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ある男の独白(楽園のおはなし1章SS) TOP |
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(ノクト、若しくはナハト、ノッテ) 名前は「夜」だ。誰が付けたかは定かじゃない、親の顔もろくに覚えちゃいない。 気が付いた時にゃ荒野に独りきり。物心付く頃にゃテメェの能力の使い方にも気付くってもんだ。 生きるのに必死だった。 神獣だ騎獣だなんて言われているが、神々の楽園に住まう獣どもの真の獰猛さを人間は分かっちゃいない。 奴ら、知恵があるだけそんじょそこらの魔物なんぞよりも質が悪い。 群れで襲ってくるなら可愛い方で、中には天使や人間に擬態する奴、罠を仕掛けやがる奴もいた。 俺だって連中に喰われたかねぇから戦ったさ。野放しの神獣なんて本当にろくでもねぇよ。 生きるので精一杯だった。 俺は運良く「対天使」として生まれたわけじゃなかった。一人でも気楽に過ごせた。 連中はそうじゃねぇんだろうな。どこに行くにも対と一緒、どこにいても考え事さえ筒抜け……拷問だろ。 それが連中の特性なんだからしようがねぇんだろうが、実際自分が対天使になってみろ。 毎日毎日相方と顔突き合わせてベタベタしてなきゃいけねぇんだ、息抜きだって出来ねぇだろうさ。 お偉いさん方は生態解明だとか躍起になってるが滑稽で見てらんねぇ。俺だったら一日も耐えられねぇな。 生きるのを諦めかけた事もある。 ただ、俺にも幾つか転機があった。あのクソエロ大神に気に入れられて、天上宮に仕える事になったりな。 毎日クソみてぇにこき使われて、やれ酒を運べだの酔った神を介抱しろだの言われたさ。骨が折れた。 そんな時、奴に声を掛けられた。大神のお気に入り、唯一頭が上がらない彼の女神様さ。 千載一遇の機会だった。「あの方」の計画が半端なタイミングで、向こうから檻の中に来てくれたわけだ。 時期尚早ではあった。だがこの機をみすみす逃すわけにもいかない。 目を光らせる対天使の警戒をかい潜り、俺はまんまと奴の宮に入り込む事に成功した。口達者で良かった。 まあそこであいつに再会したのは予想外だった。「あの方」は何も言及しなかったしな…… 思えばそれこそが「あの方」の思惑だったようにも見える。でなけりゃ何もかもタイミングが良過ぎた。 嵌められたと一瞬考え、それでも「あの方」を信じようと刹那に決めた。 奴は俺にあいつを婚約候補として紹介してきた。あいつとは仕事仲間だ、笑えない話だ。 俺は「あの方」の真意も明かされないまま初対面を装った。はにかむのには苦労した。 あいつも笑ってたよ。俺に合わせてなのか、「あの方」にそう言われたのか、空気を読んだのか分からんが。 そしてそれが、俺にとって全ての過ちの始まりだった。止めときゃ良かったんだ、何もかも…… 生きようと思えた。 俺とあいつは相談して恋人のふりをする事にした。「あの方」はあの頃から不在である事が多かった。 指示の受けようもなかったから、当たり障りなく接したさ。そのうち宮の連中とも親しくなった。 獣どもは鼻が利くのか、生まれたてのガキを除いて全部が俺に敵意を剥いてたがな。 俺は、昔から土いじりが得意で――女神に言われて、興味本位で宮の薔薇園の面倒だって見てやった。 新しい品種を造ってやったのだって、ただの気まぐれだ。どいつもこいつも呑気に喜びやがって。 あいつも……なんだかんだ花が好きで、俺が手入れした花が好きだと、そう笑って…… いつまでこんな茶番を続けりゃいい。気が付いた時には、宮に通うのがほぼ当たり前になっていた。 生き延びてやると、そう決めた。 あいつはいつだって笑っていた。神々の世界が終焉を迎え、「あの方」と連絡が取れなくなった日でさえも。 逃げ落ちた俺の手を取って、自分が命じられていた事を俺にぬけぬけと告白した。 そうして最後の最期に、俺にそれを願い出た。俺の能力を知っていたから、最初から決めていた事だからと。 最初から最期まで。終わりを迎えるその瞬間まで、あいつはいつだって…… 「あの方」はその刹那になってもなお、俺に別の使命を与えては下さらなかった。やるしかなかった。 それこそが、やはり俺にとって人生最大級の過ちであるのに違いなかったんだ。 約束をした。 薔薇を、俺が育て、新たに生み出した蒼薔薇で目一杯、その肢体全て被ってやると。 いつしか俺達の茶番は真実になっていた。 だから俺は、俺だけは…… 「アナタが生きている。その事実こそが罪ですの」 「知ってるさ」 「……アンジェリカは本当にそれしか願わなかったって言うのか。違う、お前の幸を未来に託したんだよ!」 「どこに、何の為に? あいつはもうどこにも居ない。テメェが一番よく知ってる事だろ」 「そうだけど!」 「今一度、【夜】の帳が堕ちますの。太古の意志のまま……さようなら、夜の子供たち」 いつか、いつか遠い未来に。来るべき終焉の果てに。 せめてお前にだけは、ありとあらゆる幸が流星の煌めきが如く降り注がん事を。 |
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TOP UP:13/09/20 |