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ある魔獣の独白(楽園のおはなし1章SS) TOP |
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(琥珀) 黄金で出来たキラキラ輝く園。純銀で着飾った五重の神殿。 愚者の黄金を散りばめて、硝子の破片を敷き詰めて眠ろう。 背負った鞍は漆黒。下半身とおんなじ色。よくなめして作って貰ったお気に入り。 他と繋がった手綱は少し邪魔だけど、絆の一種ってやつらしいからちょっとくらいなら平気さ! ぼくの主人は所謂「めがみさま」ってやつで、にんげんはおろか天使にも厚く信仰されてるんだってハナシ。 嘘かホントかは分からないけど、果物や金銀財宝、自慢話に土産話、異国の織物や詩ならいつでもぼく等の目と耳に届いてた。 めがみさまは嬉しそうな顔をしてたし、仲間も喜んでたから、きっと貢物は嬉しかったんだろうなあ。 ぼくはあんまりキョーミなかったから、もっぱら皆の歓声を聞くばかりだったかも。 ぼく等の生きる世界はうんと高い場所にあって、盗人神や雷神なんかは雲や専用のそりに乗って移動してた。 にんげんが気軽に来られる所じゃなかったけど、めがみさまは神殿の門を開放して来る者拒まずって感じ。 だからぼく等は自然と知恵を身に着ける事が出来たんだよね。言葉だって自慢じゃないけど、七色ぶんも話せるよ! にんげんって結構おしゃべりだし、地上からもよく声が聞こえるからさ。めがみさまが工夫してくれたってのもあるかもだけどね。 お陰で仲間内でもぼく等の評判はいいのさ! 獣の皮を剥いでよく乾かして、鳥の羽を布に詰めて、羊の毛を糸にして複雑に交差させて布を織る。 石炭や木屑を火で燃やして赤々熱して、ぱちぱち軋む音に耳立てて、部屋は暗くして。 やってくる夜色を毎日静かにお出迎え。 そこが今のぼくの寝床。 めがみさまも仲間も、どんな顔をしていたか、どんな声だったか、匂いだったか……もうなんにも思い出せないんだよね。 ずっとずうっと昔、悪戯好きが高じてぼくはめがみさまに何か酷い事をしたんだと思う。 何をしたのか忘れちゃったけど、きっとめがみさまはカンカンに怒ったんだと思うんだ。 ぼくは地上に落とされた。 あの頃のこと、もう殆んど思い出せない。 暁橙に拾われるまで、ぼくずーっとあの遺跡の前にいたんだよ。ずっとひとりぼっちだった。 自慢の羽も痛むしさ。 ホントは全身、鞍とおんなじ漆黒でカッコよかったのに、今じゃ上半身は愚者の黄金と同じ色。 もうさあ、これ以上哀しいお話ってないよね。 寂しい淋しいって、こういう事をいうんでしょ? めがみさまは、完膚なきまでにぼくのこと嫌いになっちゃったのかなあ。 なんにも思い出せないって事は、ぼくもめがみさまや仲間の事、嫌いになっちゃっていたのかなあ。 そんなのヤだな。 「コハ、ご飯だよ」 「藍夜ーアイヤー。たまにはさぁ、馬刺しとか新鮮なお肉が食べたいなー」 「君の用心棒としての業績が上がったら考えてあげるさ。さ、早くおあがり」 「ぶーつめたーい。ねー? ニジー」 「あはは。藍夜の言う通りだろ? 見返してやれよ」 「ちぇー。藍夜のケッチンボチビー」 「……おや、寝言にしては随分大きな独り言が聞こえたものだ」 「コハク君、一度逃げてー」 夜色雷霆の店主。戦闘技能に優れたその弟。七色の言語を解する羊飼い。審判官の天使……。 白い犬、黒い犬、たくさんの羊、羊飼いの男と女。 日の出、昼の月、白い雲、風、空気、緑の草原、枯れ干草、青空、夕焼け。 その中にぼくみたいなのが混ざっちゃってても、きっとなんの面白味もないんだろうなあ。 でもまあ、まだしばらくはこれでもいいのかも。 面白い事ならきっと、ここにもある筈だからね! |
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TOP UP:13/02/06 |