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ワルプルギスの夜 今は昔、遠い異国のとある領地に、ある古びた屋敷が建っておりました。 その屋敷にはかつて、天才と称されし鬼才の学者が暮らしていましたが、 彼もまた人の仔。彼が天寿を全うすると、屋敷は無人の廃墟と化しました。 彼は屋敷の中に、彼が生前築き上げた山のような遺産を遺していました。 ありとあらゆる知識を記した書物、高純度の鉱石、未知の植物、学術録。 噂を聞きつけた他国の者達は、こぞって屋敷への侵入を試みましたが、 不思議な事に、誰一人として宝物を持ち出す事は叶いませんでした。 それどころか、屋敷に入った者は誰も生きて帰らなかったのです。 ……ところで、彼は生前一匹だけ雌の猫を飼っていました。 彼には臣下がいましたが、友達は一人も居ませんでした。 彼はその猫に自分の名前の一部をこっそりと分け与え、 目に入れても痛くない、というほどに可愛がりました。 彼女は賢い猫でした。 一緒にいる時、彼女は彼に鳴いて本を読むようせがみます。 彼は大喜びで、彼女に本の中身を聞かせ、教え説きました。 彼女は本が一冊読み終わる度、嬉しそうな声を上げました。 彼も彼女も、一緒に学ぶ時間をとても大切にしていました。 二人はどんな時でも一緒で、幸せに暮らしていたのです。 ……彼が死んでしまったあとも、彼女はまだ屋敷に残っていました。 彼の遺体に一枚一枚、丁寧に花びらや葉っぱを重ね、弔いました。 彼女は彼の死を悲しみました、胸の痛みはまったく収まりません。 やがて臣下が一人また一人と、屋敷を静かに去って行った後も、 彼女はたったひとりで、彼の眠りが安らかであるよう祈りました。 何十年、何百年もの月日が経ちました。屋敷はついに、木々と蔓で覆われてしまいました。 誰もが屋敷を、彼の存在を忘れてしまった頃、屋敷の外灯にふと灯がひとつ、点きました。 その微かな灯火は次から次へと増えていき、やがて、屋敷全体を美しく照らし出しました。 誰かが灯をつけて、屋敷がまだ“生きている”事を領民達に知らせようとしていたのです。 果たしてその灯を点していたのは、あの、彼と共に日々を過ごした“彼女”でありました。 彼女は彼から膨大な知恵を得て、鉱石や草花達の魔力に囲まれて生きているうちに、 ついには長寿の猫たる象徴、二つ尾を持つ生命、即ち猫又へと変貌していたのです。 ヒトの言葉を話し、理解し、魔力を味方につけた賢い彼女は、後に人々に魔女と称されるようになりました。 彼女は彼が遺した貴重な遺産や屋敷、臣下らが守っていた隠された鉱脈、庭園を受け継いでいたのです。 ある晩、彼女はふと空を仰ぎました。 その日はとても美しい、穏やかな月夜でした。 彼女は庭園を歩き、貴重な花を籠に集めました。 「ワルプルギスの夜」。 それは古来より、雪が解ける季節に決められた一夜、 魔女達がMt.Brockenに集い、悪魔と親交を交わす日です。 春を祝う大切なお祭りだと、彼女は彼の形見を身に着けました。 足取り軽く、彼女は花籠を携え、社交場へと飛び出して行きました。 |
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イラスト投稿SNS・PIXIVのオリジナル作品企画【魔女の花籠祭り】に参加させて頂きました (わにpixiv撤退済み/該当企画配信終了) 有難う御座いました、とても楽しく描かせて頂きました。他の作者様方の絵も、とても素敵な作品ばかりでした 魔女、猫、鉱石と、好きなものを好きなだけ詰めました。花は全て、当夜に相応しい「4〜5月」のものを揃えています |
(C)Lis,wani/Confeito UP:11/05/02(wani) ・<前――回廊を出る――次>・ |