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魑魅魍魎の居る庭園(楽園のおはなし3章SS)


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ガーデンには漆黒の帳が降りていた。屋敷の裏手に続く大門も、今は閉ざされてしまっている。
今夜は新月で、そのうえ夜光花や月下美人も開いていない。
普段ならぼんやりと青く浮かび上がる手入れの行き届いた植物園や煉瓦造り、白亜のアーチや半球型の屋根の
小休憩場も、今夜は皆一様に寝静まったように黙していた。風はあるようで、微かに夜来香などの香がする。
さわさわと木々の葉や薬草、毒草の類が揺れ、音がうねりを上げた。飼われている夜光虫が土から顔を出し、
外の気配を探るように長い触覚を揺らしている。やがて彼が完全に地中から這い出すと……突如、歌が響いた。
楽しげにはしゃぐ複数の音声。楽器の類は一つも混ざらない、純粋に声だけが織り成す幾重もの音色。
絨毯を踏みつけ、軽快なリズムを共にして、それらは次第にガーデンに接近しつつあった。
小走り気味の足音が一つ、屋敷と庭園を隔てる扉を両手で押し開く。
ぱっ、と明かりが満ちた。
目や鼻を模して、様々な形にくり抜かれた南瓜お化けのランタン。夜光虫を潜ませたアンティーク・ランプ。
彼女らが持つ明かりは個性様々だが、どれもが溢れんばかりのオレンジの灯で盛大に庭園を照らす。

「とりっくおあとりーとぉですの! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうですのぅ!」

最初に庭園に飛び出したのは、先の足早な靴音の少女だった。
狼をモチーフにしたフード付きのマントを翻し、後方の一列に向け破顔する。

「アスター、そんなにはしゃいだら怪我するよー」
「そんなに急がなくとも、菓子はたくさんあるのだから大丈夫さ」

同時に声を掛けたのは、空色の髪の美しい娘と、夜色の髪をうなじの辺りで一つに纏めた長身の青年だった。
アスターと呼ばれた先の少女は、分かってますのう、と口だけで返答し、すぐに奥へ駆けていく。
やれ、転んでしまうよ、とは青年の方で、たまにはいいんじゃない、と楽しげに笑うのは娘の方だった。
最後に顔を見合わせて静かに笑い合うところまでが、彼らの常だ。

「あら、アスターは?」
「もう奥に行ってしまったよ」

二人の後に続く白髪の少女は、返された答えに小さく肩を竦め苦笑するばかりであった。
立て続けに追い付く黒髪の青年に菓子をねだられ、少女は左腕に提げた籠から飴玉を幾つか手渡し――

「珊瑚、アスターにも渡して来て。あんただけで食べるんじゃないわよ」
「わぁーい、やったあ! 姉ちゃんありがとー! 大好き!!」
「はいはい……ちょっと。言ってる傍から食べないの」

――釘などは刺したところで無能のようだ。
言うが早いか、飴玉を口に放り込み、青年も黒髪を揺らしながらアスターの後を追った。
あれで一児の父というのだから驚くべき事だね、とは、夜色の青年は終ぞ口にしなかった。
足音は続く。
珊瑚が立ち去った後、最後にガーデンに入ったのは屋敷の主と、その付き人たる青年、家事を担う娘だった。

「はは、気が早いな。よーし、追いかけっこでもしてこようか!」
「貴女も負けず劣らず楽しそうですね」
「そうか? 祭りごとは楽しまねば損だぞ、サラカエル」
「皆さん、本当に楽しそうで……開催を取り決めて正解でしたね」
「うむ。たまには異国情緒に触れるのも良い事だ」

娘が青紫の瞳を細めて笑う。同じく、先の空色の髪の娘もそれに釣られるように微笑みを浮かべた。
こうしちゃおれん、と言うや否や、主人もまた腕まくりをしながらアスター一行を追い、庭園の奥に消える。
付き人の青年は夜色の青年に、後は頼むよ、とだけ苦笑混じりにぼやいて姿を消した。

「……さて。僕らもイタズラ三昧とやらをしに行こうじゃないか」
「うん。せっかくのハロウィンだしねー」
「楽しみですね」

乗り遅れた面々も、各々に菓子を山ほど詰めた籠とランプを手に奥へと進んだ。


Trick or Treat!
お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!



(遠い何時かの、未来のおはなし)



+おまけ+


豊穣と契約の女神が司る、とびきり神聖なガーデン。奥の奥にはご用心。
ラットベイン?
トリカブト?
ドクゼリ?
ヒヨス?
ううん、ほら、だって今宵はお化けがやってくるハロウィン・シーズン。

白亜のテーブルの下、大理石の柱の陰。
イタズラ好きのお化けが隠れているぞ!

「ばぁー! お菓子をくれなきゃーイタズラしちゃうぞぉ〜!!」
「してしまうぞ。夜更かしにはご用心……」
「っ、ひゃぁあうわああぁん!! や、や、やぁーですのー!!!」

死体を模した琥珀瞳の神乗り獣。
シーツを被った藍色瞳の一角獣。
泣かされちゃった、希望の小花。

「あーっ! アスター泣いてんじゃん!! 天ッ誅ッッ、珊瑚キーック!!!」


……イタズラはホドホドに。
でないと大事な家族にキラワレちゃうぞ!



(お菓子を作り終わって暇を持て余したある夫婦のおはなし)




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 UP:13/10/31