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モンスターハンター カシワの書 サブクエスト : のたうち!ドングリそば、時々仕事人 TOP |
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「旦那さん、それ、なんですかニャ?」 「アル。んー……見てみるか?」 そこそこハードな狩猟依頼をこなして立ち寄った、ベルナ村より遠方に位置する拠点。サクラの時期はとうに過ぎ、目に鮮やかな新緑が涼風に揺れている。 依頼主である村長の通いの酒場の裏手、黒髪黒瞳の狩人は散策を終えて戻ってきたオトモに縁側に腰掛けたままニカリと子供じみた笑みを返した。 手のひらに握られていたのは、この村の特産品である大ぶりのドングリ一つ。特に、挽きたての蕎麦に混ぜて作られるドングリそばなる名物が有名である。 「ドングリですニャ。大っきいですニャァ」 「うん、さっきそこらへんに落ちてたのを拾ったんだ。誰かが落っことしたのかもしれないな」 「落とし物ですニャ?」 「野生のドングリが成るにはまだ早いだろ」 焦げ茶色の粒を掲げて日の光にかざす青年の横顔を、オトモメラルーは眩しいものを見るような眼で見上げた。 単純に、実際に逆光が眩しかったのもあるかもしれない。 「前に話したっけか。俺の実家って、ハンターを目指す子どもには樹木の名前をつけるんだって」 「聞いたような、聞いてなかったような……ですニャ」 「俺の名前、カシワっていうだろ。カシワの木ってドングリが成るんだよな」 雇用主が言わんとしていることが分からない。オトモの青眼は馬鹿正直にそう発言している。 青年は、ぷはっと唐突に噴き出した。素直極まりないオトモの反応と、彼への信頼と友愛から噴き出さずにはいられなかったのだ。 いきなり笑われた側は眼を忙しなく瞬かせる。 しかし、目の前の雇用主がオトモ、ひいては獣人種たちに悪感情など欠片も持たないことを知っているため、つられてへにゃりと笑い返すに留めておいた。 「旦那さん、そのドングリ、どうするんですニャ?」 「落とし物だからなあ。ギルドに届けるっていうのは、なんか違うんだろうけど」 「――ほほ、待たせたの、龍歴院のハンター殿。どれ、これは成功報酬、労いの一杯じゃ。一緒にいかがかの?」 ぽかぽか陽気にくつろぎモードを続けていた最中、ふと声をかけられて一人と一匹は肩を跳ね上げさせる。 振り向けば、此度の仕事の依頼主が――わざわざ藍染めの前掛けを身に着けた姿で――酒場の外のテーブルに丼ものを配膳しているのが目に映った。 通称、ココットの英雄にそんな雑用はさせられない。あわあわとめちゃくちゃな動きで盆を横取りしようとするものの、村長には軽くあしらわれてしまった。 丼の中身は、つい今しがた話していたココット村名物の「のたうちドングリそば」だ。とろりとした餡の上に、ツヤツヤのドングリが煌めいている。 「あー、村長! 悪い、っていうか俺、これ頼んでたか……?」 「なに、昼げのついでじゃ。さあ、冷めないうちに……」 「ニャ、村長さん。さっき、旦那さんがドングリを拾ったんですニャ。もしかして村長さんの落とし物ですニャ?」 オトモ用の椅子に腰掛けたメラルーから、純心溢れる質問が飛ぶ。渦中の一粒を握り込んでいた狩人は、また一人であわあわし始めた。 「いやっ、ネコババするつもりなんてなかったんだ! ちょっと大きくてキレイなやつだったから、」 「そうか、そうか。構わんよ。村に来た、土産にでもするといいじゃろう」 「……え、いいのか。返さなくても」 「ハンター殿によく似た、昔の知り合いがこのそばのファンでのう。同じようにそこらのドングリを拾って慌てとったわ。妻の土産にしたい、とか言っての」 白いヒゲを揺らして楽しそうに笑う村長を、一人と一匹はきょとんとした顔で見つめ返した。 頭を振った村長は、そろそろ食べるとしよう、と双方を促して対面の席に着く。ふたりが見守る中、ヒゲをちっとも汚さずにソバを勢いよく啜りだした。 「いらんのか? 腹へっとらんかのう」 「い!? いやいや、減ってる減ってる! いただきますっ!!」 「ニャイ、ボクの分もありますのニャ……村長さん、ありがとうございますニャァ!」 仕事終わり、談笑と、温ソバの風味豊かなドングリ添え。 新緑の季節は、もうじき駆け足で豊富なドングリ実る時期へと進む。 |
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TOP UP:25/05/09 |