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ある男の独白(楽園のおはなし1章SS)


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その澄ました顔も短い背丈も、特殊な境遇だという身でさえも、何もかも気に入らなかった。


父はこの街を治める町長で、歴代のそれらに比べれば街の発展や警邏に特によく気が利くとして有名だった。
一人息子として大切に育てられ、父に似て容姿にも人間関係にも恵まれた俺は、
十も過ぎた頃には女にも友人にも、金に困る事もなくなった。
夜な夜な街に繰り出しては色遊びや賭博に勤しみ、翌朝、隠れて屋敷に帰還しては乳母や侍女に叱られる。
それが常になっていた。
父は何も言わなかった。今思えば、俺は跡継ぎとしてはまるで期待されていなかったのかもしれない。
無理もない話だと、どうせ聞いてくれないだろうが、言い訳くらいはさせて貰いたかった。
親父に教わった事といえば、
如何にして街の民から上手く税金を搾り取るか、その金をどう隠して懐に流し込むか、そんな狡い事ばかり。
他人の感情も汗も涙もまるでお構いなし。
確かに街は先代、つまり俺の爺様が生きていた頃よりは潤ったが、それだって表向きだ。
畜産、飲食業などは一定の儲けを出していたが、建設分野や教育、女子供の労働待遇は王都に比べたら底辺同然だった。
それでもホワイトセージは田舎にしては華やかな方だった。
そこそこ容姿に恵まれた奴や若い世代が残っているし、経済だって安定している。
その理由として、親父の金の扱いの上手さに加えて、町長一家の宣伝が巧妙である事が考えられた。
王都から賓客を招いて舞踏会、立食会を催し、会場で街ご自慢の印刷技術や織物をアピール、固定客やスポンサーを掴む。
親父が用意した書面に沿って、俺を含めた家族が総出で金持ちを口説くわけだ。一声掛ければどいつもこいつも形無しだった。
当初は俺の見た目(天パだっつってんのに)や言動から、俺に交渉役は不可能ではないか、とも言われていたが。
流石に公の場なんかでは俺なりにきちんと振る舞っていたつもりだ。でなけりゃ今頃、勘当されている。

街の外れ、丘の上に住まう鳥羽家の連中は、親世代の頃から街の人間から好かれていなかった。
まず会合には参加しないし、神具(ロード)だか何だかよく分からない物を扱っているからか、気位が高い。
それらのせいでならず者が街を闊歩するようになり、歓楽街も商店街も荒らされるようになり、一時は皆が頭を抱えた。
少しでも街の繁栄に助力するようにと父が掛け合っても、場合によっては門前払いに終わる事もあった。
話は聞かないし街の協定も守らない。少しの税金だって払うのを渋る。
そのくせ立派に子供を二人も作って……大人が声も潜めずにそう話すのを、俺は物陰から黙って聞いていた。
とはいえ、街の連中が連中に良い顔をしなかったから、経営そのものが軌道に乗らなかった実情だってあったのかもしれない。
それでも払えない額ではなかったろうし、郷に入れば郷に従えという言葉もある。
ある意味自業自得だ。
鳥羽家は他人を避ける。その本当の理由を俺達は知らされなかったし、知りようもなかった。
故郷は異国、輪の国だった筈だ。彼の国に住む者も、皆同じように無愛想だったりするんだろうか……

俺には昔から気になる奴がいた。鳥羽家の隣にある、特別貴重な種の羊を飼う牧場の、跡取り息子がそれだった。
空色の髪が風に揺れるたび、陽の光越しに眩しそうに目を細める仕草を見るのが好きだった。
俺もあいつも男だし、小さい頃は苛めたりからかったりもしたけど、別にそこまで不仲だったわけじゃない。
世間話をしたり、街に出来た新しい喫茶店の感想を言い合ったりくらいはしていた。
それがどうだ。
鳥羽家に生まれた二人の兄弟、特に兄の方と奴は幼少の頃から交流を始め、今となっては双方大親友だそうだ。
唯一無二の存在だと鳥羽兄は宣い、跡取りの方も満更でもないように満面の笑みで頷き返す。
いつしか二人の間に入っていける隙はなくなっていた。
恋人さながらのように普段からべったり一緒にいて、それでも互いに恋愛感情はないという。
そんなものどうして信用出来るものか。食事会は勿論、親同士も交流があり、互いの家に寝泊まりさえする事もあるというのに。
居たたまれなさと羨望とで、俺はますます奴に冷たく当たるようになった。
逆効果だと頭では分かっていながら、仲睦まじい様子を見ていると、苛立ちを抑える事が出来なかった。
鳥羽家と俺の家の関係は過去最悪のものとなった。兄の方……鳥羽藍夜はそのうち、街中に降りてくる事もなくなった。


「よお、ニゼル。相変わらず『化け物』と一緒にいんのか」
「それ止めてよ、ハイウメ。藍夜はそんなんじゃないって、ずっと言ってるでしょ」
「化け物だろ。歳は取らない、世迷い事ばっか言いやがるし、変なもんばっか売って……親だって、」
「……最低。もう俺と藍夜に、暁橙に近寄らなくていいから」


言いたい事も伝えたい事も、どうしたって切り出せない。
いずれ親の跡は継がなきゃならない、好きでもない相手と結ばれなきゃならない。
そうしたらニゼルと会う機会はますます減る一方だろう。

どうしようもないのか。

今日も嫌みなくらいに、空は空色を湛えている。




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 UP:13/10/09