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モンスターハンター カシワの書 サブクエスト : 初雪を、君と TOP |
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寒冷期ともなると、ベルナ村の周辺もだいぶ冷えるようになる。 山々に囲まれた高原の村だから当たり前の話ではあるのだが、聞く話と実体験とでは体感が違うのだなあ、と初めて気づかされた。 生まれ故郷はここいらと同じように山に囲まれた地域にあったが、どちらかといえばのびのびと育つ広葉樹が多く、四季折々の変化が目に豊かな土地だった。 対して、ベルナ村近辺の山々は土地が広々と開けていて、空や雲なんかも手が届きそうなくらいに近い場所にある。 食べ物も違うし、やはりここは違う土地なのだなあ、と感じることが多い。仕事で出てきているから余計に故郷と比べてしまいがちなのか、とも思っていた。 「カシワさん、カシワさん。寒いですから、中にどうぞ」 「……ノア」 ぼうっと白い綿雲を眺めていると、後ろから声をかけられた。この村に働きに出てきて、割とすぐに顔見知りになった黒髪の女の子だ。 黒瞳が収まる目は丸く、花が綻ぶように可憐に笑う娘だった。狩りの相棒……仲間というか、一緒に過ごしている相手とはタイプが全然違っている。 たぶんクリノスはクリノスで美人なんだろうけどなあ――仕事で不在にしている仲間の顔を思い浮かべた後、促されるままに彼女の家に邪魔させてもらった。 「今日は特に冷えますねえ。ホットミルクとシチューがありますけど、どっちがいいですか」 「え、それってノアが昼に食べるやつだろ? いいのか」 「余り物でかえって申し訳ないんですけど……うちにはこれくらいしかないですから」 「いやいや、十分だろ! ノアの料理って、全部旨いし」 彼女とは、狩りの仕事を通じてだんだんと親しくなってきたように感じている。 ベルナ村の名産品であるチーズや織物の元になる生き物ムーファを家で飼育していたノアは、今では俺やクリノスに無償でそれを振る舞うようになっていた。 彼女はよくこうして謙遜……遠慮がちにものを言うけど、俺からしてみたらノアの手料理や布類は立派な出来だ。もっと誇っていいと思う。 ノアは、そうでしょうか、なんて照れくさそうに眉根を寄せて笑った。すぐに木製の器にシチューがよそわれて、俺は有無を言わさず座るよう急かされる。 料理や食事に関して、ノアは厳しめだ。彼女のお父さんがハンターだから食事が体の資本になることを熟知しているんだろう、とクリノスが前に話していた。 「んんー、旨い。これ、売り物にできそうなくらいだぞ」 「そんな大げさな。これくらい、村の人なら誰だって作れますよ」 「そんなことないと思うけどなあ。俺、料理全然できないけど、これは本当に旨いって思うぞ。ノアが料理上手で、マルクスは嬉しいだろうなあ」 大っきなイモがごろごろ入っていて、よく炒めてあるオニオニオンやベーコンなんかも旨みたっぷりだ。チーズの香りがまた贅沢に感じる。 俺は包丁の使い方はおろか隠し味や道具の使い方さえ詳しくないけど、彼女は本当に料理上手だと、そう思う。 どうしてそこでお父さんの名前が出るんですか、なんでかノアはそう言って唇を尖らせていた。よく分からないので、俺は黙って食べることだけに専念する。 つけあわせのパンを浸しながら楽しんでいると、ノアはふと窓の外に視線をやった。誰か来たのか、俺が尋ねるより早く、彼女は裏口から外に出てしまった。 シチューを食べ続けるか、ついていくか。一瞬悩んだが、何か気づいたことがあるんじゃないかと、俺もすぐにあとを追った。 「カシワさん、見てください。北の方、雪が降っていますよ!」 頬を赤くするノアが指差す先に、ベルナ村だけじゃなく、龍歴院の立派な建物の遙か向こうに。 遠くに臨む山々の頂に、いつの間にか白い化粧が被さっているのが見えた。 「うおっ、本当だ。これは寒いわけだなあ」 「ええ、そろそろじゃないか、って村の皆さんと話していたんですけど。昨日から特に冷え込んだので……やっぱり降ったみたいですね」 いつか、仕事で訪ねた北方の山脈地帯――ポッケ村あたりよりは、うんと降雪量は少ない。頂のほんの一部がうっすらと白くなっているだけだ。 しかしそれでも、初めて見られた景色に俺は内心ワクワクしていた。ちらと隣を見ると、ノアも嬉しそうに目尻を下げている。 「凄いな、こっちにも雪が降るんだな」 「村にまで降ることはなかなか。でも、寒さはありますよ。一応、高原地帯ですから」 「ああ、雪は綺麗だけど寒いよなあ……って、おい、ノア!?」 「そうですか? わたし、雪って好きですよ。暮らしは厳しくなりますけど、綺麗ですし寒冷期にしか見られませんし!」 「いや、あのな! そんな走ったら、危ないだろ……」 おもむろに走り出した彼女の黒髪が、伸ばした指先からすり抜けていく。 くると振り向いたノアの笑顔が、雪の照り返しか寒冷期の陽光かで、いやに眩しく光って見えた。 途端に、どきりと心臓が跳ねた。髪を揺らして、満面の笑みで俺を……俺だけを見る彼女の姿が、何故か、酷く懐かしく切ない光景に見えて仕方なかった。 「……雪なんかより、ノアの方が綺麗だろ」 この感覚はなんだろう。ノアを見ていると、時々そんな強い気持ちに揺すぶられるときがあった。 「えっ? カシワさん、何か言いました?」 「うえっ、い、いや、なんでもない……!」 思いがけず、妙なセリフが口からぽっと出た。自覚した途端ぐわっと顔に猛烈な熱が上って、俺は一人であわあわする。 ノアは不思議そうな顔をしていたが、どうやら聞かれていなかったようなので心底ほっとした。聞かれたらどうするか……そんなこと、想像だってできない。 しばらくして、目が満足したのかようやく引き返してきたノアと一緒に俺たちは来た道を戻った。 シチュー冷めちゃいますね、ぽつりと呟いたノアに、冷めても旨いから大丈夫だ、そう返すと、彼女は一瞬驚いた顔をしてからまた笑った。 ……彼女とは、狩りを、仕事を通じて知り合った仲だ。俺はハンターとしてはまだまだ未熟な部類だし、仲間たちに迷惑をかけることだってたくさんある。 モンスターとやり合うときも、また対峙したときも、狩るには狩るが、本当は自分がどうしたいのか……悩むことばかりだった。 けど、こうしてたまにノアと話をしていると、自分が一人の人間であるように強く実感出来るから不思議だ。 「こんな時間が長く続けばいい」。そう願うことは仕事柄難しい話かもしれないが、たまになら許されるんじゃないかと俺は思っている。 彼女が俺をどう思っているかは知らない。けど、一緒にいる間だけでも、俺のことだけを考えてくれていたのなら……こんなに嬉しいことは、ないだろう。 すっかり冷めきったシチューは、ノアが手早く温めてくれた。湯気の向こうで笑う彼女を見て、明日も仕事を頑張ろう、俺はそう意気込んだ。 |
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TOP UP:23/10/18 |