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ハンターズギルド 闘技場運営記録 龍獣戯画 : 吾輩は毒吐き竜である TOP |
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「この話」の舞台裏です(モンスター視点) おれは×××。まだ名はない。 どうしてこんな話をしようと思ったかっていうと、この数日でおれの生活環境がすっかり様変わりしたからだ。 他意はないし、元の暮らしを惜しんでいるわけでもない。昔を振り返ったところで、腹が膨れるわけでもないからな。 さて……どこから話せばいいものか。 おれが元々暮らしていたのは、ここからそう遠くないバカみたいに広い湿地帯だった。 ぽそぽそして大して美味くもない枯れ草や、桃岩竜によく似た色味の花をつける細っこい植物なんかが点々と生えていた。 足元は足裏に優しいいい感じにぬかるんだ泥土でみっちり覆われてて、おまけに気候も温暖だ……誰だ、ジメジメしてて気持ち悪い所だろって言ったのは? 「住めば古都ドンドルマ」、って昔から言うだろ。おれからしたら過ごしやすい環境だったから、それでいいんだよ。 まあ、あれだ。おれは二足歩行のなんたらとかとは違って、体高はある方だし見てくれだって悪くない。 おれが湿地帯のど真ん中に降り立つと、その辺でわちゃわちゃしていた小っさい生き物なんかは大慌てで道を譲るしな……別に嫌われてるわけじゃねーぞ。 寂しがってるわけでもねーぞ。なんだその顔、やめろこっち見んな。 ……とにかくだ、おれのビジュアルってのはあの湿地帯に暮らしていたからこそより輝いていたと言っても過言じゃなかった。 ほどよい湿気は皮に優しいし、年中曇っていて視界が薄暗いのも悪くない。泥土の軟らかさで足裏も……って、この話はさっきもしたな。 それにアレだ、なにより湿地帯の離れにある鉱脈たっぷりの洞窟! あれはよかった、最高さ。 おれが根気よく育てたこのアタマ、ご自慢のトサカな。こいつは、おれが鉱脈から手ずから採った鉱石がいい仕事をしたおかげでここまで頑丈に育ったんだ。 遠方の、なんつったかな……ミンクリューだかバギーだかいう連中。あいつらも立派なトサカ持ちらしいが、あれはダメだ。 おれのより数倍柔らかいらしいし、なによりピカッと光らない。そんなもん二足歩行の連中に『好きに殴ってください』つってるも同然だ。実に宜しくねー。 あの尖り具合は……、……うん、まあ……悪くはないわな。おれのは用途の関係で、どうしたってあそこまでツンツン尖ったりしないのよ。 ……なんの話をしてたっけな。そうそう、トサカだ、おれの石頭のことさ。 おれのこのアタマは、おれが厳選した鉱石成分をたっぷり蓄えているからかなり頑丈だ。おまけにピカッと光るモトもたくさん詰まってる。 こいつにおれの口元をぶつけてやると、光るモトが反応して光り輝く。あとはどんな相手でもおれの魅力にクラクラして立ってられなくなるって寸法さ。 おれがこの湿地帯で(主に二足歩行の連中にだが)「沼地のエンターテイナー」って呼ばれてるのは、そういうことさ。 こんなに魅力的なおれのことを、どいつもこいつも放っておけないってことだよな〜。でなかったら、しつこくおれのトサカを狙う必要がねーんだから! 話は変わるが、こんなおれでもアタマの上がらない相手っていうのがいなくもないのさ。 おれのカラダは伸びが利く、それでいて頑丈な分厚い皮に守られているんだが、こいつはとにかく火に弱い。雄火竜だ雌火竜だなんてたまったもんじゃねー。 一度でも火が点いたら、あとは全身火だるま、クロコゲリョスの出来上がりよ。……今、おれ結構巧いこと言ったよな? それはさておき、とにかくおれはそんな理由で火が苦手だ。元々暑いのもあんまり得意じゃねーんだが、誰だって火だるまになるのは御免だろう? つまりだ、おれがひたすらトサカをペコペコさせにゃならねー相手っていったら、だいたい火を噴く連中のことに決まっているのさ。 例えば、あの湿地帯でいうなら筆頭飛竜のグラビモス、通称グラビの姐貴だな。 あの竜はなあ……普段はまったり過ごしてるってのに、一度でも岩頭に火が点いたら火を噴かずにはいられねーのさ。典型的なキレさせたらダメなヤツだな。 その火っていうのがまた、周りを根こそぎ薙ぎ払うビームだってんだからタチが悪い。おれの自慢の翼をもってしても捌ききれるワケがねー。 だからあの姐さんは、できるだけ怒らせないようにした方がブナンなのさ。本来なら仔煩悩で穏やかな竜であるんだからな。 ちなみに余談だが、そのお仔様であるバサルモス、バサルのがきんちょも火を噴くときたもんだ。全く、「浄血は争えない」って巧く言ったもんだよな〜。 ……ああ。あの日のことは、よく覚えてるよ。 おれはあの場所のエンターテイナー……まあ、こいつは二足歩行の連中が勝手につけた呼び名だが、とにかく気遣い屋だったのさ。 あそこで暮らす愉快で不快な仲間どもが、その日なんの苦労もなく面白おかしく過ごせているかどうか。そいつを気にして、毎日パトロールしていたワケだ。 律儀だろ? 健気じゃねーか? おれくらいだぜ、こんなに連中に気を利かせて、気を遣ってやっていたのは。 だから、連中がどんなに気楽にバカをやってたとしたって、おれにしか気がつけないことっていうのも確かにあったのさ。 ……あの日は、いわゆるメシが極端に少なくなっていたんだよな。 メシって言ってもアレだ。おれたちはそれぞれで食性ってのが違うから、一言でメシっていっても実際には色々あるんだが。まあ、それは今はどうでもいい。 あの日は、虫……飛甲虫の連中が、やけに少なくなっていやがったのさ。 知ってるか、飛甲虫。あの、ブンブン飛び回る目障りで耳障りな連中のことだよ。ランゴスタとか、ブナハブラとか、そういうやつな。 あいつらは、おれでさえトサカが上がらない――それこそ「龍」と呼ばれるような方々さえ無視しやがるような、生き物の本能の塊みてーな連中なのさ。 龍の方々の不可視の力はシカトするし、おれとは違って火に寄っていくナゾの生態持ちだし。喰うこと、寝ること、増えることしかアタマにねー連中なのさ。 周りで何が起きようと、我関せずでお気になさらずってツラしてやがる。虫だけに無視ってな……話を戻すか。 そんなクッソ役にも立たねー虫どもだが、連中にだって存在価値ってものはある。あいつらは、虫を食性にする連中のカッコウのメシなんだよな。 ……ああ。 さっきグラビの姐さんの話をしたが。あの竜とは別に、あの飛甲虫を喰うためにたまーに顔を見せる飛竜がいたんだよ。 名前はライゼクスっていうんだが、あいつはアレだ、姐さんより話が通じねー。キレやすいし電撃ブッパするし、おれは皮が電気を通さねーから楽だけどよ。 とにかく、あいつが来ると色んな意味で湿地帯は賑やかになったもんさ。 悲鳴はもちろん、あの明るさを喜ぶヤツや賑やかなのが好きなヤツ、縄張りどうこうで喧嘩吹っかけるヤツとか、色々いたわ。おれもまあ、楽しんじゃいた。 気性は荒いが、メシの邪魔さえしなけりゃそれなりに意思疎通はできたんだ。なんてったって、おれはエンターテイナーだからな。社交なんてお手の物さ。 アイツだって、メシさえ終わればのんびり散策したり、おれや姐さんと話をしたりしたこともあったんだ。悪いヤツじゃなかったのさ。 それだってのに、あの日は……そうだな、何回言ってんだよって話だけどな、そう……あの日は、虫の連中がほとんどいやしなかった。 たまたまライゼクスがメシに来てたんだが、そりゃあもう、苛ついててな。おれと姐さんで気を紛らわせようと話を振ってはいたんだが、空腹には抗えねー。 だんだん話の流れがおかしくなってって、ついにあいつは暴れ出した。『そんなキレる必要ある?』ってくらいのガチギレだったわ。 どうにも妙だ、って姐さんと話し合ってな……姐さんもおれと同じで、湿地帯の見回りを買って出てた竜だったから、二手に分かれて避難誘導を始めたのさ。 だけど、不運ってのは重なるもんだ。ライゼクスの暴れっぷりに感化されたのか、他の連中も急にキレ始めやがったのさ。 だんまりが御家芸の飛竜フルフルに、ハサミどころかカマ振り回してるイカレ甲殻ショウグンギザミ。そりゃあもう、手がつけられないくらいの暴れ方さ。 イーオスやメラルーなんかは、巻き込まれたくねーってんで四方八方に逃げ回って余計に邪魔しやがるし。とにかくカオスだった。 おれは正直、ヘトヘトだったのよ。気が済むまで暴れりゃそのうち落ち着くんじゃねーの、って、最後の方ではそう思ってたくらいだったワケさ。 だけど……連中が落ち着く気配は、欠片もなかった。 そのうち、堪忍袋の緒が切れた姐さんも参戦するようになっちまってさ。連中は方々に散ってったが、おれは火に弱いのよ、とてもあそこにいられなかった。 なんとか空に飛び立って、おれはひとりぽっちで逃げ出したのさ。 振り返ったとき……なんだろうな。湿地帯の端っこに、赤くピカピカ光る欠片が見えたんだ。あの、たまに空に浮いてる赤い流星みたいなやつさ。 なんだか見送られてるような気がして胸クソ悪かったよ。おれだって好きで飛び立ったワケじゃねーんだからさ。 ……そういや、不思議なタイミングってのもあるモンだな。 なに、思えば、虫どもがいなくなったり、あいつらがああしてやたら喧嘩っ早くなったりしたのは、あの赤い星を見かけるようになってからだからな。 だからなんだ、って言われりゃそれまでなんだけどよ。 まあ、そんなワケさ。 おれは、悲しいかな、あの居心地抜群の湿地帯から離脱するハメに陥った悲劇の鳥竜ってことだ。 あの後、姐さんやライゼクスたちがどうなったかは分からねー。様子を見にいきゃいいんだろうが、なんだ、ここでの暮らしも板についてきちまったからな。 沼地のエンターテイナーから森丘のエンターテイナーに転職した! ってことさ。……冗談だよ、そんな眼で見んな―― 『――だからよ、イャンクック。ここじゃ新参者のおれが、おまえにあれやこれや教えてやる義理はねーのよ。分かるか』 「彼」は、眼の前で眼を輝かせている一頭の鳥竜を見た。 クルプティオス湿地帯を出て、あの地に似た過ごしやすい環境はないものかと、探しに探してようやく辿りついた地、シルクォーレの森、シルトン丘陵。 羽休めとばかりにしばらく様子見をして……と一時滞在を思案していた「彼」は、ひょんなことから先住のちっぽけな鳥竜に出くわした。 自分のような丈夫な皮ではなく標準的なウロコと甲殻で身を包み、自分のように毒ではなく火を吐き出す竜、イャンクック。 なにせ火を吐く相手だ、はじめは相手にしないつもりでいた「彼」だったが、何故か一方的に懐かれた。 何度か警告し、それこそ毒を吐き、力尽くで追い払おうとしたものの、どうしてか相手は一向に「彼」を慕い足取りを追ってくる。 曰く、『カッコイイからー!』と。 ひとりぽっちでいることも、毒を吐き散らすことも、丁寧に育てられた石頭も。どれもが初めて眼にするものだと、そのイャンクックは眼を輝かせた。 褒められ、ついて回られ、はてにはこのあたりでは貴重な盾虫まで捧げられ……そこまでされては、流石の「彼」も怪鳥を無碍にすることが出来なくなった。 湿地帯を追われ、仲間を見放し、単身逃げ出した毒怪鳥。「彼」は「彼女」に救いを見出してしまった。 『イャンクック。おまえは、毒は吐けねーよ?』 『エッ!? が、がんばればなんとかならないかなー』 『アホか、エンターテイナー様をナメんなよ? そもそも食性に違いが……』 『そっかー。カッコイイねー!』 体が小さく、走るのが遅く、吐く火も勢いが足りないと。そう言われて群れを追われたこの怪鳥は、すっかり「彼」を師として定めてしまったようだった。 気晴らし、代償行為、インプリント……そうかもしれない。笑いたいなら嗤えよと、「彼」は遠巻きに見てくる他の先住をトサカ越しに威嚇した。 つまりは、「彼」も「彼女」のことが満更ではなくなりつつあったのだ。慕われるのは、好かれるのは、正直言って気分がいいと。 いつしか「彼ら」は森丘の隅で、木陰に隠れるようにして日々を過ごすようになっていた。 その日……運命じみた、赤色の星が天から降ってくるその瞬間までは。「彼ら」は二頭親しく寄り添って暮らしていけるのだと、互いに信じて疑わなかった。 『……イャンクック。イャンクック。おまえ、生きてるか……死んじまったか』 赤色の流星こそが、天から降り注いだ災厄そのものであるのだと。全ての凶暴化の理由に当たるのだと。 悲しいかな、その毒怪鳥は他より遥かに賢いが故に気付けてしまった。 獰猛化現象……自分たちの身にも起きたそれが、自分たちがあの豊かな森と丘から剥離される根本的な理由に当たるのではないかと。 気づいたときには、すでに囚われの身となっていた。 二足歩行に連れられ、檻の中、その毒怪鳥は自身も捕らわれている最中であっても、眼前で眠り続ける怪鳥にひたすら繰り返し声をかけ続けた。 どこか明るい声域は、「彼」がエンターテイナーなどと皮肉られる有り様を彷彿とさせた。最後まで、「彼」は周りを気遣うことを辞められなかったのだ。 『死とは、生とは、常に隣り合わせの場所にある。あの二足歩行の生き物らも我々も、生命あるもの、ただの獣。故に、なにも恐れることはないだろう』 「彼」が「彼女」に五千五百五十五回目の声かけをしたとき、檻の外、別の檻に収監された生き物が「彼」に声をかけていた。 黒ずみ始めたトサカ越し、「彼」は自分たちのそれよりもっと小さな檻の中に佇む、薄桜と錦の色の優美な獣を見て、小さくクチバシを動かした。 声にならない声ではあった。「彼」は、もはや「彼女」を気遣う以外の言葉を失念してしまったようだった。 『私は運がよかった。戦績がよいから彼らに気に入られ、生かされている。故に私が泡孤竜……蒼き星であるという自尊も保っていられる。実に愉快痛快よ』 『……』 『最期まで生きるがよい、光る石を留める者よ。お前が「娯楽提供竜」と自称していたのなら、最期までそれを投げ捨てないことだ』 たとえ、その変貌した血を抜かれるだけの身であっても。 たとえ、生きながらにして体を引き裂かれる未来が待っていても。 たとえ、心を許した相手と死に別れる運命が口を開けていたのだとしても。 『エンターテイナー。……そうさな……そう、だったわな……』 ……その日、獰猛化個体としてサンプリングされた二頭の竜は闘技場から龍歴院へと無事引き渡しが完了された。 捕獲を成したハンターには追加報酬の獰猛化素材が送られたが、一人は素直にこれを喜び、一人はにが虫を噛んだような表情で応じたという。 彗星と称されし古龍……天彗龍の出現以降、各地で散見され始めた獰猛化個体。件の研究施設は、今でもその動向と生態解明を追っているということだった。 |
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TOP UP:25/05/16 |