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目覚めの言葉(楽園のおはなし3章SS) BACK / TOP |
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( song for you ) 少し細めの、それでも男の骨ばった掌が十代半ばの少女の額にそっと触れた。 「君はこれから、天使として自覚することになる。そのための告知をするよ」 男の声はどこか懐かしい。 何度も夢で逢っていた。何度も微笑みあい、何度も手を繋ぎ、何度も名を呼び合った。 なのに、朝目を覚ませば切ない気持ちだけが胸を支配し、男の顔も声も名前でさえも忘れてしまう。 会いたいと焦がれた男。 「うん、大丈夫」 「……フロルとして生きたこの十六年間を……忘れてしまうかもしれないよ?」 「平気!」 「以前の君が、記憶が、その身体を支配してしまっても……かい?」 「うん!」 口元に弧を描き少女は答える。迷いなど何処にもない。 「そうか……じゃあ、始めようか」 男がそう呟くと、少女の額に触れる男の手に微かに熱が帯びる。 心地のいい温かさ。 それと同時に、少女の脳にたくさんの映像が一度に流れ込んでくる。 どこかの、花咲き誇る美しい庭園での二人きりのお茶会。 彼から貰った、首に下げている小さな可愛い香水瓶。 中身が無くなれば、部屋の窓際に並べて月明かりに照らし輝きを楽しんでいた。 瓶が空いたらそれにまた足してあげると言われたけれど、貰った物全てが嬉しくて、理由を付けて手離せなかった。 広い広い緑の草原。 二人並んで寝転んで、日がな一日青空を眺めてた。 冬になれば毎年、彼に似合う夜色の羊毛で新作のスカーフを編んでプレゼントしていた。 くだらない事で毎日笑ってた。 銀色の林檎。 彼ではない別の男。懐かしい、切ない、そんな気がした。唯一はっきりと見えない映像。 胸に空いていた大きな空洞が塞がったような気がした。 「ただいま、藍夜!」 (ウリエル様、お会いしたかったです) (藍夜、ただいま! 約束守ってくれたね) (はじめまして、夢で遇っていたぼくの大事な人) 「ただいま!!」 大切な君に贈る、「ただいま」の歌。 これから始まる、君と紡ぐ未来の物語のために。 |
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