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モンスターハンター カシワの書(3) BACK / TOP / NEXT |
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台所から聞こえる包丁の音、窓から入り込む心地いい風、柔らかな日光……ああ、こういうのが幸せというものなんだろう。 そうしてまどろみながら寝返りを打とうとしたところで、ベチン、と衝撃が降った。それも一度だけならず二度三度。 四度目、五度目、そろそろ額が痛くなってきた。一体なんだ、文句を言ってやろうと目を開けると、 「起ーきーるーのーニャー!! いつまでも寝てるの感心しないニャ!」 「うわあああ!」 ……何やら黄色い生き物に引っぱたかれた。 生き物はベッドの上から華麗にバックステップ、そして跳躍。ぐるぐると宙返りしたかと思えば、しなやかに床に着地する。 思わず跳ね起き、カシワは慌てふためきながらあたりを見渡した。 見慣れた光景だった。ベルナ村村長に手配してもらった自宅と、台所に立つルームサービス係のアイルー一匹。 そして正面……えへんとふんぞり返る、黄色毛並みのアイルー一匹。知らない顔だ、カシワは無意識に眉根を寄せた。 「やっと起きたニャ、待ちくたびれたのニャー」 肉球をちらちら見せながら両手を振ってくる。どうやら先ほどから叩き起こしにかかっていたのは、彼らしい。 待ちくたびれた、とはどういうことか。しかし、頭がぼうっとしていて怒鳴る気も起きてこない。 寝ぼけ眼をこすっていると、黄色いアイルーは小さく嘆息した。失礼な奴だな、盛大にあくびをしながら観察してみる。 どうも、普通のアイルー族とは少し違うようだった。眼つきがいくらか鋭く、賢そうで、背中には獣人族馴染みのピックではなく きちんとした剣が提げられ、頭と胴には見慣れない緑の鱗で出来た装備とアイテムポーチが一つ、あてがわれている。 「お目覚めですかニャ。おはよう御座いますニャ、旦ニャ様」 「うん? あー、おはよう」 ふと嗅覚を惑わす匂い。ルームサービスが朝食を運んできたところだった。黄色いアイルーも鼻をひくつかせている。 受け取るや否や豪快に皿ごと膝に乗せると、小鍋の中で柔らかくとけているチーズにちぎったパンを突っ込んでかじり付いた。 ベルナのチーズは本気でうまい、これに酒でもあれば格別だろう。素敵な味を噛みしめていると、視線を感じた。 「食うか?」 「……ニャ、チーズ……ごはんニャ……はっ!?」 黄色いのがじっとこちらを凝視していた。慌てたように、違うニャ、誤解ニャ、いらないニャ、と首を振っている。 よく分からん、小声をこぼした後で二個目のパンに突入! しようとしたところで、 「――っていうか、ドスマッカォのことはもういいの?」 予期もしない新たな声が降った。パンを飲み込むことも忘れて顔を上げる。 「!? むご、うぐっ……だっ、だれ、」 「ニャ、旦那さん!」 「うん。お疲れさま、リンク」 いつからそこにいたのか。暗色の装備一式に身を包む人物が、入り口付近の壁に寄りかかっていた。 背は平均より高く見えるが、声色からして若い女だろう。 だが長い裾から垣間見える足には鍛え上げられたしなやかな筋肉がついており、背には細身の剣二振りが提げられている。 アイルーに歩み寄ると、件の人物は彼、リンクの頭を撫でた。 ずいぶんと親しげに見える。専用のルームサービスか、そう思ったカシワだが、言われた言葉にパンを急いで丸飲みした。 「ドスマッカォ」。訓練クエストで相見えた因縁のモンスター。一連の流れを思い返し、ぐっと眉間に力がこもる。 (そうだ。俺は確か、ドスマッカォを倒して、それで……) のどを詰まらせてむせている間に、膝上の朝食が取り上げられた。 カシワの背をさすりながらおろおろするルームサービスをよそに、暗色装備は固形チーズを勝手にかじり始めている。 「んー、美味しっ。はい、リンク」 「ニャー。ありがとうニャ、旦那さん!」 「……ッムゴ、ゴフ、って、おい! それ、俺のメシ……」 「うん、うん。ねえ? 『初心者なのに弓選んで、立ち回り大失敗〜の、新米ハンターさん』」 「!?」 愕然とするカシワは完全放置。女は二個目の固形チーズさえ口にした。 何故それを知っているのか。顔に出ていたのか、ルームサービスが横でうろたえている。 思わず「ストーカー?」と聞いて毛布を胸元に引き寄せてみれば、フードに半ば隠された顔が盛大に歪んだのが見えた。 「だってそれは、見てたし。リンクとふたりで見てたし」 「!!?」 「そうなのニャー。旦那さんと一緒に、最初から最後までぜーんぶ見てたのニャ!」 「は、はあ!? なんっ、なんだってそんな……! おかしいだろ!」 「うんうん。すごい戦いぶりだったよね」 「あれは、ボクにもマネ出来ないニャ」 寝耳に水とはこのことか。あの苦戦っぷりを観られていた? そう考えただけで、カシワは顔から火が出る思いだった。 チーズを食べ終えられたあたりで、盆が返される。思わずそのまま受け取り、一旦サイドテーブルに乗せてから男は頭を抱えた。 「どういう……カリスタ教官の知り合いなのか」 「それはない。あの人とは無関係、いや、少しはあるのかな」 「どっちだよ?」 「それより、とりあえず服でも着たら? 落ち着いて話も出来ないでしょ」 言われて初めて装備がないことに気づく。いつの間にか訓練用装備が消え失せ、上下ともにインナーのままだった。 ルームサービスの補足によれば、あの後自宅に運び込まれ、手当てを受けた姿そのままにベッドに転がされていたらしい。 見るなよ、念押しすると女はまたも不快そうに口を歪めた。誰が、そう言いたげな雄弁な口元だった。 「……龍歴院ハンター? お前も?」 結局、女は出て行くつもりがないらしく、その場でカシワの着替えを待ちながら室内に残っている。 どこから連れ出してきたのか、ムーファによく似た小さな生き物を抱きかかえていた。疑問には頷きが返される。 「この家は龍歴院つきハンターに無料で貸し出されてる施設だからね。わたしも利用者の一人ってわけ」 言われてみれば確かに。 初見、他人が使ったような気配があったし、ルームサービスにしてもハンターの面倒見に慣れているような印象を受けた。 初対面の折、村長からそういった説明があったような気もする。 出されたゼンマイティーをすすりながら、女は軽く肩をすくめて見せた。 「ねえ、そのベルダーベルト、巻き方ヘンだよ?」 「うるさいな。難しいんだぞ、これ」 「それにしても、あの戦いっぷりはないわー」 「なっ、ま、まだその話を」 「モンスターとの戦い方を知らないでハンターになったやつなんて、見たことないしねー」 「うぐぉ……」 「完膚なきまでにボコボコだったニャ」 「お前まで」 「ていうか、なんで弓? 大人しく片手剣にしとけばよかったのに」 「……」 カッコいいと思ったんだよ、そう言いかけて、しかしカシワは口をもごもごさせた。言ったところで反論されるのは目に見えている。 不意に女が歩を進める。眼前で立ち止まり、フード越しに正面から見上げてくる。カシワは面食らった。 「あのさ。強そうだから、格好いいから、なんて理由で選んだなら、あんたそのうち死ぬよ」 「!」 暗色の布地の下から覗いた銀朱の瞳は、真剣だった。 「ハンター稼業は遊びじゃ出来ない。子供の憧憬で勝手に死なれたんじゃ、『龍歴院つき』の名が落ちる」 「……それ、警告か。向いてないから辞めろって?」 絞り出すような声のカシワに、女は小さく頭を振った。 白い生き物をそっと床に降ろす。もふもふのそれは、フェプ、と高めの声で女の足下にすり寄っていた。 そうは言ってない、雲羊鹿の幼体を撫でながら女はおもむろにフードを下ろす。柔らかな質感の天色の髪が、宙にほどけた。 「まさか。わたしだってそこまで言わない。狩りに慣れろ、慣れるまで調子に乗るな……ってこと。とりあえず」 「とりあえず?」 「うん。わたしと『採集ツアー』にでも行かない? ほらぁー、アイテムとかー、素材とかってー、旅支度にも大事だしー」 立ち上がった女は満面の笑み。きゃぴっ、とリンクと二人で女の子らしいポージングまでかましている。 ギャップ萌えからの一目惚れ! ……なんて展開は夢のまた夢。カシワはぽかん、とベルダーターバン片手に固まった。 とはいえ、先ほどの警告もまるっきりの嘘とは思えない。思わず強めにターバンを巻き付ける。 女は「クリノス」と名乗った。カシワより若干早く龍歴院つきになったという、れっきとしたハンターだった。 龍歴院正面庭園。通称「集会所」を経由し、飛行船に早々と乗り込んだ二人と一匹はほどなくして現地に降り立つ。 そもそも採集ツアーとは名の通り、自然下にあるフィールドにギルド公認で足を運び、現地の素材を採集していくクエストだ。 クエストという形式を取っているため、自然界との調和を乱さないまま調査が行える人気の調査活動にもなっている。 「よし、着いたー。ほら、もたもたしないで、さっさと行くよー」 「ちょ、ちょっと待てクリノス! 地図、地図は……」 「地図はこちらー。あ、あと携帯食料の支給はないから。腹が減ったら自力で調達してね、わたしは持ってきてるけど」 「なっ、なにぃ!?」 「採集ツアーはそういうシステムなの。ギルドも慈善事業で運営してるわけじゃないからね」 着いて早々、支給品ボックスやテントの使い方を笑われながら指導され、カシワは礼を言いつつも悔しげに歯噛みした。 ……クリノスの採集ツアーの目的地は、先日訪れたばかりの化石資源と草花が混在する狩り場、古代林だ。 広大な大地に、新鮮な水の流れ。人の背丈の倍もある巨大なシダ植物の群生に、気ままに行き交う草食モンスターたち。 訓練クエストで訪れた際となんら変わらない、雄大な自然が広がっていた。 エリア一を早々と抜け、クリノス、リンクがずんずん先に行く。後を追うようにして、カシワは湿った地面を蹴った。 エリア二、獣人族が暮らす小さな集落の前を横切る。アイルーを模したまん丸地蔵を見上げ、カシワは立ち止まった。 「どうしたの。わたし、ハチミツ欲しいから先行くよ?」 「いや、リンクって何者なんだ?」 「はあ?」 すっとんきょうな返答のクリノス。 なんだよ、とは表情だけで言い返し、カシワはやれやれといった風に肩をすくめたクリノスを見返した。 「リンクはオトモアイルーだよ。特別雇用で待機してたのを、わたしが新しく雇ったの」 「オトモ? 普通のアイルーとはまた違うのか」 「違うっていうか……わたしの、なんだろ、仲間であり、協力者だよ」 背後を振り向く先輩狩人につられ、エリア中央、分かれ道付近でメラルーに立ち向かうリンクを見やる。 彼は仕立ててもらったというオトモ武器片手に、カシワたちにも構わずハンター顔負けの大立ち回りを繰り広げていた。 「ていうか、オトモのこと知らないの。もしかしてネコ嬢さんに会ってない?」 「ネコ嬢? 誰だそれ」 「……」 がくりとうなだれるクリノス。わけが分からず、カシワは何だよ、と今度こそ小さく言葉を漏らした。 ふと、反射で腰の片手剣の柄を取る。クリノスの背後、リンクから逃れたメラルーが彼女に襲いかかろうとしていたのだ。 「……あのね、あんたさ――」 「クリノス!」 気付いていないのか!? カシワが叫ぶと同時に振り上げられた、肉球を埋め込んだ見知った鈍器。 しかし、クリノスがそれに殴打されることはなかった。カシワが剣を引き抜くより早く、杖は錐揉み回転しながら宙を舞う。 小気味いい音。背後から強襲されたメラルーは正面から倒れ込む。一方で、杖そのものはカシワの横に深々と突き刺さった。 唖然と立ち尽くす男をよそに、振り返らないままクリノスは満足げに頷き、手を挙げる。 「――ありがと、リンク」 「旦那さん。メラルーが帰ってくる前に、ここから離れた方がいいニャ」 危機を見ていたか、察したか。誰より早く駆けつけたのは、メラルーの群れに夢中になっていたはずのリンクだった。 「これで分かったでしょ。オトモ、便利だよ〜。頼りになるし、可愛いし。ね、リンク」 「ニャ。旦那さん、あんまり誉められると照れちゃうニャ〜」 ベルナ村の近くにあるという、オトモ雇用場、通称「オトモ広場」。ネコ嬢とは、そこに勤めている竜人族の少女だという。 会ってみれば、再度カシワにそう促し、クリノスは向き直ったリンクの頭装備ごしに彼を撫でた。 嬉しそうにしっぽを振る黄色アイルーと、同じく嬉しそうに微笑む雇用主。カシワは柄を握る手に力を込めた。 「? どうしたの、怖い顔して」 「……いや。それより、採集したいやつがあるんだろ。急ごう」 剣から手を離す。分かれ道のうち、カシワは左手側、エリア四へ足を向けた。 高く天まで伸びるシダ植物やイチョウの木々で、周囲はいっそう鬱蒼とした陰と湿り気を帯びている。 「なんなの、あいつ。アイルーにイヤな思い出でもあるのかな」 「ニャー? 旦那さん、ボクらも急ぐのニャ」 「うーん……うん、そうしよっか」 支給品頼りの新米であるカシワと違い、クリノスは装備スキルの関係上「地図」を必要としていない。 マップなら頭に入っている。余裕だね、にまりと笑い、一度髪をかき上げ、彼女は足取り軽くエリア四へと続いた。 「……そろそろ一通り見て回ったか」 木々に囲まれたエリア四での採集を終え、二人と一匹は切り立つ崖が周辺に影を落とすエリア七にやってきた。 天高くが吹き抜けになっており、さながら手作りの天窓のように、まばゆい光が絶え間なく降り注いでくる。 空は快晴。周辺には何らかの生き物の巣と思わしき卵の置かれたくぼみや、鉱石が採掘出来るポイントなどがあった。 「え? これからが本番でしょ?」 こんがり肉という心強い食料品の持ち込みを失念していたカシワをよそに、クリノスは純粋な眼を輝かせる。 ……否、純粋というよりは台詞の端々にわざとらしさが滲んでいた。カシワは微かに顔を歪める。 「お前、まだ回り足りないのか」 「何を! 採集ツアーだよ、来たからには時間いっぱい集めないと。あのね、クエストってなにかと入り用なんだよ?」 俺は腹が減ったよ、言わずにはおれたものの、思わずうなだれるカシワの背をクリノスがばしばしと叩く。 本人は激励しているつもりなのかもしれないが、かえってそれが切ない。一方、リンクは楽しそうにツタの葉をむしっていた。 あたりは静かだった。時折、遠くでケルビの鳴き声と駆け足が聞こえてくる程度で、他の気配は感じられない。 嘆息一つ。ピッケルで鉱石の塊をがしがし掘り始めた女をチラ見して、カシワは虫取り網を担いだ。 にが虫か雷光虫でも見つかればいいんだが、ささやかに祈りながら振りかぶったところで―― 「……なんだ?」 ――泉、巨大鉱石と巻貝の化石がみられるエリア三へとつながる、細い道。 そこからこちらに向かって、意気揚々と駆け込む影があった。 軽快なリズムと足踏み、頭部に生やした金の冠羽、赤皮と艶やかな緑の鱗に覆われた体。しなやかな棘つきの尻尾。 目が合うや否や、それはけたたましく天に向かって吠えた。その鳴き声に、カシワには鮮烈な記憶を蘇らせる。 見覚えがある、なんて生やさしい話ではない。 「……クリノス」 「なにー」 「クリノス」 「はいー」 「クリノス!!」 「もう! だから何、」 邪魔すんな、そう言いたげに応え、女狩人は一旦採掘の手を止めた。 振り返ればそこには奴がいる――彼女の前、トラウマ抱える我らが新米ハンターは体をわなつかせ固まっていた。 「あー、ドスマッカォだ」 「あー、じゃないだろ! どういう、」 カシワは二の句を飲み込む。尾棘を打ち鳴らし、ドスマッカォがその巨体で飛びかかってきたためだった。 双方飛び退き、カシワはエリア中央、クリノスは細道の端に着地する。 「そういえば、龍歴院の受付さんが『環境不安定』って言ってたかも」 「んなっ!? そ、それって」 のほほんと首を傾げるクリノスを前に、カシワは信じられないものを見るように目を剥いた。 「ほんとに乱入してくると思ってなかったから、アイテム持ち合わせ少ないなー。調合しようかな、もったいないかあ」 「お前、どういうつもり……」 「あ、ほら。カシワ。あんた狙いみたいだよ」 応酬は強制終了、ドスマッカォの体当たりを、新米狩人は辛うじて避ける。 ……環境不安定。その言葉そのものについては、ベルナ村の受付嬢の話で聞いたことがある。 手配されたクエストのうち、龍歴院やハンターズギルドも想定していない大型モンスターの「乱入」を差す専門用語だ。 討伐するも捕獲するも、あるいは乱入者そのものを無視するも、全てはクエストに挑むハンターらの自由。 もちろん、新米とはいえ自分も知識としては知っている。 しかし、カシワ自身はまだドスマッカォと一度だけ死闘を繰り広げただけだ。その他に大型と剣を交えた経験はない。 そもそもあれほど苦戦したのだ、心の準備もろくに出来ていない。内心焦るばかりだった。 一方、クリノスは乱入を把握していたのか、あるいは経験済みなのか。その表情は余裕に溢れている。 ドスマッカォがカシワめがけて一直線に突っ込んできたときも、彼女は素早く離れ、彼の立ち回りを傍観するばかりだった。 「――ッ!」 ドスマッカォの雄叫び。前転回避、今回は尾棘に当たらなかった。片手で地面を叩き、体勢を無理に立て直す。 空振りに苛立ち、吠える跳狗竜。向き直って、カシワはベルダーソードを引き抜いた。青い刃が光を反射し、鈍く輝く。 「クリノス、援護を――」 「おー、早速やる気かー。じゃっ、おデート、がんばって!」 「――って、はああ!?」 迎撃の構えを取ったカシワに対し、あくまでクリノスの声は明るく朗らか。 振り向いた新米狩人は、頼りになるはずだった先輩狩人が細道の向こうにじりじり後退していく姿を見た。 「言い忘れてたけどー、わたし、あんたに色々教えるために一緒に来たわけじゃないから!」 「!?」 「あんたはこういう時のための、オトリ? うーん、むしろ生け贄……じゃなかった、用心棒、ってやつだから!」 カシワは絶句。すでにリンクは雇用主の指示で、次なるエリアに移動し終えていたらしい。どこにも姿が見当たらない。 きゃぴっ、何度目かの女の子ポーズ。クリノスは実に気持ちのいい笑顔で、気軽な体で手を振った。 「わたしのアイテム集めのために、がんばれー。それに少しはいい訓練になるでしょ? じゃ!」 「ちょ、ちょっと待て! そんな話、聞いてな……」 「言ってないしね。それより、ほらほら。愛しのドスマッカォがお待ちかねだよ」 騙された――突撃してきたドスマッカォの巨体を避け、地面を転がりながら、カシワは声にならない声を上げた。 どうもおかしな話だと思ったのだ。 訓練を始めたばかりの新米に、集会所クエストを請け負おうと提案してきた、顔見知りでもなんでもない先輩狩人。 その真意は全てはったり、でまかせだった。 混乱、困惑、怒号、阿鼻叫喚。喚き散らそうにも来客がそれを許してくれない。カシワは強く歯噛みする。 (なんだ、『いい訓練』には違いないんだろうけどな!) 尾棘が頬をかすめる、刹那的な痛みが後ろに滑る。柄を握る手に力がこもった。 短く呼吸してみれば、頭が急速に冷えていくのを感じた。こうなったからには、やるしかない! 自分の中で何かが弾ける。 思考を無理やり、切り替える。片手剣を胴体真横につけ、新米は力強い一歩を踏み出した。 二度目の対峙。迎え撃つ来客は、再び天に向かって怒声を吠える。 |
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