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彼女は夏から秋にかけ、道の外れ、小さな背の背筋をしゃんと伸ばし ふと、夏の夕暮れに姿をみせる蛍らの灯りのように静かに佇んでいる。 わたしは気の利いた言葉も掛けられず、繊細としか言えないその美貌に ただただ息を呑むばかりであった。思えば、恋とも言えたのかもしれない。 彼女はわたしの声に気付くと音もなく顔を上げ 大変に柔らかそうな髪をふわりと揺らし 上品に、頭を下げるのだった。 物静かで控えめで、しかし気品があり、彼女はまさにわたしの理想だった。 丸い輪郭は夕日に照らされてか、或いはわたしの恋心がみせる幻か、 陽が傾くにつれ少しずつ紅を差し、色白の肌を濃く変容させていく。 抱きしめようと何度思えど、繊細な体を折るのは本意ではない。 また会えますか、わたしはそう問いかけるのが精々だった。 しかし、また会えますとも、彼女はそう言って微笑んだ。 それだけでわたしは、毎日が穏やかで幸せだった。 秋の暮れ、彼女が土の下にひっそり還ろうとも、 わたしはしとやかな恋人を想い続けるだろう。 (酔芙蓉) |
(C)Lis,wani/Confeito 撮影:18/10/09(wani) ・<前――回廊を出る――次>・ |