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君を思いて、君を想う(楽園のおはなし0章SS)


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(愛しいあの日)


-白亜の宮殿 庭園にて-


「ウリエル様、こちらをどうぞ」
「なんだいニゲラ、綺麗にラッピングしてあるね。開けても?」
「はい! 今日は人の世界では”バレンタインデー”なんだそうです」
「バレンタイン?」
「はい、女性が好きな男性にチョコレートを渡して、想いを伝える日だそうです」
「なるほど……」

「”好きな男性”ねぇ?」
「ひゃあ! サラカエル様!? 背後から耳元で喋らないでください、と、あれほど毎回!!」
「ふぅーん、”好きな”男性ねぇ??」
「!?」
「ふぅーん?」
「べっ、別に他意なんてありません! サラカエル様の分もありますし、畏れ多いですけどヘラ様の分もあります!
 人の世界では友チョコとか色々ありますし! 色々…っ! お、お配りしてきますぅ!!」
「あーあ、行っちゃった。つまらないなあ」

「なんて事をしてくれたんだサラカエル」
「なんだい? ウリエル」
「彼女の照れた顔を見たのは君じゃないか」
「……そうだねえ」
「僕の方を向いていてくれればよかったのに……」
「……」
「まあ、どうせすぐ戻ってくるだろうから、お茶でも淹れて待っていよう」

「やれやれ。その気持ちに気付いてるのかそうでないのか……もどかしいなあ」



(貴女だけに 輝く星に似た宝石を)


「年頃の女性が喜ぶ品といえば、やはり菓子類かな。サラカエル」
「……大体、君が何を言わんとしているかは予想出来るけど。何が知りたいんだい? ウリエル」
「いやね、今日は『恋人達の日』から数えて、三十の陽の巡り……対に当たる日だそうじゃないか」
「ああ、『ホワイトデー』の事だね」
「そう、それさ。それで、考えてみてはいたのだがね……『白いもの』を何にするか、決めかねていたんだよ」
「え? 白いもの?」
「ホワイトデーだろ? 長い事、天使をやっているといけないものだね。ヒトの世に関わる知識がさっぱりさ」
「……、いや、いや。いやね、ウリエル、」
「ひとまずは、いくつか候補は用意してみたのだがね」
「はあ……ま、ちょうどヘラ様も会議で居られないからね、暇つぶしがてらに見てあげるよ」

〜純白の羊毛〜

「編み物でもさせる気なの? それこそ『彼女』の負担、増やすんじゃない?」
「そうか、それもそうだね。そこまで考えが及ばなかったよ」
「(この時点で、『お返しの相手』が誰なのか僕に気取られているとは気が付かないもんなんだなあ)」

〜ホワイトローズの花束〜

「薔薇……何か違うと思うよ?」
「何かとは何だい?」
「(本気で言ってるのかな、この子)」
「サラカエル?」
「薔薇はアフロディーテ様のシンボルだろ? この神殿に仕える従者に手渡す花としては、ね」
「ふむ、となると、他の……白木蓮や霞草でも、用いるべきだったかな」
「ま、香りも強過ぎるかもしれないね。庭園管理の際には、鼻が利きにくくなるのも考え物じゃないのかな」

〜牛乳十リッター〜

「……」
「……サラカエル?」
「健康的だけど、何かが根本的に間違ってると思うよ?」
「それはさっきも聞いたと思ったが」
「彼女、裕福層ではない農家の育ちだよね。羊毛も採る事が出来るからって、羊乳の方が馴染み深いと思うよ」
「ふむ、一理あるものだね。なら、牛乳から羊乳に変えたら問題ないかな」
「……」
「……サラカエル?」
「いや、うん。『ウリエル様! 買い出しなら、わたしが行きますから』って怒られて終わりだろうね」
「……、それは困るな。なら、これは止めておこう」
(端から『特別な女性へのプレゼント』に選ぶには、微妙なものばっかりなんだけどね)

〜御豆腐ぶりんぶりん〜

「弾力性強いね」
「うん、職人の手作りの品さ。調理法も多いそうだから、ニゲラも喜ぶのではないかと思ってね」
「調理する、っていう負担が増えるだけだと思うけど?」
「問題ないよ、僕が調理するとしよう」
「っ!?」
「確か、薄くスライスして焼いたり、潰して前菜や汁物に混ぜても良い、と本にはあったかな」
「(ウリエル……君、確か料理だけは、とても下手だったと思ったんだけど)」
「サラカエル?」
「いや、もう好きにしたらいいんじゃないかな……」

……

「ニゲラ」
「ウリエル様! おはよう御座いますっ」
「おはよう。朝から仕事熱心なものだね」
「はいっ。早起きしないと、ウリエル様やノクト様にわたしのお仕事、取られちゃいますから」
「うん? それは困りものだね」
「もうー……」
「そうだ。以前、貰ったカカオ菓子の礼の品なんだがね。受け取って貰えるかな」
「えっ、う、ウリエル様!? そんな、お気を遣わなくとも……」
「僕が君に渡したかったから、これを用意したんだ。受け取ってくれたまえよ」
「……、有難う御座います。開けてみても、いいですか」
「勿論さ」

〜乳白色/迷迭香の香水瓶〜

「……」
「ニゲラ? その、気に入らなかったかな。君はこういう、キラキラしたものが好きだと聞いたのだが」
「……っ、いえ、いいえ! とっても……とても嬉しいです」
「! そうか、そうか……それなら用意した甲斐もあったというものだよ。有難う」
「はい。本当に……有難う御座います、ウリエル様」

「――いいのか、出て行かなくて? お前も『彼女』に、お返しを用意していたんだろう?」
「用意といっても形ばかりですよ、ヘラ様。ま、ウリエルが悲しい思いをしなかったら、それだけで十分です」
「ふむ? お前もウリエルも、やはり『対天使』だな」
「? どういう意味です?」
「ふふ、さあな。さて、私もニゲラにお返しの焼き菓子を食わせてやるとしよう」
「渡してやる、ではないんですね。そもそも、貴女様がそこまでしてやる義理はないと思いますが」
「ふふ。私を誰だと思ってる、サラカエル。さっ、行くぞ。ウリエルの邪魔された顔を拝んでやらないとな!」
「嫌だなあ、ノリノリなんだから、この女神(ひと)」




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 UP:14/02/14 + 14/03/15