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ある魔獣の参戦(楽園のおはなし3章SS)


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(レビヤタン)


(喰天使曰く)
「イメージつってもなぁ。初対面でワイヤー固定の頭部蹴り飛ばし、だろ。良いイメージなんざねぇよ」

(空色髪の乙女曰く)
「教えてるのがサラカエルだし……仕方ないんだろうけど、教育方針間違ってるよね」

(夜色髪の天使+α曰く)
「僕だったらもっときちんと手順を踏まえるがね。情操教育や哲学、歴史に地理……」
「はいはい、藍夜は頭いいもんね」
「おや、なんだか引っ掛かる物言いのような気もするが、考え過ぎかな、ニゼル?」
「えー、さあ。そんな事ないよ」

(果樹の護り手曰く)
「自分が一番良いと思える選択をすればそれが最善なのではないでしょうか。わたしはそうでしたから」

(箱舟都市の鷲獅子・一角獣曰く)
「うーん、向こうが覚えてないっていうのが唯一の救いじゃないかな〜。じゃなきゃ辛過ぎるよ」
「時間が解決する問題、とも言い難いからな。今はまだ会わせるべきではないだろう」
「結局ソレだよね……あ、これお土産に持っていきなよ。新作の饅頭〜。蒸かしたてだから美味しいよー」

(放浪の肉食騎獣・草食騎獣曰く)
「他の事ならなんだって許せるけど、アスターに手ぇ出したら容赦しないかなー。絶対」
「その台詞、あんたが言える立場じゃないでしょう」
「ねーちゃん……オレの事ほんとにあ」
「聞きたい事っていうのはそれだけ? もっと他にも何かあるでしょうに」

(義父曰く)
「へえ、皆随分と好き勝手に言ってくれるね。ま、それはさておき今日は鉈の扱い方から始めるよ」

(義母曰く)
「ははっ、そうだったか。ここの連中は皆自分の思うようにしか行動しないからな! ん、どうした?
 ふむ……お前もそうだぞ。わたしの傍にありたいと言うならお前もここの一員だ。自由に振る舞うといい」



……鏡の前に立ち、己の姿を改めて見つめる。
黒髪に黒瞳、平均的な身長体重を有する、未だあどけなさを残す面立ちの子供がいた。
瞳は油膜が張っているかのような虹色で覆われていて、人外であろう事は見る者が見ればすぐ知れる。
手を伸ばし鏡面に触れてみる。
ひやりとした感覚と、硝子の硬質な感触。鏡など拾われる前の暮らしには無縁のものだった。
この屋敷には遠い海の潮騒は届かない。風の音も魚港のそれと大いに異なる。
そう思う度、胸の奥が不思議と苦しくなった。
呼吸、動悸といった生命活動に差し支えはないので、この事は義父にも義母にも話していない。
今なおあの暮らしを懐かしく思う時もある。けれど戻る事は出来ないと、自分でも解っていた。
気配が一つ近付いてくる。
見知ったものなのでナイフにもワイヤーにも触れない。安全性は確認が取れている。

「灯り、点けたら明るいですの」

そっと扉を押し開いたのは、自分の擬態姿と同じ年頃の少女。
最も彼女も実年齢はあやふやであるらしいが、本人がそうだと言い張るので、そういう事にしている。
猫耳の付いたフードケープ、洋装、繁鼠の髪に夜色の瞳。瞳の奥には琥珀の光が揺らめいていた。
彼女もヒトならぬ身だという。昔はその事で色々と要らない苦労をしたという事だった。
では肉体の原料が何であるのか聞いた途端、何故か義父に頭を小突かれた。
今はまだ知らなくていい事だよ、とはいつも聞く言葉で、自分はまだ未熟者なのだと思い知らされる。

「問題ありません。夕日でまだ明るいですから」
「そういう事じゃないですの、……でも本当に夕焼け、綺麗ですのぅ」

「希望の花」を冠する名を持つ彼女は、この屋敷で司書を勤めていると義母が言っていた。
屋敷の外れにある東の塔には夜色の天使が集めた書物が溢れていて、放っておくと五月蠅く言うらしい。
勉学も兼ねて彼女はそこに入り、定期的に掃除をしたり、本に埋もれたりするのだという。
(埋もれる云々については彼女曰く空色の天使の冗談だそうで、いつもは軽々楽々作業をしているそうだ)
そうして書に触れる機会が多いからか、或いは能力がそうさせるのか、彼女は僕に物事を教えたがった。
義父の教育だけでは知識が偏る、自分は先にこの屋敷にいるから頼りになるのだ、そう常々言っている。
事実かどうかは空色の天使の言葉からしてどうなのだろう、というのが僕の率直な感想だ。
それでもここでの暮らしにとって必要であるのなら、甘んじて受けたいとも思う。

「もうご飯の時間ですの。ヘラママさまが呼んでますの」
「もうですか。いつもと比べると早いですね」
「はいですのぅ。冷めちゃうと駄目ですの、下に行きますの、『レヴィ』」
「はい、『アスター』さん」

彼女の手はいつも冷たい。ふと、自分の原型と比べてどちらが冷えるのだろうと思った。

「? どうかしましたの」
「いえ、問題ありません」

引かれるまま階下へ向かう。夕日が沈む。
僕らが一階に着く頃には、廊下はおろか、周辺一帯さえ闇に染め上げられていた。
義父と義母、空色天使と夜色天使の談笑が壁伝いに聞こえてくる。俄かに眼前の少女の歩調が速まった。
ああ、その頭越しに破顔しているのだろうと思うと、体中がむず痒くなり落ち着かない。
未だ不慣れな事ばかりでどうにも困る。



……


「次代のリヴァイアタン、なんてとっても素敵な発見ね。うふっ、やっぱりニゼルは只者じゃなかった!
 さぁって、誰に教えちゃおっかしらぁ、ワクワクしちゃう。うふっ、ナイショだなんてもったいないわ!」



■エノク書 第六百六拾六頁

・リヴァイアタン

別称レビヤタン、レヴィアタン。元は雌雄一対の巨大海蛇型魔獣で、その性質は極めて残忍、冷酷。
広大な海そのものを縄張りとし、剣を通さぬ硬い鱗、口から吐く業火、他多数の高等魔法を武器とする。
あまりに危険である事から古の天使、神々の手で雄が葬られ、現存するのは雌一体のみ。
「最後の審判」に於いて重要な役を担うとも、巨大魔獣ベヒモス、ジズの対存在であるとも言われる。
その為ラグナロクによる混乱の後、多くの天使がその行方と動向を追っている。




(おまけ/ある日の東塔にて)


「う、埋もれてないですの、大丈夫ですの、ちゃんと片付け出来ていますの!」
「いや埋もれてたよね? レヴィも見たよね?」
「はい。視認しました」
「れ、レヴィの名前を付けたのはアスターですの! アスターの方がお姉さんなんですのぅ〜!!」
「アスターさん、それは関係ないと思います」
「(うーん。なんだろうなあ、年上ぶりたい年頃なんだろうなあ)」




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 UP:13/12/18