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ある天使と悪魔(楽園のおはなし0章SS) TOP |
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(大いなる叡智) (永続たる生命) (類似にて相対) (神とヒトとを分かつもの) 熟れたる果実は甘いもの。其は誘惑せし者。手を施さずとも鈴生りと化し、アナタの頭上に降るでしょう。 揺れる揺れる、真っ赤なリボン。ブルーに黄緑ひらひらドレス。髪とお揃いイエローハット。空中ダンス、踵でターン。 今もとても御機嫌なの。 鼻歌片手に今宵、殿方たる皆々様の夢に千夜一夜の物語を囁きましょう。 震え上がる受肉の願望、柔軟な肢体による一夜限りの魔性をアナタへと。 (神は仰られた) (ヒトの仔等に告げよと) (神の英雄たれ) (神はわたくしの御力となった) 満月の夜、わたくしは数多の祝福を受けし百合を抱き、聖なる使命を背負いて地に堕つる。 預言者、無垢なる処女に幾つかの告知を成し、天より賜りし恵みを羽根の先端より与える。 見よ、今や紺碧の海はわたくしの御躰を浄め上げ、神より授かりし翼に黄金の光を宿した。 御手を翳し、青玉の瞳にて世を見据え、何時しか地に蔓延るのみとなったヒトを救済せん。 大いなる恵みは黒き装飾を纏った書となりて、暗礁たる未来を照らした。 永続たる誉れは欲深く罪深い穢れを具現化し、過去の過ちを正せと宣う。 なれば混沌たるこの現に於いて我等選ばれし者が成すべき事はただ一つ。 (あたしはアナタ) (汝はわたくし) (闇と光) (過ちたる正義) (類似にして相対) 「それでは逆に。じゃじゃん、問題です! 望みを叶える為にアナタは幾つの犠牲を払ったでしょ〜か!」 「知らないですの、知らないですの、アスターにはどうする事も出来ませんの……」 「うふっ、ブッブー! 時間切れでーす。正解は〜……『無限』。欲深い『父』の素質を継いだが為に」 「お前は……君は本当に、何者なんだい」 「愚かにも堕つる者、我が嘗ての同朋よ。其を見極められぬ事が、汝の罪だ」 ■エノク書 第一頁(black box) ・ガブリエル 黄の髪に青の瞳。幾重にも折り重なるようにして形成される翼を所有する偉大な「告知天使」。 ヒトの世に預言者を選定し、神の御言葉を与えこれを在るべき姿へ導く。 一説によれば天使にしては異例の女性体とされる。 百合、オリーブ、杖、槍、また魔術的儀式に於いては、月、西、青色を象徴する。 ・リリス 詳細不明。ヒトを見下し、天使はおろか神にさえ仇なす存在。女性体であるとされている。 セフィロトの樹に於いては、シェルの一体として「サンダルフォン」と対立する。 (誰が為に書は開かれたのか) 「好きでもない男と体を重ねて子を成さなければならないのと、 好いてはいけない男を気付かれないよう密かに想い続けるの、 どちらがより悲惨かしら?」 幹ひとつ挟んだ向かい。あまりにストレートな物言いに返事が出来なかった。 真紅の瞳は虚ろと呼ぶのに相応しい半開きで、横顔だけでは真意を推し量る事は難しい。 黄色の髪はうなじのあたりで一度二つに分けられ、こめかみより少し後ろ上で結わえてあった。 (樹に蓄積された情報によればツインテールという型らしい) 「……どうしてそんな質問をするの?」 「さあ。なんとなく」 長い髪の毛先を弄る白魚の指。彼女は生まれつき非常に恵まれた容姿をしていた。 古代の「美」を司る神々は複数あれど、彼女の造形美はそれらとはまた異なっているように思える。 名の由来は「百合」。背はそう高くなく、体つきは細過ぎず太過ぎず。肉欲を誘うものとしてはちょうど良いほど。 夫としてあてがわれた彼女の対存在は、彼女の肉体に夢中になる事はあっても彼女自身への関心は薄いようだと、 神々が影で噂するのを聞いた。 別に生み出された、もう一人の女と共にある方が多いのだと。 肉体か精神か。愛情か友愛か。どちらを取るにせよ、彼の真意など女の自分には理解出来る筈がない。 それ故か定かでないが、彼女は時折こうしてこちらを試すような質問を投げてくる。 回答は期待していないのか、答え合わせに至る事は滅多にない。 「うふっ、単なる暇潰しよ。天使様には分からないかもしれない愚問というやつ」 樹の周りを半分ゆっくり回って、眼前に立つ。 真紅の瞳。「生命と秩序」を司る、神に等しい力を有する天使が操る業火の色にそっくりだ。 見透かしたような視線は明らかに落胆と嘲笑を混ぜ合わせていて、正面から見据えられると酷く心地が悪い。 頭上からさらさらと木漏れ日が降る。ふと互いに沈黙してそれを仰いだ。 銀の輝きは陽光の中でいっそう神々しく、些細な摩擦など忘れてしまう。 「アダムとイブが林檎に興味を示しているわ。食べちゃいけないのにね。ねえ、どう対応するつもり?」 「……」 話は強引に戻される。 樹、銀の光を宿した林檎の木。「わたし」が管轄する神々の至宝。あらゆる「知恵」を閉じ込めた神聖なる果樹。 「どうするもないわ。これまで通り、彼等の接触を阻むだけ」 「ふぅん、そう」 「何が言いたいの、リリス」 彼女はいよいよ哄笑した。 何時でもそうだ。核心に近付くほど、本心に迫るほどに、彼女は何度でもそれらを笑顔で封じてしまう。 「言ってくれなければ何も分からないわ。わたしたち、友達でしょう」 「ともだち、友達ね。うふっ。そうね、でも友達だからってアナタがあたしの全てを理解出来るとは思えない」 「そんなの……そんなの、当たり前だわ」 「ええ。だからあたしは今もこれからも、アナタにも自分にも期待しない。安心して、ラグエル」 わたしたちは互いに「知恵」を持つ。 樹の恩恵を与え、与えられし存在だから。彼女が知恵を有するのは―― 「アナタから言い出したのよ。あたしの友達になりたい、って。可哀想に、莫迦な事したわね」 ――わたしが彼女に白銀の実りを手渡したから…… 貴女の目が何時だって悲しみの色を帯びていたから。わたしは、ただそこに隠された事実を知りたかった。 それを重んじてはいけないの? 聞いたところで返される言葉は想像がついている。それでもこの楽園に彼女の居場所が少しでも増えるなら。 それだけで……似て異なる、けれどどこか対照的な「想い」に焦がれるわたしたちであったから。 傷の舐め合いになろうとも、最期まで分かり合えなくても、一時的でも、それだけで。 「けどね。ほんとうは、嬉しかった事に偽りないのよ」 どちらが悲惨か。 どちらが喜劇か。 今となっては、全ては書の内側に閉ざされたまま…… (時は流れ逝く) 「ねえ、ニゼル! あたしたち、友達よねえ」 「友達だったら友達の嫌がる事はしないほーがいーと思いまーす……もう、早く帰れよお前……」 「いーやーよー。うふふっ、ニゼルはあたしのお気に入りですもの。何時だって会いに来ちゃうんだから」 「おや、またニゼルにちょっかいをかけに来たのかい。懲りないものだね」 「あらぁ、ウリエル! うふっ、そうよー。アナタだけのものじゃない、ってこーと!」 「へえ。それは君、いい度胸をしているものだね」 「もー……勘弁してよー!!」 (何時だって伝えたい事は伝えられないまま) (後悔に至るまでの路はあまりに容易いまま) (祈りの果て……) (……赤色天邪鬼) (空色の髪の乙女に、今日も「悪意の化身」、赤瞳のアクマがしつこくまとわりついている) |
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