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ある二人の時間(楽園のおはなし3章SS)


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「……寝心地は、いかがですか?」

天蓋付きのベッドに座り太腿を枕代わりにされ、居た堪れなくなった夜色の髪の男がその主に問う。

「良くは、ない」

当たり前だ、とは音にしないが、それなりの筋肉がある事は自覚しているし女性のような柔らかさがあるわけでもない太腿が、
寝心地がいいはずもない。逆ならば男としては嬉しいはずのその行為が、今はただただ羞恥心を煽る。

「そろそろ、どいて頂けると有難いのですが…?」

無理矢理どかせるわけにもいかず、男は頭の主に請うしかない。

「お前がウリエル達の"膝枕"とやらを羨ましそうに眺めていたから、協力してやったのに……」
「逆でしたよね? と言うか! 羨ましがってなんていませんよ!」

少し取り乱し語気を強めて抗議する男をよそに、瞼を閉じたまま口元には弧を描き、その主は動こうとはしない。

「まったく……貴女という方は、本当に……」

呆れ溜息をつくも、その声色に棘はない。
諦め大人しくしてみせるが、無理に反抗できないのは主従関係によるものか、言葉に出来ない感情のせいなのか。
やり場のない手を彷徨わせ、ふとその女(ひと)に視線を落とす。
栗色の髪にそっと手を伸ばすが、触れる前に手を止める。

「……っ、あのですね、足が痺れてきているのですが?」
「気のせいだろう?」

名を呼びかけ思いとどまり、いい加減どいて欲しい事を頼むも、その願いはあえなく却下された。
その主の名を呼べば、嫌でも自分との関係を思い知らされる。
と同時に、今は違えど、このひとは以前に他の男のものだったと、それも思い知らされた。
それでも、他の目の届かない二人きりの時だけでも、主従関係を忘れたくなる。
夜色の髪の男の隠しきれない感情が滲み出ていた。
己の対の存在を見ていると、その感情はことさら大きくなる。

「−っ」

それを堪え、いよいよ強めに出ようと名を呼びかけたとき、その音を遮るように彼女の細い人差し指が男の唇に押し当てられた。

「ユノ」

いつの間にか瞼を開け、その黒い瞳が男を見つめていた。

「あの島で、“ドラゴン達だけ”が私をそう呼んでいた」

懐かしそうに瞳を細め、彼女が養育を受けていた島での生活を話し始める。
彼女の話は、彼女を養育した師の事よりも、島に住み着いていた二匹の古のドラゴンの話が多かった。
銅(あか)と藍(あお)、性格がまったく違って、自分とその対のようだったと。
嬉しそうに、普段は見せない表情で話す彼女を見て、男はその二匹のドラゴンにさえも嫉妬を覚える。
自分に対してもそうあって欲しいと、彼女に対する欲が、尽きるどころか増す一方だった。
ドラゴン達だけが呼んでいた。
それを話したということは、自分もそう呼ぶことを許されたのではないか、男はそう解釈する。

「…ユノ」

気付かず口走っていたのか、じっと見つめてくる彼女を見て男ははっとした。
訂正しようとするも、焦れば焦るほど言葉が出てこない。
いつもの男からは考えらないことだ。
彼女の前では、冷静に平静を保っていられない。それが、歯痒くも感じる。

「うん?」

そんな男の感情を知ってか知らないでか、女は頬を指でなぞりふわりと返事をする。
一瞬、頬を紅潮させすぐに持ち直し、男は彼女に抗議する。

「あの、どいて…欲しいんだけど」

さっきまでの謙った態度ではなく、対等であるかのように見せるがどこか視線は泳いでいる。
そんな男の様子が可笑しくて、自然と笑いが込み上げてくる。

「いやだ」

意地悪く、それでもどこか無邪気さを残し、女はやわらかく笑って言った。

「結局どかないんじゃないですか!」

まったく貴女は、喉の奥でぼやき、結局はいつもの関係に戻る。
それが二人にとっては何よりも愛おしいのかもしれない。


女は再び瞼を閉じ、口は弧を描く。
男のやり場のない彷徨う手は、彼女の栗色の髪を優しく梳いていた。




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 UP:19/03/30-ReUP:19/03/31