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ある天使の見た光景(楽園のおはなし0章SS) TOP |
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私がお仕えする女神様は、身の回りの世話係の下級天使の私達にも、とても良くして下さる方でした。 新しいもの、楽しいことが大好きな方、それはそれは全ての女神の中で一番美しい女神様でした。 それでも気取ることなく分け隔てなく平等で、古きよきものを大事になさり、周りの神様たちが騎獣をペガサスや天馬、 竜等の見栄えの良い格好の良い方へと変えて行く中彼女だけはグリフォンを選んでおられました。 そして、グリフォン達の事を考え、他の騎獣は置いていませんでした。 女神様は、宮ですれ違う者に必ず声を掛けて下さります。 もちろん、私達のような下級天使にも嫌な顔一つせず、どんなに大勢が居たとしても必ず一人一人に。 私はそんな女神様が大好きで、お仕えしている事をとても誇りに思っています。 女神様には伴侶の神様がいらっしゃいますが、私は正直を言うと彼は少し苦手でした。 今の人間達の言葉を借りるなら、神様たちの世界は一夫多妻で、彼も例外ではありません。 いくら女神様を一番愛していると仰っていても、彼はいつも違う女性のもとにいて女神様と一緒のところを見ることは、 ほとんどありませんでした。 女神様は、植物が息吹き始める頃に、カナトスの泉で水浴びをなさいます。 一年分の穢れが洗い流され、いつまでも若く美しくいるのです。 その時ばかりは彼も女神様の傍にいました。 やはり、私は彼が好きではありませんでした。 女神様の右側にはいつも、上級の智天使様がお付になっていました。 その方はいつ何時、何が起ころうとも彼女の傍から決して離れませんでした。 女神様もその天使様と一緒の時は、見たこともないような花が咲いたようにほころんでいました。 私はその二人が並んでいる姿がとても好きでした。 女神様と神様以上に、女神様と智天使様の間には誰も割って入れない、そんな何かがあったのだと思います。 絆とか、愛とか、そんな言葉では言い表せない何かが。 ずっと、永遠にその時間が続くのだとばかり、私はそう思っていました。 「お前は、この時間、この瞬間を退屈だとは思わないか?」 「え!? とんでもありません。私は、こうして女神様にお使え出来ている事が何よりの幸せです! 退屈などと……」 「……そうか」 瞳をふせ微笑んでいらっしゃいました。 私の言葉をどう思ったのか、当時の私も、今の私も、知ることは出来ないのだと思います。 あの時は、女神様、智天使様に言われるまま、隠れているので精一杯でした。 誰にも見つからないように、遠くから願うだけのそんな存在だったのです。 「私は、もっと早くにお前と知り合いたかった」 「……っそんな事よりも、何故まだここに居るのです!」 「今更、何処へ行こうと同じ事。だったら、ここでいいだろう?」 「ここは私が引き止めます。どうぞお逃げ下さい。少しでも遠くへ!」 「お前はこんな時にでも跪くのだな……」 女の両手が目の前で跪く男の頬を包み込む。 そのくすぐったさに男は顔を上げた。 「やつがそうだったんだ、最後くらい、私だって赦されるだろう」 そう哀しく微笑み、女もまた男の前に膝を付き、そっと唇を寄せた。 不意を取られ、男は大きく目を見開く。 「そんなに私に逃げて欲しいのなら、こんな時くらい男らしく『俺の言う事を聞いて逃げろ』くらい言えばいい」 照れくさそうに、意地でも逃げないと言わんばかりに、女は意地悪く笑う。 「貴女は……っ」 男の手が、女の胸倉を掴んだ。 強引に引き寄せると、さっきとは違い乱暴に女に口付ける。 今度は女が不意を付かれ目を見開いた。 名残惜しそうに唇を離し額を合わせ、男は擦れた声で切なそうに言う。 「俺が守る……だから、君は逃げろ!」 「やはり、もっと早く知り合いたかった。私は、お前とずっと一緒にいたかったよ」 再び女の手が、男の頬を包む。 閉じられたままの瞳から、透明な雫が零れ落ちていた。 「お前と夫婦になれたなら……それでも親友で、対等で、肩を並べて居たかった」 「逃げるんだ……部下としてじゃない、俺が言うんだ。逃げろ!」 男は女を掴み止めていた手を離すと、その細い身体を突き飛ばした。 「アンバー!!」 「!?」 床に倒れそうになった瞬間、女の身体は宙に浮く。 崩れた柱の陰から出てきた、少し小さめのグリフォンに咥えられ、すぐに崩れ落ち空を覗かせていた天から外へ飛び立った。 お互いの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても暫くその方向から目を離せないでいた。 その後の男女の行方は知られていない。再会できたのかどうかも定かではない。 私は、願わずには祈れずにはいられません。 女神様と智天使様が、今この瞬間のどこかで肩を寄せ合い幸せであるようにと。 神様の事を、神に祈るのは滑稽かもしれないけれど、それでも何かに縋り祈りたいのです。 どうか、二人がずっと一緒に笑っていられますように…… |
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TOP UP:13/03/01 |