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白と瑠璃(楽園のおはなし3章SS) BACK / TOP |
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(白い花) 目が覚めると、寝具の周りはもとより、部屋中が真っ白な花で埋め尽くされていた。 「!!? ちょっ、ね、ちょっと藍夜! 起きて!!」 「……うぅーん」 隣に眠る、朝はひたすら寝起きの悪い想い人兼親友を揺さぶり起こす。 予想通り不満げな顔で彼は起き……ない、寝返りを打ってそれっきり。構わず叩き起こした。 「なんだい、ニゼル。今朝はゆっくり出来るものだと思ったんだがね」 「あー、うん、俺もそう思ってたんだけどね? まわり見て」 言われてようやく身を起こし、彼は寝具周りの異変に気が付いた。 部屋は花そのものと花弁を包む朝露の匂いに満ちている。爽やかな朝、といえば聞こえはいいが。 言葉を探す傍ら、持て余したように、青年は自ら夜色の長髪を粗雑に撫で回した。 「さながら葬式だね」 「もう、縁起の悪い事言わないでよ」 「これは雪割一華(ユキワリイチゲ)だね。高山植物をこれだけ、一体誰が……」 「これさ、この間、藍夜が俺にくれた髪飾りの花だよね」 照れ隠しか、青年は大きく咳き込んでからそっぽを向いた。 娘は枕元、花に埋もれた隙間から彼から贈られた自身の髪飾りを取り、髪を纏める。 長い空色のそれに、細長い花弁の形と白銀の装飾はよく合っていた。 青年は居心地悪そうに娘に背を向けている。放りっぱなしの髪を、彼も手早く三つ編みに編み始めた。 真似するように後ろから頭を撫でさせて貰う。されるがまま、一時手を取め無言でいる彼にくすくす笑い掛けた。 眉間に皺が寄っていた。寝起きの彼は大体いつもこうなので、嫌がられているわけではない。と、思う。 「……満足かい」 「うん。おはよう、藍夜」 「ああ、おはよう、ニゼル。さて、これは一体どうした事なんだろうね」 寝具の上に二人、座ったまま。胡座を掻き片肘で頬杖つく彼と、彼の肩に顎を乗せ瞬きする空色の髪の娘。 ちょっと「視」てみようか、ぽつりと呟き、青年は左目だけを一瞬閉ざした。 刹那のうちに開かれた左目に収まる、髪と同色の瞳が、見る見るうちに瑠璃色に染まり抜く。 彼の特殊能力、千里眼や遠見といった瞳術の一種の発現だ。力を使用する間、彼の左瞳は深い蒼色に変化する。 娘はその色も、移ろいゆく変化も、長い間傍で見続けてきた。 長い付き合いになるが、何時まで経っても何度見ても飽きない。色合いの鮮烈さは本当に美しいと思う。 「……なるほどね、そういう事か」 「! なに、何か見えた?」 左瞳が緩やかに元の夜色に戻される。小さく苦笑する彼に、娘はいよいよ詰め寄った。 しかしどうして、彼は時折、対存在の影響を受けてか意地悪い真似をする。 「いや、犯人が分かったよ。いやはや、よく考えたものだね」 「えっ、犯人って」 「花を運んだ犯人さ。床上の分は栽培されたもの、寝具の……この辺のは朝摘みした採れたてのもののようだね」 一つ花を摘まみ上げ、彼は娘の手のひらにそれを乗せる。 花は蕚(がく)の辺りで綺麗に切り落とされていた。花の手入れに詳しくなければ出来ない芸当さ、青年は頷く。 「じゃあ、わざわざ朝一に山に行って摘んできたって事? ねえ藍夜、犯人って誰なの?」 言った直後、娘はむっと唇を尖らせる事になった。 青年は慈悲と愛情に満ちた柔らかい笑みを浮かべていて彼女を見ていたが、続けられた言葉は…… 「さてね、誰だと思う?」 ……意地悪かった。 「ちょっと、教えてよー。じゃあさ、せめてヒント! ヒント頂戴っ」 「ふむ、君もよく知る人物さ。まあ、彼にしてはあまりらしくないような気もするがね」 「俺の知り合い? えー、誰だろ。ねえ藍夜、笑ってないで教えてよ!」 暫し、寝具の上でじゃれついた。 窓から差し込む陽が明るい。夜明けはとうに過ぎて、サイドテーブル上の青年の懐中時計は昼前を示していた。 …… 「私のところは百合だったぞ。私のシンボルだからな、よく分かってるな!」 「知ってます? 百合の花には微弱の毒性があるんですよ、あのまま眠っていたら貴女もどうなっていた事か」 「うん? お前が起こしてくれるから問題ないだろう、サラカエル」 「……」 「アスターは、カモミールと孔雀アスターと白い勿忘草と月下美人を貰いましたのぅ。とっても良い匂いですの」 「そっか。良かったね、アスター」 「はいですのう! えっと、『粋な』犯人さんですのう。ニジママさまは何を貰えたんですの?」 「俺? 俺はね、ユキワリイチゲだよー」 「わぁ、髪飾りのとおんなじお花ですのぅ。素敵ですのう、可憐ですのぅ!」 「ねー。アンのところには何が『お返し』に来てた?」 「わたしですか。わたしの部屋にはカモミールと白いコスモスが来てました。好きなんですよ、コスモス」 「皆、好きな花が貰えたというわけだね。それもアスターに至っては飛び切り多く」 「不思議ですのぅ〜、サンタさんがまた来てくれたんですの?」 「(……おい、あの色ボケウリエルとニゼルの野郎、こっち見てんじゃねぇか。気付かれたんじゃねぇの)」 「(問題ありません。それに『ホワイトデーのお返しサプライズ』ですから知られても問題は、)」 「(コッチにゃあるんだよ。暫くこのネタで遊ばれんじゃねぇか。クソ、やっぱり協力するんじゃなかったぜ)」 「名庭師として名高いノクトさんのお陰でたくさんの良質な花が手配出来た事には、感謝しています」 「嫌みか。アスターの為であってテメェの為じゃねぇよ、クソ蛇! って……テメェら、コッチ見んな!!」 「白い花でホワイトデー、ねえ。なーんかビミョー。どう思う? 藍夜」 「さあね、彼の沽券の為にも、暫く飾っておくとしようじゃないか。ニゼル」 「わぁ〜い! パパ、有難うですのぅ。アスターとっても嬉しいですの!」 「……良かったですね、『パパ』」 「テメェがパパ言ってんじゃねぇよ。クソ、とんだ厄日だな……」 (素直になりきれない 喰天使と 極力少女を喜ばせたい 海の王 のおはなし) |
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BACK / TOP UP:14/03/14 |