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ある弟の独白(楽園のおはなし1章SS)


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(鳥羽暁橙)


兄とは年子で、その割に性格は殆んど真逆だった。
両親は早くに亡くなってしまったので、兄はオイラの面倒を見たり、店の再開の目処を立てたりと気を抜く暇もなかったと思う。
オイラは昔から甘えただったから迷惑掛け通しだったんじゃないかなあ。
だからと言っちゃなんだけど、兄はとても厳しいひとに育った。
昔から正義感の強いひとで曲がった事を許さない性質だったけど、それに拍車が掛かった感じ。
オイラは相変わらず自分のやりたい事しかしてないけど、兄は違うんだと思う。多分。

お隣に住んでるニジーさんことニゼルさんは兄の唯一の親友だ。
兄はよっぽどの事がない限り弱音を吐いたりしないんだけど、ニジーさんは別口みたい。
なんでそんなにいっつも仲いいのって聞いたら「小さい頃にある約束をしたんだ」、そう濁されたかな。
兄とニジーさんはオイラが父と母に引っ付いてた頃からずっと仲がよかった。
約束、がどんなものかオイラは知らない。男同士の約束って言ったら第三者が間に入れなかったりするパターンも多いし。
暗黙の了解ってやつ?
多分、二人の間には何か色々あったんだと思う。実際入る余地ないなーって時もあるから。
ニジーさんにはこんな事聞けないしなあ。またブラコンとか言われんのやだしね。

オイラ達の家はホワイトセージ街の丘の上にひっそり建っている。
二階建て、屋根裏部屋つきの小さな家だけど、窓の数が多くて暮らすにはこの上なく快適だ。
そもそも丘自体、ここいらじゃ一番日当たりも風通しもよくて、牧草を育てるのに適した環境でもある。
アルジル羊の毛や織物はこの辺りじゃ有名な伝統工芸品で、
オイラ達の隣に居を構えるニジーさん家はアルジル羊牧羊の最大手、というか本家だ。
羊毛を求めて毎日足繁く通う商人や観光客もいる。
ついでに兄の店に寄ってくれる人もいるから、そこはお互い様というやつかもしれない。
羊たちの鳴き声と羊飼いの笛、二匹の牧羊犬の啼き声が朝の訪れの合図だ。

ニジーさん家は羊がたくさん、白い牧羊犬「シロ」、黒い牧羊犬「クロ」、ニジーさんのご両親とニジーさんの大所帯(?)で、
うちの両親が健在だった頃から今でもずっと交流が続いている。
オイラ達の両親はもとは旅商人の一族の出で、ロードや骨董品、美術品を売り歩いて旅していたんだけど、
ここでアルジル羊に出会いその美しさや貴重性に開眼したらしくて、旅を終える事に決めたんだそうだ。
オイラ達が小さい頃から羊ベタ褒めだったから、オイラよくいじけて泣いてたっけ。
兄がそのたびに慰めてくれてたのも印象的だったなあ。
……まあそれはさておき、オイラ達一家とアルジル家は切っても切れない縁があるってわけ。
で、自然と生まれた子供らが仲良くなっていくわけで。だから、ニジーさんは兄と仲がいいわけなんだけど。

両親が亡くなったときの事は、正直よく覚えてない。
何を聞いても兄ははぐらかそうとするし、ニジーさんもニジーさんのご両親も何かと話題反らそうとするし。
大方、ロード絡みの強盗か夜盗があってって線なんだろうけどさあ。オイラもういい歳なんだけどな。
兄の様子が変わっていったのもその頃からだ。滅多な事で笑わなくなったし、ましてオイラの前で一切泣かなくなった。
あの頃、オイラはもう寂しくて悲しくて仕方なくて、たった一つしか離れてないってのに兄に頼りきりだった。
兄はオイラにとって兄であると同時に唯一の家族で、父であり母でもあったわけなんだなー。
だから兄を変えてしまった一因はオイラにもあるんだと思う。

兄ィがオイラに責任や負い目を感じたりしているんなら、それはいつか返したいなあと思うよ。
お礼参りってわけじゃないけど、あの頃よりは少しは頼れる弟になった筈だし。ガンガン身体鍛えたしー。
ま、琥珀の謎かけにはたまーに答えられなかったりもするけど。たまにな、たまに!



「ところで兄ィってアンの事好きなの?」
「どうしてどいつもこいつもそんな事を……相手は天使だ、あるわけないさ」
「それそれ。天使っていうけど、長生きとか使命どうのがあるだけで見た目人間と変わんないじゃない」
「君は何も分かってないんだ」
「兄ィ、当たって砕けてみりゃいいよ。大丈夫だって上手くいくって、オイラが保証するから!」
「……」



兄ィがいつか心から泣いたり笑ったり出来る日が来ればいい。
それが出来るのはオイラじゃないかもしれないけど、迷惑掛けた分、力になりたいなー。




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 UP:13/02/08