツルツル滑るだけだった。
仕方ねーニャ、って言って、メラルーは思いきり生肉に噛みついた。一瞬、嫌そうな顔してたけど、頑張って噛んでたよ。
噛みまくって細かくなったのを、メラルーはオレに少しずつ喰わしてくれた。かーちゃんがよくやってくれてたやつだ。
オレは、腹が膨れていくのと、飯が食えて嬉しいのと……かーちゃんのことを思い出して、ちょびっとだけ泣いた。
メラルーは、引っ付いて泣いてるオレの背中をずっと撫でてくれた。肉は、少しだけ、いつもよりしょっぱい味がした。

「ニャァ……名前がねーってのも、不便だニャ。オミャー、どんな名前がいい?」

メラルーは、チャイロは、時々そうやって、オレがよく分かんない話をした。
夜になったときに空を指差したり、水場に糸を垂らして中から魚を取り出したり、木をくべて熱い赤い何かを作ったり。
オレは、チャイロはなんでも知っててすんごいな、って思った。
かーちゃんより力もないし、体もうんとちっちゃいけど、チャイロは色んなことを知っていた。
オレは、よく分かんないまんまに話を聞いたり、長話になりそうなときはチャイロにべたべた引っ付いたりして遊んだ。
チャイロが言うには、ここ以外にもセカイはうんと大きいところまで広がっていて、そこにはオレの仲間もいるんだって。
仲間っていうのが何なのか、オレにはよく分かんなかった。
けど、その話をするとき、チャイロは決まってしょんぼりしてしまってる。
だから、チャイロがそういう、セカイの話をし始めたときは、オレはいつも以上にあいつに引っ付くことにしていた。
背中に乗せてやると特に喜んでくれたから、オレはもっと力をつけたくって、もりもり肉を食べるようにしたよ。
チャイロが笑ってんのを見るのは、オレも嬉しい。背中がムズムズして、胸がもぞもぞして、わあって飛び跳ねたくなる。

「そうだニャ、ティガレックスだから、ティガ。オミャーは今日から、ティガニャ。安直かニャ?」
『そんなことないよ! よく分かんないけど、オレ、それ好き!』
「ニャハハ、って、オイオイ、ティガ。そうくっつくニャって、くすぐってーニャ」

チャイロは、いつの日からか、オレをティガって呼ぶようになった。
チャイロがチャイロなら、オレはティガ。じゃあ、ティガっていうのは、ずばりオレのことなのかもしれない。
なんか不思議な気分になって、オレはまたチャイロにべたべた引っ付く。かーちゃんみたいに頭をそっと噛んだりもした。
オレの牙は、最近どんどん大きくなってきたから、気をつけないとチャイロはすんごい痛がってしまうみたいだ。
オレは、アプケロスたちを噛むよりうんと、うんと加減をして、チャイロが笑えるくらいに優しくして、丸い頭を噛んだ。
チャイロを背中に乗せて、朝も昼も、空が真っ赤に燃える日も、星っていうのが光る日も、ずっとセカイを見て回った。
やっぱり、チャイロは難しい話ばっかりした。
けど、チャイロが言うことを聞いたり守ったりすると、チャイロはうんと喜んでくれる、オレをたくさん誉めてくれる。
オレはそれが嬉しくって仕方なかった。アプケロスに思いきり飛びかかったり、崖を爪で無理矢理登ったりして見せた。
そのたんびに、チャイロは手を叩いて喜んでくれた。オレは体がムズムズして、翼でどすどす地面を叩いて鳴らした。
……オレは、チャイロが喜ぶならなんだってしようって、そう思ったよ。
あのとき、チャイロがオレをかーちゃんの横から連れ出してくれなかったら、オレもきっと動けなくなってたと思うから。
だから、オレはこれから先だってずっと、チャイロと一緒にいようって思った。
セカイを見て回ることになっても、そのときだって、きっと隣にはいつもチャイロがいるんだろうって、思ってたよ。

「なあ、ティガ。オレとオミャーは、ずっと友達ニャ。ずっと一緒にいようニャ。いつか、砂漠以外の所にも行くニャ!」

……真っ暗な空の下で、チャイロは頭のずっと上の方を指差しながら、そう言って笑った。
チャイロの話はやっぱり難しかったけど、オレはチャイロと一緒にいられるだけで嬉しかった。喜んで返事をしたよ。
だって、オレが喜ぶとチャイロも一緒になって喜んでくれたから。オレはそれが、トモダチ、ってことだと思ったんだ。
チャイロの話も言葉もよく分かんなかったけど、オレにとっては、チャイロと一緒にいることこそが大事だったんだ――






――乾いた風が、旧砂漠の大地をなぞっていく。いつもながら、この地の気候は非常に厳しい。
砂埃がけぶり、周囲をぼんやりとぼかしている中に、一つの大ぶりな遺骸が無惨にも晒されていた。
惨たらしい傷口は、まるでいくつもの牙に抉られたかのように無数の穴が穿っており、そこら中に腐敗臭を放っている。
飛び散ったであろう血痕はすでに風に流され、あるいは砂に埋もれ、当時の凄惨な現場を覆い隠してしまっていた。
時折、腹を空かせたゲネポスがそれの肉を貪ることもあった。自然とは、この世界とは、皆そのようにできている。
弱肉強食。そう言ってしまえば片付くことだが、やはり現地で真相に迫るとなると、話は変わってくるものだ。
……遺骸の前脚部分、そこに埋もれる凶暴な爪は、かつてそれが凶悪無比な大型モンスターであったことを物語っていた。
不思議なことに、その巨大な爪のうち一本だけが、鋭利な刃物で切り取られたような痕跡を残し、消失している。
何者かがおこぼれにあやかったのであろうか……あまり感心できる所行ではない、わたしはそう自論に頷いた。
横たわる遺骸の先頭、頭部と思わしき部分には、まだ辛うじて彼の者の輪郭の面影や、血痕の残る牙が存在していた。
大きく開かれたアギト、開かれたままの口。それらは、遺骸の主がティガレックスであった事実を明白に教えてくれる。
だが何故だろう、その風貌と表情は、朽ちた今もなお、どこか満足しきったかのような笑みが残されているように思えた。
我々はこの遺骸を貪り喰らったであろう、あの怒れる恐暴なる竜の足取りを追い、旧砂漠の更なる奥へと向かった。

(王国書士隊、ある隊員の書記より)







(あとがき)

チャイロの過去話、ティガ視点。ティガ生存ルートも一瞬考えましたが、モンハンの世界観のことを考えてやめました。
チャイロとティガの会話は若干噛み合っていなかったけど、友人関係であったことは確か。
モンスター間は本来なら会話可能かもしれないんですけど、あえて通じていなかったという風に設定しました。
ティガレックスや、例えばディノバルドあたりは(戦闘の面で)知能が高い、という公式設定があったと思うんですが、
ティガについても、そこは活かせていたらいいなあと思います。チャイロの指導術とは別に、飲み込みが早い部分とか。
余談ですが、書いててところどころでじんときてしまった……な、なんてこった! 涙腺に硬化薬グレート流してきます。





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 UP:20/11/03