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モンスターハンター カシワの書 サブクエスト : ハッスルマッスルブギ〜挟撃、後にムフフ〜 BACK / TOP |
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「おーうっ!! どうだー、若人よ! 狩りは楽しんでるか!?」 入口をくぐった先は、筋肉天国でした――なんのこっちゃ。 いつものように古代林での仕事を終え、いつものようにベルナ村に帰還した矢先。マイハウスには見知った筋肉ダルマが待ち構えていた。 見上げた先、つるんと剃られた頭部が窓から差し込む陽光をキラリと反射させている。 龍歴院つきのハンターその壱ことカシワは、眼前の筋肉ダルマ……もとい、知人であるハンター、マルクス=クラインの顔をもう一度見上げ直した。 「マルクス? マイハウスに来るなんて珍しいな」 「いやあ、それがな、若人よ。ノアに……その、家を追い出されちまってなあ」 「んなっ、追い出された!? どういうことだよ!?」 「ああ、いや、追い出されたっていうと語弊があるな。反省してきてー、って放り出されたっていうのが正しいところだ!」 「それ笑ってる場合じゃないだろ! なんでそんなことになってるんだよ?」 マルクスは御自慢のムキムキボディでポージングを決めつつニカッと笑っている……ツッコミが追いつかない。後輩狩人は頭を抱えた。 「俺も納得いかなくてなあ。この間、ノアに内緒で大連続狩猟の依頼を受けてきたんだが……どうも黙って家を数日空けたのが悪かったらしくてなあ」 「それでまた怒られたのか? 手紙なんかは置いていかなかったのか」 ノアとは、この村で雲羊鹿飼いを勤める彼の愛娘の名だ。こちらとは四、五ほど年が離れている。彼女らとは仕事関係で知り合った。 当時のノアの言によれば目の前のハンター、イコール、彼女の父マルクスは仕事にのめり込むあまり家を顧みない狩猟ばか、もとい仕事人とのことだったが。 実際に対面してみれば、彼女の話には嘘偽りなど欠片もなかったと思わせるほどの狩猟ばかだったのだ。 まず、家に連絡しない、手紙も出さない。クライン家は父娘二人のみの家族構成であり、ベルナ村の住民らも残されたノアを気遣い色々と世話を焼いている。 故に、このハンターが娘に「報連相だけはちゃんとして!」と叱られる場面は村の日常風景になりつつあった。実力がある分、余計に質が悪いのだが。 「おいおい、俺がそんなマメな真似すると思うか? 流行りの土産でも買って帰れば許してくれるんじゃないかと思ったんだがなあ」 「マメって、土産って……一言言ってから出かければ、済む話だろっ?」 「なあ、カシワの若人よ。どっちが悪かったんだと思う? こっちは草食種ミートのプロテインバー詰め合わせで、こっちはココア味のプロテインバーだが」 「どっちもプ……プロ……ププロポ……うっ、頭が! とにかく、ノアはお土産買ってきてくれなんて言ってなかったんだろ? 謝るのが正解だと思うぞ」 そもそもモンハン世界でプロテインとは……以下割愛。 マルクスは愛娘に買って帰ったという土産――恐らく彼女に突き返されたと思われる――を、惜しげもなくマイハウス内に置かれたベッドに広げた。 おいそれ俺が借りてるベッドだぞ、とカシワは言えない。悲しいかな、目の前の筋肉ダルマはよりによって自分が好く娘の父親なのだ。 「正解、正解か……ヒドいと『三日間筋トレ禁止』! とまで言われっちまうからなあ……」 「三日くらいいいだろ! なら、禁止されてる間はノアと団らんするとかムーファの世話を手伝うとか……普段やれないことが出来るんじゃないか」 「おいおい、若人よ、そりゃ本気で言ってるのか!? 俺にとって筋肉ってのは、天然の防具なんだぞ!?」 天然の防具ってなんやねん――プロナントカバーを放置して熱弁し始める筋肉ダルマに、後輩狩人は喉元まで出かけた反論をついに吐けない。 「いいか、筋肉を馬鹿にしちゃいかんぞ。筋肉ってのは育てれば育てるほど期待に応えてくれる代物なんだ。名言にもあるだろ、『筋肉は裏切らない』って」 「裏切らないってなんだよ、誰が何をだよ!? それとノアが不安になるのは別の話だろっ?」 「なんだ、カシワの若人よ。お前さんは筋肉を育てたことがないのか? 筋肉はいいぞ、脱いでも着ても目に映えるからな。俺の自慢だ!」 「自慢とかそういう話じゃ、なあ聞いてるか。俺の話聞いてるか、マルクス」 「そもそもだ、エレノアが俺に惚れた切っ掛けってのが俺のこの肉体美、つまりは筋肉美でな。ああ、エレノアっていうのは俺の奥さんの話なんだが――」 「――よぉ、邪魔すんぜー。カシワ殿」 なんの話をしていたのか思い出せない。ああともううとも言えない唸り声を上げかけたとき、ふと背後から声をかけられる。 入口付近で、粗暴な風貌の男がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かせていた。こちらも見知った顔である。カシワは眉根を寄せたまま、男に手を振り返した。 「久しぶり……だったよな? 元気にしてたか、アトリ」 「おいよー、しばらくぶり……オレはそうでもねーけどな。にしても雑だな、オイ。ずいぶんなご挨拶なんじゃねーの」 手を上げて応えつつ、ウェルカムドリンクを運んできたルームサービスの頭をワシワシと撫で回すこの男は、マルクス同様、仕事で縁が繋がったハンターだ。 名をアトリという。別件で知り合ったあるギルドナイトと旧知の仲であるこの男は、少し前までハンターズギルドに反目する立場にあった。 しかし幸か不幸か、紆余曲折を経て男は現在、件の騎士に雇われの被用者として従わされている。 騎士が、男が、現状をそれぞれどう思っているかをカシワは知らない。俺が知らなくてもいいことのはずだ、と二人に信頼を寄せる黒髪黒瞳は考えている。 「ずいぶんって言うけどなあ。それはこっちの、あー、俺の知り合いのマルクスに言ってやってくれ。娘さんと揉めてるはずなのに、変な話しかしないんだ」 「おっ? ほぉー、娘さんね。そのオッサンだって見た感じまだ若いだろ、ヤるじゃねーの……で? その娘ってのはイイ女なんかよ?」 「うわっ、お前口説く気か!? だだだ駄目だぞ! あの娘は全然っ、お前みたいに遊び慣れてるわけじゃないんだ!!」 その言い方じゃ余計にキョーミ惹かれんだろ、縹髪の男はますます意地の悪い笑みを浮かべ、駄目なもんは駄目だ、後輩狩人は顔を真っ赤にして頭を振った。 アトリは自他ともに認める女好きである。そしてなにより、この男はカシワ以上に頭が切れる上、口達者だった。 最も、現相棒、そしてあの赤髪の騎士にも自分は口で適わないのだが――ぐぬぬと唸りかけたとき、ふとマルクスが隣から割り込んでくる。 「うおっ、なに、どうしたマルクス……」 「ほーう。お前さんも、なかなかイイ筋肉をしてるな」 ずっとポージングをしているものとばかり思っていたが(!)、ベテランハンターだけにアトリのことを観察していたのだろうか……そう感心しかけた矢先。 筋肉ダルマの発した言に後輩狩人はガクンとうなだれていた。一方で、問われた側は珍しく目を見開いている。 その口端が悪巧みをするかのようにつり上がったのをカシワは見逃さない。しかし口を挟もうとしたときには、男の手に顔面を押さえ込まれていた。 メリメリと五指が皮膚にめり込み、後退を余儀なくされる。いででで、とつい弱音が漏れるが、男たちに気にした様子はない。 「おいよー、オレとは初見だよな。は、じ、め、ま、し、て、だな。オレはアトリだ、カシワ殿の親友よ」 「んなっ、親友ってお前ふぐほごもが」 「おおうっ、そうなのか! そいつはいい! 俺はマルクスってんだ、カシワの若人とは前にクエストで知り合ってなあ。よろしく頼むぜ!!」 「こいつは騙しやすそうな良いカモだ」。男の金瞳が雄弁にそう語っている……気がした。あくまで気がしただけで根拠はゼロだが。 一方的に押さえ込まれ、カシワはじたばたと身悶える。これでも狩りを通じてそれなりに鍛えてきたつもりだったのだが、アトリの握力には一向に抗えない。 男として少し悲しくなった。そうしている間にも筋肉ダルマと縹の狩人は固く握手を交わしている。器用すぎるだろ、と後輩狩人は口に出来ない。 「てーか、お目が高ェんじゃねーの。オレも鍛えちゃいるが、残念ながらお前ほどじゃねーみてぇだわ」 「そうか? お前さんの胸板も大したもんだろう? にしても装備からのチラ見せか……肉体美はもちろんハンターの実績も同時に披露できる。いい案だな」 「おいよー、謙遜すんなや。そっちの腕の筋肉、あのラージャンだって目じゃねーだろ。さぞかし努力してんだろ、よくヤるわ」 「ガハハ、嬉しいことを言ってくれるなあ、ありがたい! そうそう、クエスト以外にも家で自主トレなんかもやってるからな。例えばだ……」 なにやら筋トレ云々自主トレ云々と壮大な話が始まってしまったが、いいのだろうか。 マルクスはノアに追い出されたからいいとして、アトリは今やハンターズギルドに籍を置く身のはずだ。なにかしら用があったのではないのだろうか……。 指越しに男を見返したとき、金瞳は不敵に笑っていた。これ駄目なやつなんじゃないか――カシワは再びじたばたと抵抗するが、やはり力では適わない。 ぱっと解放された頃には、二人は上腕や胸筋を見せ合いほのぼのと談笑している。口を挟む余地がない。 ……久しぶりに、後輩狩人は「今すぐここに来てくれ現状をなんとかしてくれ」と今は不在のユカに神頼みならぬ騎士頼りをした。 「で? カシワ殿はどーなんだよ。ちゃんと真面目に鍛えてんのか?」 ふぬぬぐぬぬと眉間に力を込めている最中、予想だにしない矛先を向けられる。 はっとして顔を上げたとき、目の前にはニヤニヤと意地悪く笑う男の顔と、それもそうだな気になるな、と言わんばかりに目を輝かせる大男の姿があった。 「いっ、いや、俺はその……ほら、なんせクエストの方が忙しかったからな?」 「遠慮すんなや。カシワ殿はいつかユカに追いつきてーんだろ? 壮大な夢じゃねーの。ユカもオレほどじゃねぇけどよ、現状確認ってのは大事だと思うぜ」 「そうなのか!? ユカって、あのモンスター呼びのギルドナイトさんだろう? それにクリノス嬢ちゃんもいい腹筋してるからな……ってことは」 「そうそう、そいつらと一緒に狩りに出てるカシワ殿もこの時点である程度筋肉がついてなけりゃおかしいってこった。そうだよな? なァ?」 これは、なんか、やばいぞ――そんな予感にいやに汗が噴き出してくる。じりじりと、気がつけば自分は後退りし始めていた。 自分のそれよりご立派な五指が近づいてくる。ルームサービスに視線で助けを求めたカシワだが、目が合った瞬間、獣人からは眼を逸らされてしまっていた。 「いや、だから、俺はその、母さんに似てそんな筋肉つきにくいっていうか、その、……うわーーーーっ!!」 マルクスは純粋な厚意ないし善意から。一方でアトリは完全なる悪ふざけとして、後輩狩人の身ぐるみを剥がそうと肉薄する。 遠慮すんなって、なんで逃げるんだ若人よ、俺が嫌だからに決まってるだろ、そのようにヤイヤイとマイハウス内を全力で走り回る三人だったが。 そんな今日日今どき子供でもやらないような悪ふざけは、突然幕を下ろすこととなったのだ。 「……反省してるかな、と思って来てみれば。お父さん!! ハンターさんたちのための施設で、何やってるのっ!?」 つまりは、筋肉自慢が凄まじいベテランハンターの実父でさえ口のみで倒すことが可能な、とある雲羊鹿飼いがマイハウスを訪ねたがための閉幕だった。 すでに上半身を剥かれかけていたカシワは、こうして無事に(?)貞操(?)を死守することに成功したのである。 「……すみません、カシワさん。お父さんがばかやっちゃって」 「いや、いいんだ。たまには? たまには、あー……ああやって、気晴らししないとな」 その後、時同じくして書類を届けに来た銀朱の騎士にアトリは引き取られた。マルクスもまた愛娘に――文字通り尻を叩かれて――渋々と帰途につく。 ノアに気遣われたカシワは彼女に招かれるがままクライン家を訪れ、こうして茶を供されていた。 素朴な調度品と、外部に出せば高値がつくノア手製のクッションやタペストリーが室内を彩りよく飾っている。 すっかり飲み慣れたベルナ村特産品カッコカリのゼンマイティーで喉に湿らせて、後輩狩人は雲羊鹿飼いに苦く笑い返した。 「マルクスも狩りを頑張ってるそうなんだ。もちろん、出来るだけ早めに帰れるようにって配慮してもらってるらしいぞ。なあ、ノア。だから今回は……」 「はい、分かってます。というかマイハウスに行った時点で許す気満々だったんですよ? なのにお父さんったら、あんな悪ふざけして」 一連の流れを思い出したのか、貧相な腹を見られていたのか、不意にノアの肌が赤く染まる。意味深な反応にカシワも慌てて咳払いした。 慌ただしく茶のおかわりを注ぎに行った彼女の目を盗んで、後輩狩人はそっと己が装備の腹部分を見下ろす。 腹筋かー……悲しく虚しい独白が口内に溶けた。思い返せど、自分には相棒のようなしなやかな肉体美はおろか騎士のような筋肉美もない。 否、ハンターのプライドをかけて宣言するなら「あるにはある」が「少なくともユカには及ばない」といったところだろうか。 ちらと盗み見た先で、雲羊鹿飼いは茶を淹れながら何度も自分の頬に手を押し当て、目を伏せている。あれどういう反応なんだろうなあ、と狩人は零せない。 「お、お待たせしました。カシワさん、カシワさんはこれからどうする予定なんですか」 「うん? そうだな。仕事は済んだから、今日はマイハウスに帰って道具の準備でもしようかって考えてたところだ」 ……やはり、多少は筋トレのひとつもするべきなのだろうか。ウーンと唸ったところで、 「なら、お風呂でもどうですか。ちょうどさっき沸かしたばかりなんです。お父さんは罰で畜舎の大掃除をしていますし、後ででいいはずですから」 思いもよらない提案がなされた。ぱちりと瞬きを返した後、何故か二人揃って赤面する。 「あっ、や、あのその、深い意味はなくてですね! その、覗くとかそういうのでは……!」 「のっ、ノゾキッ!? ノア、それはその、俺には覗かれて困るような……いや、儲けになるようなもんなんてナニモナイゾ!?」 「お、落ち着いてくださいわたしは料理とかしてますから。それにカシワさんはそう言いますけど、わたしはカシワさんの体、そんな悪いとは思ってな……」 ついに互いの顔が見れなくなってしまった。手渡されたタオルをぎこちない動きで受け取り、カシワはそろそろとクライン家のプライベートエリアに向かう。 途中で派手に転びかけた。時同じくして、キッチンの方からノアが何かしらの調理器具を落とした音がしたため、ここはドローである。 ……なんのこっちゃ。 その日の夜半――なんのこっちゃ、オチなんてあるわけないよ、と、白くけぶる夜霧の中で何ものかが呟いた。 月が霞の奥から顔をみせたとき、そこには誰の姿も残されていなかった。 |
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