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ある騎獣の独白(楽園のおはなし2章SS) BACK / TOP |
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(黒い神獣) 生まれてこの方、ヒトだ獣だ神だ天使だ……そんな区分を気にした事はなかった。 父は伝説上の生き物で、母もまたそれに等しく、オレが知る周囲の人々もまたヒトとは違った。 偶然か巡り合わせか。神のみぞ知る、と言ったらそれまでな気がする。 オレ含め、周囲の世界は自分本位だ。互いに勝手気ままにやっている。 過干渉でもなければ無関心でもない。 己が身に危機が迫れば手を貸し合うし、普段の共同生活もそこそこ上手くやれている。 オレ達のリーダーは複雑な事情を抱えていて、今も昔も追われる身だ。 曰く、「自分から好き好んで選んだ道」だそうで、物好きもいたもんだなーとオレは見ている。 姉はなんだかんだ彼を慕っていて、災いが降りかからないよう常に彼の身を案じている。 そんな姉と最近距離が近しいのは、何を考えているか分かりにくい無口な天使。 母の出自を思えば、双方が親しくなるのはごく当たり前の事だ。 けど、正直見ていてあまり嬉しくない。 ましてや、姉の方から向こうに世話焼きに赴いているらしいから、オレは大いに不満だ。 (言ったって否定されるだろうから言わないけど) 姉は口や態度では短気でつんけんとしているけど、実際には聡明で観察力のある生き物だ。 あれを無碍にはしないだろうというのは、本当は初めから分かっていた。 それでも、やっぱりオレは二人の関係が気に入らない。 オレ達は追われる身だ。 だのに毎日優雅に茶を飲んだり買い物に出たりと、のんきに構えている事の方が遙かに多い。 追っ手がしょぼいってのもあるし、何よりオレ達は基本として暇人だ。 性分故に仕方ない。命懸けて戦う事こそオレ達の血の因果。 追っ手待ちもある意味致し方なし。 現状、生活していて緊迫感を感じる事はあまりない。皆強いんだから当然かね。 まあ平和と言えば平和だし、逆にそれが心配でもある。 追っ手への懸念じゃない。 オレ達は、いつ崩れるか分からない不安定な天秤の上にいるのに等しい。 オレ達の立ち位置は不穏で複雑だから。相容れぬもの。天敵。強者と弱者。捕食者と被食者。 少しの亀裂ででも、オレ達の繋がりはいとも容易く解れるだろう。 出会い方だって、夢や浪漫……に溢れてさえいない。 よく一緒にいられるもんだと思ってしまう。周りは気に掛けた風もないけどさ。 けどそれはまあ、オレの杞憂だったらそれに越した事はないんだ。 仲良き事は美しきかな……なんて、昔の言葉じゃないけど、とりあえず心穏やかでありたい。 それだけはオレの本音だ。これだけは姉にさえ話した事もない。 オレは血を見るのが好きだ。 貪るように汁を啜るのも、肢体を文字通りじっくり切り開いていくのも好い。 生きたまま、なんて、嗜虐心を擽られて仕方ない。 オレが普段それをしないのは、姉がそれを良しとしないから。 みっともないと言うから自重している。 ただそれだけ。 オレは(自分で言うのもなんだけど)、わりかし聞き分けのいい部類に入る獣だ。 リーダーの指示も余程の事がない限り極力守るようにしている。 そうする事でパーティの治安は守られるし、姉も喜んでくれる。一石二鳥とはこの事だ。 パーティの中で、今現在最も身勝手なのはもしかしたらオレかもしれない。 「ねーちゃんねーちゃん、どこ行くのー」 「サラカエルの部屋よ。いつもの事でしょう」 「ふーん。ねーねー、今日はーオレがー茶ー、持ってってやろっかー」 「別にいいわ。どうしたのよ急に」 「えー、なんとなっくー。……いいならいいやー、オレ昼寝してくるねんねー」 「はいはい。あんたは気楽でいいわね」 姉はいい女(雌)だ。どこか陰のある笑い方が特にいい。 天使だから、変わり者だから、運命だから……そんな理由で選ばせてやるなんて許し難い。 まあ、結局最後に決めるのは姉かリーダーなんだし。 オレはなにも口出ししないで終わるんだろうな。 それだって、いつもの事さ。 |
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BACK / TOP UP:13/06/07 |