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目覚めの言葉(楽園のおはなし3章SS)


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「こら、いい加減に起きなさい! フロル」

昔から聞きなれている筈の母の声に眠りから呼び起こされる。

「もうこの子は。最近、本当にお寝坊さんねえ」
「おはよう、母さん」

母の声に違和感を覚えたのはいつの頃からか。
朝起きてリビングに行くと、真っ先に目に飛び込んでくるのは、情報誌に目を通している父の姿とスープの味を確認する母の姿。
四人掛けのテーブルの自分の席には、ピンクの花柄のランチョンマット。
自分の存在に気付くと、「おはよう」と声をかけて来る父、「もうすぐできるから座ってなさい」と笑顔の母。
見慣れているはずなのに、どうしても違和感を拭えない。

「母さん、このピンクのランチョンマットは嫌だって、ぼく言ったよね」
「あら、女の子なんだからいいじゃない。それにもういい歳なんだから、『ぼく』は止めなさいって言ってるでしょう?」
「はは、本当にフロルは男の子みたいな性格だなあ」
「ちょっとパパ笑い事じゃないのよ! お部屋は可愛い物が一杯で女の子っぽいのにー……言葉遣いや服装が可愛くないんだもの」
「フロルにも好みがあるんだから、仕方がないんじゃないのか?」
「可愛いお洋服着せたかったのに、子供の頃から嫌がるんだもの。
 まあ、百歩譲って服の好みはあれでも、言葉遣いは直しなさいよ? でないと、お隣のウメ君に愛想尽かされちゃうわよ?」

別に自分の性別に文句があるわけではない。
ちゃんと女だって自覚もある。それでも、可愛い服で着飾ったり可愛い言葉遣いの自分にさえも、違和感を感じてしまう。
小さい頃は近所の男友達を真似て『オレ』って言ったりしてたけど、怒られてから『ぼく』で妥協した。
どうしても、『わたし』じゃない気がしたから。

「なんでそこでウメが出てくるの!」
「あら、フロルをお嫁に貰ってくれるって言ってくれてるそうよ、貴重な彼なのよ? 愛想尽かされないようにしなきゃ!」
「止めてよ! ぼく、ウメになんか興味ないよ! いっつもちょっかいかけてくるんだ」
「好きだからちょっかい掛けたくなっちゃうのよ!」
「んー、パパはちょっと妬けるなあ」
「もう! ご馳走様!!」

出された朝ご飯もそこそこに、乱暴にリビングを駆け出ると屋根裏の秘密基地――と言っても、自室なんだけど――に戻る。
そして、窓から空を見上げる。
きっといつか、この違和感を消してくれる何かが起きる、そんな気がするから。

いつか見た不思議な夢。
この窓に降り立つ大きな羽根の天使様。




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 UP:13/08/02-ReUP:19/07/14