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モンスターハンター カシワの書(38) BACK / TOP / NEXT |
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「おうさ。オメーさん、ちゃーんとラティオ火山から帰ってこれたんだな」 ふと掛けられた声に振り向くと、厳つい顔の男がひとり、一行を見上げていた。 大ぶりの鎚を担ぎ、分厚い耐火性の布で仕立てた作業着に身を包む竜人族だ。黒い顎髭がもじゃもじゃと生えていて、一見近寄りがたい雰囲気を放っている。 にやりと口角をつり上げたのか、顎髭がくしゃりと歪んだ。面識のある相手だが、普段彼が仕事場から出てくる姿を見る機会はそうそうない。 「加工屋の……親父っさん?」 「おうさ! その様子じゃ、どうやらオイラを『忘れてた』ってわけじゃーなさそうだな」 ベルナ村において武具の加工を一手に担う職人が彼だ。なにせ初狩猟を果たした獲物、跳狗竜らの防具も彼に一から仕立ててもらっている。 気難しいように見えて人当たりは良く、最先端の技術にも明るい上に、新人のハンターにも親切な気質だった。そんな職人が、珍しく工房から出てきている。 いつもなら隣接する武器屋の青年と会話しながら作業に掛かりっきりであるはずなのに……カシワはひたすら上向く彼の視線を辿り、思わず首を傾げていた。 まっすぐに放たれた、物言いたげな鋭い眼差し……カシワの肩越しに目を合わせたクリノスは、ぱちりと大きく瞬きしている。 「親父っさん、もしかしてクリノスに用事……」 「――っ、ええー!? 『こんなのどう見たってカシワが悪い』のに!」 「えっ? おい、クリノス……」 「まさか。『オメーさんなら話が分かるだろう』、お嬢ちゃん。さあ、そんじゃ一丁、頼んだぜ!」 「え? なに、どうし……」 二人が目だけで交わす不可解な会話に、カシワはたじろいだ。恐らくこちらの話などまるで聞いていない。 言われた側の先輩狩人は、うんざりしたような声色で応えたあと空を仰ぎ嘆息している。直後、彼女の手はひらひらと動かされた。 「まーね、基本中の基本だからね……リンクー」 「はいですニャー!! アルフォート、一旦降りてボクを手伝うニャ!」 「ニャ、ニャイ? はいですニャ」 「え? なに? な、なんなんだよっ!?」 「はいはい、今回ばっかりはあんたが悪い! んー、暴れると悪いからー……リンクは左ね、アルくんは右で」 クリノスに促され、リンクに小声でひそひそと指示を出され、自ら草原に降り立ったオトモメラルーはいそいそと雇用主の右手に「ぶら下がった」。 見下ろす黒瞳と見上げる青眼が交差する。互いに、何がなんだか分からない、という顔だった。 「あ、アル!? なんだよ、どうしたんだ、リンク!」 「ニャー。カシワさん、大人しくするのニャー。カシワさんが暴れたらボクたち怪我しちゃうのニャ?」 「んなっ……そんな乱暴なこと、するわけないだろ! なあ、アル……」 「ニャイ。ごめんなさいですニャ、旦那さん。ボクも、こうしないといけないみたいなんですニャ」 「ちょっ、ええ……? おい、クリノス……」 そうして気がついたときには、新米狩人は四肢をオトモたちに拘束されていた。端から見れば彼らに可愛く駄々をこねられているようにしか見えないだろう。 ……離れて立つユカが、喜色を隠そうと羽根帽子をさっと深く被り直したのをカシワは見た。 他人事だと思って! そうは思えど、オトモたちがしっかりしがみついているので叫ぶどころか振り払うことも儘ならない。 「はいはい、お疲れー、リンク、アルくん。イイシゴトしてるね!」 「旦那さーん! ボク、カシワさんを押さえたニャ! 今のうちですニャー!」 「もちろん。じゃっ、不本意だけど始めよっか――」 ワキワキ、と先輩狩人の手が不穏で怪しい動きを見せる。ひくっと顔を引きつらせたカシワだが、クリノスに退くつもりはないようだった。 「ねっ、抵抗しない方が身のためだよ〜?」 「なっ、何す……やめっ……やっ、やめろー!! く、来るなっ!」 「ほらほらぁ、素直になりなって!」 「どわっ、お前どこ触って……や、やめろ! そこは……そっ、それだけは……!!」 「ふぅん、体は正直みたいだけど? はいはい、諦めなって」 「うわぁああああっ!! や、やめてくれー!!」 ――だ、ダメぇ……っ! ……などと、年下の異性に向かって叫んだかどうかはさておいて。 頭から胴、腰から果てには両脚まで。恐ろしい速さで防具という防具を徹底的に「剥かれ」、新米狩人はあっという間に丸裸にされていた。 慈悲はあるのか、インナーは上下ともども着せられたままだ。それでも現在地は人の往来の絶えない村入り口、もはや羞恥で顔から火が出そうになっていた。 「――だから、わたし普段から言ってたでしょ? 『武器防具の手入れは絶対やっとけ』って!」 マッカォ製の革手袋をぽいっと加工屋に放り、クリノスは呆れ半分同情二割、残りは「手間掛けさせやがって」と雄弁な視線で物を言う。 ギギギ、と錆びついたブリキ人形よろしく機械的な動きで先輩狩人を見つめ、後にカシワはさりげなく、そろそろと背中を丸めて縮こまった。 ……周囲の視線が痛すぎる。村人だけでなく、龍歴院の研究員から果てにはユカや受付嬢といったギルドの職員まで、二人はがっつりと注目を浴びていた。 目立ちたくない、が彼女の信条ではなかったのか。ぼそりとぼやいた新米狩人を、先輩狩人はヘッ、と小馬鹿にしたように笑い飛ばした。 「インナーは着てるんだから、まだいい方でしょ。ねー、リンク」 「だからって、お前なあ! こんなところで脱がさなくたっていいだろ!?」 「カシワさん、旦那さんは頼まれてやったのニャー。そこは勘違いしちゃダメニャ! あ、武器も刃こぼれしてそうだから没収ニャ。アルフォートは盾を」 「うわっ、プロか、その道のプロなのか!? か、勘弁してくれ!」 「ニャイ、ボクたち、旦那さんのことが心配なんですニャ。ごめんなさいですニャ……」 「うぐっ、そんな綺麗な眼で見ないでくれ、アル……って、リンク! こら! 剥ぎ取りナイフまで取らなくたっていいだろ!! 返してくれー!!」 なんだかんだ強気に出られないハンターは、文字通り丸腰に剥かれ終わる。藍染めのインナーを見下ろして、あまりの情けなさにカシワはうな垂れた。 その太腿を、ぽんと何者かが叩いてくる。見れば、ボックスにしまい込んでいたベルダー装備――就任当時に配布されたものだ――を手にした加工屋だった。 慣れない狩り、見知らぬ土地……矢のような速さで過ぎた今日までの日々。懐かしさに呆けていると、男はまたしても顎髭をくしゃりと歪めた。 「おうさ、散々だったな。それはそれとしてだ、お嬢ちゃんもいい手腕だったぜ。流石ってなもんだ」 「さてねー、頑張ったのはオトモたちだから。わたしは何もしてないよ」 「……そうだよな、お前はリンクたちに頼んだだけだしな」 「あんたがメンテナンスろくにしないから、わたしがこんなことする羽目になったんでしょ。なんで好き好んで、野郎の服を脱がさなくっちゃいけないの」 「――クリノス。お前、そんな趣味が、」 「ペッコは黙ってて」 会話に割り込んできたユカをも一蹴するあたり、彼女の怒りは相当なものか。口をもごもごさせたカシワを見上げて、竜人族はふと目を細める。 何ごとかを懐かしむような、慈しむような、そんな柔らかな眼差しだった。 「オメーさん、最近は狩り尽くしだっただろう。見な、金具は歪んでるしこっちは火竜のブレスの余波で焦げてんぜ。これ以上は見逃せねえってなもんよ」 受け取ったベルダー装備に袖を通しながら、彼が指す跳狗竜防具のパーツに注目してみる。言われてみると確かに、打立の頃と比べると散々な状態だった。 焼け焦げ、引き裂かれ、または毛羽立ち、鱗は剥げかけている。王者の冠羽に至っては、羽枝がぱさつき一部が削げ落ちていた。 ……ここまでとは思ってもいなかった。目を剥いた新米狩人に先輩狩人は鼻で嘆息し、加工屋は苦笑を滲ませる。 「装備品を大事にできないハンターは、早死にするんだって。母さんと兄ちゃんが言ってた」 「お母さんとお兄さん? お前の家族って、皆ハンターやってるのか」 「あー、うん。話したことなかったっけ? まーね、父さんと上の兄ちゃんたちはまた違うんだけど」 クリノスが言葉を切ったのをちらと横目で見上げ、竜人族はふすんとわざとらしく鼻息を噴かせた。 「早死に、とまでは言いたかねえが、オイラもお嬢ちゃんと同じ意見だぜ。オメーさんの防具にしろ武器にしろ、どれもモンスターの素材でできてるんだ。 それにオイラがオメーさん方に作ってやれるのも、歴代の加工の業があってこそってなもんよ。オイラたちは独りで生きていられるわけじゃねえんだぜ」 だからこそ武器防具は大切にしろ、と二人は目で語りかける。 「独りで生きているわけではない」。己の手のひらを見つめて、カシワは表面にたこができていることに初めて気がついた。 誰かの、何かの生命を手折ることで得られる攻守の術。そうでもしなければ立ち向かうことも儘ならない強者たち。自分は、そんなものに挑んできたのだ。 ぞくりと背筋が震えた。ぐっと拳を握りしめれば、固く目を閉じれば、相対してきたモンスターの姿が即座に脳裏に浮いてくる。 「自信、持っていいってことだよな?」 「はあ? なんでそんな話になるわけ、あんた、ちゃんと反省してる?」 「ううっ、してるしてる、分かってる! ……俺たちは、あいつらの力を借りて狩猟に臨めているんだよな。大事に、使ってやらなきゃな」 爪牙の代わりとなる武器も、甲殻の代わりとなる防具も、全ては生けとし生けるものからの借り物だ。 それを打つ加工屋にせよ、身に纏い駆け出す狩人自身にせよ、脈々と継いできた技術がそれら全ての基盤を支えてくれる。 「少しずつ重ねてきたものがあってこそ」。何も装備品に限った話ではない。こうしてこの場に龍歴院つきとして立っていられることこそが、その証なのだ。 「よし、分かったってんなら話は早い。何か作るか。オメーさん、防具の強化だってしたことねえだろう?」 「強化かー。未だによく分からないんだよな、それ」 「……は? なに、だって鎧玉……」 「お嬢ちゃんは聞かされてなかったってのかい? オイラもよくこの構成でレウスに挑んだなって仰天したんだぜ! マッカォの素材は火耐性も低いしな」 「ん? 火耐性が低いとなんか問題あるのか?」 「……カシワ、あんた」 「……対リオレウスに不向きのよく燃える装備、ってことだぜ、このすっとこどっ……いや、オメーさんハンター歴まだ短いしな……」 小声で話し合うクリノスと加工屋の顔を、カシワは見比べることしかできない。なんだよ、とぼやいたところで横からステラが脇腹を突っついてくる。 曰く、手持ちの素材と他の装備を一度見直した方がいい、と。変わらず眠そうな目つきではあったが、その語気は力強いものだった。 「防具を剥かれたのだって、あなたが仕事を詰め込みすぎたからでしょう? 休めるときに休んでおかないと」 なんならいけそうな狩りはわたしが進めておくから、はにかむ女の言葉には妙な説得力がある。案じられたのかもしれない……素直に甘えることにした。 手入れは済ませておく、そう宣言する加工屋への礼もそこそこに、二人は背後にユカを伴ったまま一路マイハウスへと足を伸ばす。 「っていうか。あんた、くっさい」 いきなり何を、と聞き返すよりも早く、足元のアルフォートがそう言うクリノスの代わりに背を伸ばし、雇用主の胸元をフンフンと嗅いだ。 気恥ずかしさがくるより先に、オトモは「これはひどい悪臭だ」とばかりに高速で上体を反らして見せる。 「……俺、そんなに臭うか。アル」 「ニャ、ニャイ。ぼ、ボクはその、獣人族なので……その、」 「アルフォート、ここは正直に教えてあげるのがカシワさんのためニャ。ということで――カシワさん、くっさいニャ!!」 「リンク……お前、日に日にクリノスに似てきてないか!?」 オトモアイルーを捕らえようと屋内で奮闘する新米狩人だが、そこは種族の差。リンクの軽やかすぎるステップに、カシワは振り回されるばかりだった。 「それにしても、あんた何日風呂入ってないの? まあ、わたしが先に入るけど」 「うん? そうだな、古代林でホロロホルルとやり合って……その後、火山だったからな。これ、火山灰とか火山ガスとかもあるんだろうなあ」 「ニャイ……旦那さん、クリノスさんが先にお風呂使うの、もう慣れっこになっちゃってますニャ」 「いつものことだからな。もう慣れたよ」 からからと笑いながら、クリノスはマイハウス奥に設置された簡易浴場に向かっていった。途中、ふてぶてしくベッドに横たわるチャイロも連れ去っていく。 ユカの話では、件の旧砂漠出身の野良メラルーは体を濡らすことを嫌がるらしい。直後、ブニャアアアと野太い声が響き渡った……。 「……なあ、ユカ」 「心配するな。もの凄く臭うぞ」 「お前までなんだよっ!? くそ、弱ったな……」 頭を掻こうとして、カシワは慌ててそれを取り止めた。部屋を汚せば、管理を任されているルームサービスに迷惑をかけると思ったからだ。 気にすることでもないと思うがな、そう吐き出した騎士は書類片手に窓際の一番いいテーブル席を占拠している。 悔しいが、もの凄く画になっていた。彼と比べると自分の体が貧相に思え、もの悲しくなってくる。隠さずに溜め息を吐いたところで、ふと扉が鳴らされた。 「……あれっ? ルームサービスって今いないのか」 「買い出しか何かだろう。カシワ、」 「ああ、分かってる」 二度目のノック。互いに視線を交わしてから、カシワはさっと扉を開く。 途端、ふわりと若々しい草花の匂いが漂った。目を瞬かせていると、眼前で大きな黒曜石が釣られるようにして瞬きし返してくる。 「あっ、いつかの……カシワさん、でしたよね」 草原を撫でる馴染みの風が、豊かな黒艶を柔らかく揺らした。陽だまりを思わせる自然で愛らしい笑みが、呆けたままの新米狩人をまっすぐ見上げている。 ……名は、確かノアといったはずだ。古代林で斬竜と邂逅した折に出くわした、ベルナ村の若い酪農家。 あれ以来、しばらく彼女とは会っていなかった――ふと香ばしい匂いが鼻を突き、カシワは目を白黒させて視線を落とす。 「ええと……その、久しぶりだよな? 元気だったか」 「はい、おかげさまで。カシワさんはどうですか、狩りは順調ですか」 「うっ、ま、まあそれなりに。ところで、それって?」 無理をしすぎて装備を没収された、などとは口が裂けても言えない。話を逸らそうとして、彼女が抱える籠を覗いた。 中身は、こんがりときつね色に焼けた焼き菓子だ。口に入れずとも風味と味が想像できてしまうような、食欲をそそるムーファチーズの香りがする。 「あ、これですか。時々差し入れに持ってきているんです、他のマイハウスにもですけど……父が、匂いに釣られて顔を出すかもしれないので」 「君のお父さんって……もしかして、まだ家に帰らないのか」 「そう、なんです。昔に比べて、月に一回くらいは手紙も届くようになったんですけど。帰らなさすぎて気まずいんでしょうね」 苦笑に混じるのは、家族に対する寂しさと愛しさか。眉尻を下げるノアを見て、カシワは自分のことのように胸がちくりと痛んだ。 「いつ帰ってきてもいいように家も掃除してますし、なんなら決まった時間にご飯にしてるし、お風呂だって焚いて……」 「……うん? まさかその風呂って、ノアしか使わないのか」 「ええ、もったいないって分かってはいるんですけど。あとは、残り湯をお芋の皮剥きに使ったり、ですかね」 ふと、背後から突き刺すような視線を感じる。おそるおそる振り返ると、予想した通り、ユカの鋭い眼差しがこちらを見据えていた。 あれは分かる、目がこう言っている……「ならお前がその風呂を借りてしまえばいいだろう」、と。とんでもない話だ、カシワは高速で頭を左右に振った。 なんの話か見えていないのか、ノアは籠を抱えたまま首を傾ぐ。慌てて扉を閉めて彼女を隠そうとしたカシワだが、ユカの方が早かった。 つかつかと歩み寄ってきたかと思えば、ぐいと押し退けられている。真正面から騎士に整った笑みを向けられても、ノアは首を傾げたままだった。 「悪いが、マイハウスの風呂の調子が悪いようでな。こいつに君の家の風呂場を貸してもらえると有難いんだが」 「ユカ、お前っ……何言って、」 「見ての通り、狩りが続いて疲れきっているようだから休ませてやりたいんだ。頼めないか」 口調こそ穏やかだが、まとめれば「さっさと風呂を貸せ」と命令しているだけだ。あまりの横暴さに、カシワは男に押し退けられながらも懸命に手を伸ばす。 ノアは、はじめそんなユカをじっと見上げているばかりだった。徐々にその顔に怪訝さが滲み、あからさまな嫌悪が加わる。 「わたしは構わないですけど……あなたはカシワさんがそうやって『疲れきるまで働かせ続けた』ってことですよね?」 ピリ、と空気に妙な緊張が走るのをカシワは感じた。そっと顔を上げると、ユカの横顔から感情という感情が消えている。 「あなたがカシワさんとどういう関係か、わたしには分からないですけど……カシワさんのこと、あまりないがしろにしない方がいいと思いますよ」 刹那、眺めていた騎士の顔ににこっと綺麗な笑みが浮かんだ。同じくノアの表情も満面の笑みとなっている。 何故かは分からない。しかし、それを目にした瞬間ぞわっと全身に悪寒が走った。目を瞬かせる新米狩人の手をノアがぱっと掴み、外へ引っ張り出していく。 反論する暇もない。オトモ広場方面へ向かう最中、娘はちらともこちらを振り向かなかった。 「わたしの家はこちらです。お湯が冷めないうちに、どうぞ」 「だ、だけどな、悪いだろ! その、ほとんど初対面なのに!」 「いいんです、どうせ焚いてもお父さんは帰ってこないですから。使ってもらった方が、まだ……助けてもらったお礼もできていませんし」 ユカに向けていたものとは異なる、寂しげな笑みが眼前を滑った。儚げにすら見える横顔が切なく思え、カシワは自然と口を閉ざしてしまう。 促されるまま、小さな玄関をくぐった。入り口に飾られた可憐な薄紫色の花が、室内に甘い芳香を放っている。 |
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