取扱説明書  ▼「読み物」  イラスト展示場  小話と生態  トップ頁  サイト入口



おでんが美味しい季節(楽園のおはなし2章SS)


 TOP 




「土鍋」と呼ばれるアイテムを御存知だろうか。
所謂調理器具の一種だが、原料は土や粘土で、運搬しやすいように鍋の縁に取っ手が付いている。
熱伝導を極限まで引き上げた構造で、一見は洒落っ気もない素朴な風貌だ。
世には様々な趣向や工夫を凝らした、見た目も美しい優れた調理器具が多数存在している。
しかし、冬と言えば「これ」なのだとヒトは言って譲らない。
野菜や肉類、魚貝類や茸などを敷き詰め、火を掛ければ……冷える季節に相応しい極上の料理が出来上がる。
火に掛けたまま食を進めるので、次から次へと材料を足しても熱の通りは均一だ。おまけにいい出汁も出る。
この出汁がヒトを魅了して止まないらしい。全ての具を煮終えても、彼らは米や小麦を練ったものを加えては
「締め」と称して楽しむ。その食欲に底はないのかと、つくづく疑問を抱かずにいられない。

「……サラカエル、君も遠慮しないでお上がりよ」

向かいには鍋を挟んで僕の半身が奇妙な着膨れのする羽織物にくるまっていた。聞けば寒いのが苦手らしい。
同じく、鍋の周辺には今の彼の家族、友人が腰を下ろし、具材が煮えるのを今か今かと待ち詫びている。

「僕の事は気にしないで、君達だけで食べてしまいなよ」
「ふうん、相変わらず付き合いが悪いわね」
「真珠ー? おサルにだって都合があるんだから、無理強いしちゃ駄目だよ」
「サルは余計だね」

白髪の騎獣の少女が突っかかってくるのはいつもの事なので、その切り返しにも慣れてしまった。
彼女を宥める中性的な青年が苦笑を浮かべる。見れば、僕だけでなく僕の半身も彼に視線を注いでいた。
これもいつもの事。
彼は僕達の唯一の理解者で、空色の髪は彼の気質を象徴するかのようにいつでもふわふわと揺れている。

「ん〜。そろそろ煮えた頃かもねぇ」
「待て、水菜がまだだ」
「も〜、ケツは細かいとこ気にし過ぎなんだよー。もういーよ、はい食べよ食べよ」
「おいコラ待て蓋を取るな葱も生だ」

白髪の青年と黒髪の女性。彼らの攻防戦はいつでも雌の魔獣方が勝利を収める。惚れた弱みかもしれない。
否、それ以前に青年――白塗りの一角獣――の方は早くも彼女の尻に敷かれているのか。
具を取り分ける伴侶を前に何か言いたげに歯噛みしている様を見ていると、思わず同情してしまう。

さて、いざ実食……と思ったその時、突然部屋の灯りが消えた。

「ん? なに? なんで消えたの?」
「俺が知るか」
「ニゼル、悪いが君の後ろにランプがあるから」
「あ、うん。えーと……ああ、あったあった。はい、藍夜」



「――駄目〜! 点けないでっ!!」



皆を制止したのは聞き慣れた青年の声だった。俄かに場がどよめく。
この集団の問題児であり、先ほどまで自室に謹慎処分を食らわされていた騎獣、珊瑚。真珠の弟に当たるが、
彼は双子の姉に比べて落ち着きがなく、その上たびたび意図的に行う悪戯が常識の範囲を越えていた。
そもそも彼が夕食抜きとされたのだって、鍋に余計なものを入れようとしたからで――

「……さて、僕は烏の行水でもしてこようかな」
「!? サラカエル!」

――半身の引き止めも聞こえない振りをして、僕は足早に居間を去った。刹那、背後から響き渡る阿鼻叫喚。
匂いが酷い。恐らく闇に乗じて薔薇などの香りの強い花や飴玉、チョコレートでもブチ込んだのに違いない。
半身には少しだけ同情する。けれど僕は彼らにそこまで興味関心があるわけではない。

(好きにすればいいさ。ま、たまにはこうも騒がしいのも悪くはないかな)




 TOP 
 UP:13/10/17-ReUP:17/09/115