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Confeito Presents 【推しコンテンツ】 第二回 : 商業作品 【K】/【ダンデライオン】 BACK / TOP |
1996年、四人組ロックバンドとして活動を始動したアーティスト集団【BUMP OF CHICKEN】。 ロックはもちろん、J-POP、他映画・ゲーム・アニメーション作品へのタイアップ曲提供など、様々なジャンルで精力的に活動されています。 感情、情景が目に浮かぶシンプルな日本語歌詞から、提携作品の世界観を色濃く落とし込む構成、誰か・何物かに向けた贈り物のような言葉選び。 ライブ活動も盛んで根強いファンも獲得しているアーティストですが、今回は管理人に特大ダメージを与えた一押しのストーリーものを推したいと思います。 (壱)それは、一つの信愛にして友愛――『K』 ある街の一角に暮らす、一匹の野良猫……黒い毛並みにどこか自慢げに揺れるカギ尻尾と、『彼』はどこにでもいるようなごく普通の小さな黒猫でした。 古くから彼ら黒い猫は「不幸なもの」、「悪魔の使者」として蔑まれてきましたが、『彼』もまたそのひとりでした。 ひとりで気ままに日々を過ごし、わがもの顔で往来を闊歩する『彼』は、やはり人間たちに冷たくあしらわれていたようです。 そんな『彼』に突然転機が訪れます。一人の若い絵描きの青年は、拒まれることにも構わず『彼』を抱き上げ、我が家に招き入れます。 孤独であることに慣れていた『彼』は最初こそ「彼」の腕から逃げようとしましたが、共に過ごすうちに彼らの間に友情が芽生えていきました。 比較的穏やかなメロディから始まる、『K』の世界。件の黒猫、つまりは動物視点ではじまるストーリーものです。 ありきたりな、人間に嫌われていた黒猫が孤独な青年に拾われて幸せになる話……そう予想したものの、結果はこちらの予想を大いに裏切るものでした。 最初、この『K』とは『黒猫』の頭文字からきているのだと思っていました。 しかし、直情的な言葉遣いを得手とするバンプのこと。『K』という題名の真相については、エンディングにて全てが明らかになる仕様となっています。 ボリュームや微細なアレンジは加わるものの、大きな変化を感じさせない(ある種の)単調な主旋律。 連なるように、淡々と『彼』の視点で物語は進んでいきます。 若いということも、なんの用意もなく家を飛び出したという無謀さもあり、『彼』の前で次第に弱っていく「彼」の姿、その現実…… 不幸を招くものとして人間に(あるいは刷り込みのように『彼』自身にも)語られてきた黒猫の縁起は、彼らにとって災いにしかならなかったのでしょうか。 かつて、孤独であった身を拾われた懐かしい聖夜の日。 『彼』は取り残された部屋の中、たった一人の親友である「彼」に向け、ある約束をすることを決意します。 主旋律に一気に音が継ぎ足され、駆け抜けるように後半へ楽曲が弾け始めた瞬間、我々は『彼』が心に決めた熱い感情を目の当たりにすることになります。 冷静に見れば、先を見通せぬ早熟な決断により自ら破滅することになったという点で、『彼』や「彼」の行動は賢いものとは言えなかったかもしれません。 もっと違う選択だって、不幸に陥らずに済む方法だって、救いのある道筋だって、探せばそこら中にあったかもしれない。 しかし、彼らは本当にただただ不幸な身の上でしかなかったのでしょうか。 貧しく苦しい生活、姿を見られただけで石を投げられ心ない言葉をぶつけられるような、思わず目を背けたくなる悲惨な暮らし。 そんな中でも『彼』は「彼」に出会い、二年という短い間だけでも共に過ごし、生まれて初めて優しさや温もりに甘えることが出来ました。 『彼』が「彼」から受け取ったのは、決して裕福な暮らしではありませんでした。 けれど『彼』にとってあの部屋での生活は、『彼』の心に火を点けて絶やさぬほどにかけがえのない、尊ぶべきものと言えたのかもしれません。 ……ストーリーの終盤、『彼』は受け取ったもの、得られたものだけを胸に抱き、「親友」の故郷へ赴きます。 ぼろぼろになった体を引きずって、野良猫として、孤独に生きる楽な逃げ道にすら眼もくれずに、たったひとり、『彼』が選んだ選択とは。 そして辿り着いた目的地にて、『彼』を迎え入れてくれたのは…… 盛り上がっていたはずのメロディが一旦なりを潜め、急転して早弾きが加わる中、ついに『K』の正体が明かされます。 はたして『彼』は見目の通り「不幸なもの」、「悪魔の使者」でしかなかったのか。 バカにされ、石を投げられ、悪しように罵られるしかなかった『彼』のこれまでは、しかし「彼」の手によって確かに新しく塗り替えられていたはずです。 ……むしろ、己の心と「親友」への想いを貫いた『彼』は、ほんとうに【聖なる騎士】であったのかもしれません。 むごさがある一方、ある種の救いが期待できるようなエンディングは、きっと【その向こう】に彼らの再会が約束されているようにも感じられます。 周りから見れば不幸でしかない終わり方でも、当人たちにとっては救いでしかない話を、最近ではメリーバッドと称するそうです。 だとしたら、彼らの行く末もまたそう呼べるものだったのかもしれない。 なんにせよ、コチラは私(当コラム執筆者・わに)殺しの作品のひとつです。聞くたびにジャージャー号泣するので、普段は聞くのを控えているほどです(笑) ストーリーの進行とともに主題こそ変わらないものの、次第に激しく、熱を帯びていくメロディライン。 ストレートに心を打つ歌詞と、強く語られる『彼』の想い。きっと、最後の真相に辿り着く頃には我々は『彼』の生き様に胸を打たれることになるはずです。 広い世界の隅、誰に知られることもないひとりぼっちの『騎士』の話。文字通り大切なものに命を懸けた生涯に、陰ながら称賛と拍手を。 (弐)たとえ、愚者と呼ばれても――『ダンデライオン』 明るくアップテンポで、ご機嫌なミュージック……それが『ダンデライオン』のオープニングです。 2002年に公開された作品で、前述の『K』より二年後の発表となっています。言わずもがな、コチラも動物視点ものです。 舞台は遥か遠く、とあるサバンナの一帯。険しい崖にかけられた吊り橋を、ひとりの『ライオン』が渡るところから物語は始まります。 『彼』は、歌詞によるとひどく寂しがりだったようです。 食性、姿などから周囲に恐れられ、忌避されてしまう孤独な生き物……百獣の王だからこそのあるあるな、しかし当人には切実な悩み。 ある日ひとり吊り橋を渡った先で、たまたま、ほんとうに偶然にも、『彼』はある存在と対面します。 我々人間からしてみれば愚かとしか言いようのない邂逅であったものの、孤独に苛まれていた『彼』にとっては、それは奇跡にも近しい出会いといえました。 『彼』は「それ」を友達だと認識しました。その日以降『彼』は足しげく「それ」の元に通い、孤独な心を癒していったようでした。 もし、救いとなる日々が永遠に続くのならば。 ある日、『彼』は大好きな「それ」への手土産に、それと同色の美しいコハクを咥えて橋を渡ります。 通い慣れ始めた楽しい道のり。しかしその日は、サバンナにしては珍しい雷雨の日でした。『彼』が「それ」の元に着くより早く、雷は吊り橋を直撃。 哀れ、『彼』はなす術なく崖下に転落することになります。 強い雨、黒雲、見上げるばかりの狭い視界。そして全身を襲う、強烈な痛み。たったひとり、崖下にいることはとてつもない恐怖を伴ったに違いありません。 だというのに、そのとき『彼』が選んだ行動とは…… 『ダンデライオン』の楽曲は、『K』と同じようにメインとなる主旋律の変化はあまり感じられません。 ストーリーの進行に伴い微細なアレンジは加わっていくものの、基本的にはオープニングから変動は控えめです。 アップテンポであり、悲壮な雰囲気こそ漂わせず、ただメロディに沿ってボーカルの歌声だけが物語を進めていきます。 しかし、話が進むにつれ淡々としていたはずの語りは想いを込めた叫びに変わり、最終的には祈りにも似た壮大な光景を我々の前に導き出します。 そしてオープニングから変わらない、ギターの出だしの音色。力強く鳴らされる音こそ、『ダンデライオン』並びにバンプの真髄といえるのかもしれません。 『彼』が墜落して、長い年月が経った頃。『彼』が太陽によく似ていると感じた「それ」は、いつかの綿毛に乗せ、春の頃に渓谷を黄金一色に塗り替えます。 その光景は、はたしていつの日か、『彼』が密かに願った切実な想いがようやく叶えられた結果なのか。 それとも、これもサバンナをはじめとした大自然の不変的な予定調和に過ぎないのか。 答えはきっと、見る人・聴く人によって変わるのかもしれません。けれど、どうせならそのコハク色に祈りを乗せて『彼』の願いが叶った姿であってほしい。 『彼』は、とても優しい心の持ち主であったのではないかと思います。 それこそ、端から百獣の王なんて向いていない、太陽の下で風に揺らされるだけの可憐な姿の方がよっぽど似合っていたんじゃないのかと。 『彼』の優しさが本当の意味での強さを魅せたとき、私はその生き様に胸を打たれるしかありませんでした。 きっと、こんにちもその渓谷は満開の「蒲公英」に覆われて、金色に光り輝いているのだと思います。 (参)その夢舞台で、胸を張れ――【BUMP OF CHICKEN】 BUMP OF CHICKENは、1996年という、当時私が音楽やテレビドラマ等に触れていなかった時代に活動を始めたバンドです。 まさに『天体観測』や『ギルド』といった名だたるナンバーさえ知らず、むしろアーティスト名すら把握していないという無知っぷりでした。 そんな中、青春の多くを過ごしたあるネットサービス(※黒歴史ともいう)で親しくなった人達を通じて私は『K』、『ダンデライオン』を知ることになります。 教わらなかったら『カルマ』(2010年。コンシューマゲーム・テイルズシリーズ主題歌)を聞くまでほんとに知らなかったんでないかしら…… 半分は、グループ内で最も情緒不安定(笑)である私に向けた、彼らなりのささやかないたずらであったように感じています。 要はホラーものが駄目・泣ける作品では即号泣……というのが仲間内の共通認識だったわけなんですが 実際に『K』では初エンカウントで号泣、『ダンデライオン』に至っては明るいメロディにつられて愛車の運転中に上機嫌で視聴→泣きまくって危険運転に。 \ よい子は真似したらアカン / だから動物モノは駄目だって さておき、勧められた「(当時のHN)さんにはこの曲が合うと思うな〜」が全く掠ってなかったり、「こういうの好きそう」が全く(ry サービス終了に伴い自然に疎遠となりましたが、当時親しくしていた彼ら・彼女らとの思い出(?)が存在しているアーティスト…… それが私にとっての【BUMP OF CHICKEN】と言えるのかもしれません。つまりは青春≠黒歴史。そういうこと )`ν゚)・;' 今となっては、今回ご紹介した『K』や『ダンデライオン』以外にも 「ハルジオン」、「ギルド」、「太陽」、「R.I.P.」、「SOUVENIR」などなど、好きだなあと感じるナンバーも多くあります。 微かな苦みや痛みを残しつつ、こんにちもまた、【BUMP OF CHICKEN】の作品はストレートな歌詞とメロディで心地良く鼓膜を揺らしてくれるようです。 言葉の選び方やどこか甘やかな声色、流動するメロディラインは、彼ら特有の作風であるように感じています。 『自分』という生き物は、他の「誰か」には自己認識とは大いに異なる生き物として捉えられているかもしれない。 しかし、自分では全く想像もつかないようなそんな第二の自分もまた、自身の側面を捉えた鑑(カガミ)といえてしまう部分があるのかも。 そんなささやかな気付きでさえ、他者の手や名だたる作品を通してはじめて受け取ることが出来る。 それって、実はとても贅沢でステキなことなんじゃないかと思います。 (文章:わに) |
BACK / TOP UP:24/06/06 |