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星のうた(不可視領域)


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世界のどこを探してもあなたはいない


あなたは空に輝く星になってしまった
恒星のように青白く瞬きながら
迷星のようにその魅力を振りまきながら
何度でも惜しみなく光を放って煌めき
溢れんばかりのまばゆさを伴って
あらゆる地図に足跡とうたを残したきり
あなたは星になってしまった

あなたが笑う
あなたが歌う
あなたが地面を蹴る
あなたがまとう布地が揺れる
あらゆる場面にあなたの影が散らばっている
あなたの作った食事が机上に団らんの灯をともし
あなたのなした仕事が地上に安堵の灯をともす

青く黒い円盤に今日も星月夜が重なる
赤く白い丘陵に今日も夜明けが連なる
星がうたう
星がうたう
幾千もの光をこぼして
まばゆいほどに日々を彩る

あなたは星になってしまった
ずっと一緒にいようと言ったのに
あなたは星になってしまった
一緒にいるからと約束をしたのに

めまぐるしい毎日のなか
あなたの残した光がそこかしこで瞬いている
いつもの庭
聞き慣れた音楽
堂々めぐりの帰り道
通い慣れた散歩道
石炭ぶくろの向こう側
迷星のようにあなたの残り香がたゆたう


さびしい
かなしい
むなしい
せつない
狂おしく色とりどりのきれい事を並べても
あなたの影に並べられるものはない
あなたを讃える例えなんて見つけられない

さびしい
かなしい
むなしい
せつない
世界のどこを探してもあなたはいない
あなたは星になってしまった
あのずっと遠くに瞬く光として燃えてしまった

言葉を尽くしても何にもならない
心を砕いても砂粒は巻き戻らない
砂上に描いた絵のように
机上で消えた灯のように
あなたはあんなにもまばゆく光る星になってしまった
世界中のどこをひっくり返してもあなたはいない


さようなら
さようなら
ありがとうの言葉はまだ出せない

さようなら
さようなら
あなたの灯が安らかに燃えることを今は願う


うずくまって泣いても日が昇る
くしゃくしゃになっても帳が落ちる
明日がくる
未来がすぎる
霞みがかった毎日を
どろどろに無情にとかして

(それを人は惰性と呼ぶのか?)
(沈んだままの者は弱いのか?)

宛もなく地図を片手に
今は見ぬ星に埋もれる夢を
そこにわたしの場所はあるだろうか
骨すら青白く燃やすように
あなたの傍を夢想する

あなたの影が人々の中に息づく
あなたのうたが日常を彩る
幾千の欠片が星のように瞬いて
今はないうたを地上に灯す


青白く燃え
赤黒く輝き
円盤と丘陵をとかすようにして
星がうたう
星がうたう





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 UP:20/07/28 → ReUP:20/08/11