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ある少年/天使の苦悩(楽園のおはなし4章SS) BACK / TOP |
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青空が嫌いだった。 君と僕を隔てる壁だったから。 澄み渡る天空に、どれだけ腕を伸ばせども、君には届かなかった。 気づいてくれなかった、僕の腕を引き上げてはくれなかった。 二度と会えなかった…… 「あのアベル君、”俺”と付き合ってよ」 人気の無い校舎裏、傍から見ればよくある告白風景だ。 両親や屋敷の主に、人間の世界で学ぶ事も大事だと半ば強制的に送られたのが、人間の世界ではそこそこ名門で知られるとある学園。 なんでも天使である父と母も、何百年か前に学んでいたらしい。 屋敷で姉弟のように育った真夜の両親、レヴィとアスターも一緒だったとか。 その学園に双子の兄、真夜共々送られ早数か月。 普段から、兄であるカインの衣服のように纏わりついて離れずべったりしている自覚も、極度のブラコンである自覚もある。 けれど、流石に同性に告白されるとは思わなかった。 カインを取られるのが嫌だからと、彼が告白を受けている現場に乱入したこともある。 取られるのが嫌だと言うのもあるけれど、カインはたまに屋敷で過ごしてきた仲間や自分達以外を、嫌い遠ざける時がある。 何をするか分からない時もあるから、見ていてあげなさい、と両親に言われたのも理由。 その時に邪魔された女子が、あらぬ噂でも流してくれたようだ。 「えっと……槍試合?」 「いや、”突き合い”違いだよ」 「うーん……どこら辺まで?」 「その、ちょっと喫茶店まで”付き合って”じゃないし」 「じゃあ」 「ちゃかさないでさ、アベル君は男が好きなんだろ? 女子が言ってた」 「それは……多分……誤解なんじゃないかと、僕は思う……」 「お兄さんにもべったりだし……その近親とかなんとか」 カインになら何をされてもいいと普段から思っている。 もちろん、普通の兄弟以上のよく分からないごちゃごちゃした感情があるのも理解しているつもりだ。 けれどそれを他人に指摘されるのは、ものすごく腹が立つ事を知った。 「お兄ちゃんは好きだよ。でも、だからってそれが、君と付き合うってことにどう関係するの?」 「えっ、だってほら、兄弟同士より全然マシじゃん……? ただ性別が同じだけで」 「お兄ちゃん以外に興味ないし。それだけなら僕、もうお兄ちゃんとこ戻るし」 自分を気に掛け好きだと言ってくれる者、自分が好きだと慕う者、真夜、兄、狭いコミュニティーだと思う反面、 それ以外の者に特別な感情を抱かれるのは酷く嫌悪感を覚える。 それだけ言い捨てると、アベルはカイン達の元へ戻ろうと踵を返した。 歩みを進めようと足を出したとき、腕を掴まれ強い力で引き寄せられる。 状況を理解するのに少し時間がかかった。 相手の顏は自分の顔の至近距離にあり、いつのまにか両方の手首を掴まれていた。 更に嫌悪感は増す。 「離して。触らないでよ」 「なんで? 別にいいじゃん」 さっきよりも顔が近づいた気がした。 「離してって、言ってるでしょ!!」 「う、わっ……」 掴まれた腕を相手の方に押し、振りほどかれると勘違いし油断した相手に全体重を掛ける。 力が他よりも弱いとは言え、同じ年代の人間には負けたくない。 天使の力で多少はズルをしたが、それは言わなければ人間は気付かない。 アベルが相手を押し倒した格好になった。 「僕に……僕に触っていいのはお兄ちゃん、”あいつ”だけだ!」 相手の肩を掴み、声を荒げるアベルの雰囲気が変わる。 その様子に、押し倒された形になった少年も怯んだ。 「ねぇ、何様なの? どうして偉そうに僕に触れるの? 君は僕の何なの?」 「え、あの、ちょっと……」 ざわざわと少年に悪寒が走る。 少年よりも華奢でいつでも押し返せるはずなのに、アベルにさっきまでの柔らかさはなく、その威圧が少年の動きを凍らせる。 人の気配とは違うそれは、どこか禍々しさがあり”悪魔に睨まれる”とは正にこの事だろう。 「あいつ……彼には僕の腕は届かなかったのに、どうして君は易々と僕に触るの!?」 少年の反応はない。 口を開く度強くなる人ではないその狂気に、耐え切れず意識を失くしていた。 「人の世は楽しいのだと教えてくれたのは彼。なんとなく色んなものに逆らいながら生きていた僕に、合わせ一緒にいてくれたのも彼!」 「挨拶もないまま別れたけど、僕が人の世に堕とされたけど、何も変わらないと思ってたけど」 「……二度と会えなかった。」 「どんなに腕を伸ばしても、彼のいる天には届かなくて。伸ばした腕を誰も掴んではくれなかった!」 「ねえ、どうして逢いに来てくれなかったの? 僕、いっぱい人の遊び覚えて待ってたのに」 「いつも通り、いつの間にか隣にいてくれてると思ったのに……っ!!」 気を失っている少年の肩を掴む手には力が入り、良い生地で造られているであろう制服に皺を刻む。 その肩を揺すりながら、アベルはいつの間にか涙を零していた。 「ねえ、ねえ! 何で? 何で!?」 「かいん。あべる、泣いてる……?」 校舎裏に通じている非常階段の踊り場、そこでカインと真夜はアベルの様子を伺っていた。 兄のカインもアベルに劣らずブラコンだ。そして、こちらも両親より言い付かっていたための様子見のはずだった。 「かいん、行かなきゃ」 真夜がカインの服の裾を引いた後、そのまま踊り場から飛び降りようと足を掛けた。 と、その時、カインに肩を掴まれ静止させられる。 「……かいん?」 「何故だろうな」 「?」 カインが口を開いた。 こちらもまた、いつもと違う雰囲気に真夜は怪訝な顔をする。 「あんなに。あんな、人間の様に醜い嫉妬で狂っているのに、それが”私”に向けられていると思うだけで、その姿でさえ愛しく見える」 「……」 「”私”のために、何時までも狂っていればいいのにと。ああ、そんな彼を”私”の傍に置けば……」 「かいん!」 真夜がカインの言葉を遮る。 「いや、狂ってるのは”私”か……この感情が何時までも解らない」 そう呟いて、カインは心臓の当たりの服を鷲掴んだ。 今目の前にいる男に、どんな感情をぶつけていいのか分からず、真夜はただカインを見ているしかなかった。 「真夜殿、行こう」 カインがそう呟くと、真夜より先に踊り場から飛び出して行った。 「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして」 壊れた玩具のように、どうして、だけを繰り返し、アベルは意識のない少年を見下ろしていた。 「おい、そいつ死んでんじゃねぇかぁ?」 背後から、やる気なさそうに語尾を間延びさせた声が聞こえた。 アベルは視線だけ声がした方に向ける。 「オルトロス」 「おぉー、おっかねぇなぁ、おい」 怯える風でなく、むしろ小ばかにしたように、ひひっと口角を上げた。 「俺ぁよぉ、今気分がいいんだ。お前の言う、もふもふ?とかじゃねぇーけど、胸くらい貸してやんぞぉー」 変わらず、にやにやと嫌味たらしくアベルに続ける。 「いいのか? その醜いツラをよぉ、愛しい兄ちゃんに見せてよぉ」 そう言われ、アベルは少し目を伏せる。 すぐに体を起こし少年から離れ、やはりやる気なさそうに木に寄り掛かっているオルトロスの方に向かった。 「オル君ぅうううううう」 顔を上げたアベルは、少し大きめの瞳に涙をたくさん浮かべて、オルトロスに体当たりをする。 さっきまで漂わせていた威圧と狂気はなくなっていた。 「もふもふじゃないぃぃぃぃぃ」 おふっと小さく咽た後、オルトロスは面倒くさそうにアベルの頭に手を載せ、髪をぐしゃぐしゃにしていた。 彼なりの慰めらしい。 「あのなぁ、こんないつ人間が出てくるか分かんねぇ場所で、首二つにしてられっかよぉ」 オルトロス、今は人の姿でいるが本来は二つ首の犬型魔獣だ。 神話に乗っ取り、退治され掛けていたところを兄弟の手で救われたのだ。 「もっふもふのしっぽじゃなくて、悪ぃなぁ」 「ぶうぅぅぅぅぅぅ」 「お、おい、愛しい兄ちゃんの登場だぜぇ」 そうオルトロスが指した方を見ると、カインがこちらに向かってくるのが見えた。 零していた涙をふき取り、頬を軽く叩き、アベルは笑顔を作る。 「お兄ちゃぁーーーん」 「お、アベルーー!」 「真夜ちゃぁーーん」 「ん」 「けっ、煩ぇメンバー揃っちまったな」 オルトロスから離れたアベルが、カインと真夜の元へ走って行った。 何時もの風景だ。 「アベル、来るのが遅いから迎えに来たんだぞ! 何もされなかったか?」 「うん、平気だよ! ちょっと”突き合って”みただけ!」 「そうか! アベルは強いな!!」 「へへー」 楽しそうな二人を余所に、真夜だけがオルトロスに向かう。 「んだぁ、マヨネーズ」 「……あの二人……、何でもない」 「あぁ、欺瞞だらけだなぁ」 「……」 「分かりやすい腹黒がマシなのか、まともに見える狂気がマシなのか。どっちだろぉなぁ」 「それでも……まよは二人を守るの」 兄弟の天使としての役割、関係、理解できても受け入れきれてない過去の事。 この感情をなにと呼べばいいのか、遠い過去から二人は気づいていない。 その感情の名前は…… unknown |
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