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「ハロウィンしようよ!」(楽園のおはなし1章SS)


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扉を開けると、奇妙な物体が視界を塞いでいた。
白い布を全身にすっぽり被り、両目に該当するであろう部分には小さな穴が開けられている。
足下からは黄土色の平靴が覗いていて、相手が一応ヒトである事を主張していた。
思わず掌底を当てにいったら怒られた。
そういえば、掌底をぶつける直前、両腕を上げながら何事か叫んでいたような気がする。

「酷いよ、兄ィ」

自前のシーツを脱ぎながら、不服げに弟はぼやいていた。

「せっかくハロウィンシーズンだからって、昨日シアと一緒に作ったのにさあ」
「作った、じゃなく、作って貰った、だろう、暁橙。で、結局なんなんだい? これは」
「ハロウィンだよ兄ィ。異世界にこういう風習があるんだよ、秋の実りをユーレイに感謝しましょっていう」
「……だいぶん何か間違っているような気もするがね」
「うん、だから兄ィも仮装して遊ぼーよー」
「結局遊びたいだけじゃないか」

渡されたのはやはり見慣れたカーテンだった……ちょっと待て、これは客間のカーテンじゃないのか。
追求したところでのらりくらりとかわされるのは目に見えている、嘆息しか出なかった。
弟の楽観的な性質に救われた事は何度もあった。それと同時に、頭を抱える羽目になった事も多々ある。
今まさに現状がそれで、恐らく店中の布が荒らされたのだと思うと情けないやら呆れてくるやら、散々だ。
睨んだところで効いているのか、いないのか。
恐らく分かっていて気付かないふりをしているのだろう、僕の知る限りこれは賢い子だ。

「ね、ね、兄ィ。ほらほら、『とりっくおあとりーと』って言うんだよ」
「……君、本当にいつだって幸せそうだね」

何の気もなしに出た言葉に、暁橙はきょとんと不思議そうな面持ちを返してきた。
何かおかしな事を聞いたかい、そう問うと、そうじゃない、と弟は言う。

「オイラはいつだって幸せだよ〜。兄ィもニジーさんもいて、琥珀やシアにも会えたしね」
「暁橙、僕は別にそんな深い意味で言ったんじゃ――」
「――あー、うん。分かってるよ。
 けどさ、兄ィっていっつもオイラの事ばっか気に掛けてるでしょ。たまには息抜きして欲しかったんだよ」

頭に違和感を覚えた。見ると、頭上に弟が被せてきたらしい南瓜型の帽子が一つ乗っている。
即興で作ったにしてはなかなかの出来映えだ、主観は入っているかもしれないが。

「へへ、兄ィ。合い言葉は『とりっくおあとりーと!』、だよ。どう、楽しい?」
「……微妙だね」
「ええ〜、そっかなあ。オイラは甘いの貰えるから楽しいよー!」

聞けば、僕らの幼馴染みであるニゼルも庭でこんな仮装をする事を強制されているらしい。
絡んでいるのがアンブロシアではなく琥珀の方だと言うのだから、今頃相当しつこくされている事だろう。
彼の困った顔が浮かんでくるようだ。ずれ落ちてくる帽子を直しながら椅子から離れた。
弟が後から慌ただしく付いてくる。
異世界の風習などには欠片も興味はないが、たまには弟らに付き合ってやるのも悪くないのかもしれない。
庭に続く裏口の扉を開け、オフィキリナスをくるりと壁伝いに回った。
はしゃぐ幼子の声が鼓膜に届く。

「――ニゼル!」
「あ、いたいた。おーい、ニジーさーん! コハー!!」

ひやりとした風が一斉に牧草を撫でる。季節はもう、すっかり秋の色だ。




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 UP:13/09/22-ReUP:17/09/15