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モンスターハンター カシワの書(1) BACK / TOP / NEXT |
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たどり着いた先は、大きく開けた広場だった。 青々とした草原、その合間合間に黄色や青といった愛らしい花が咲きほころび、高原に色彩を添えている。 散見される建物はそれぞれ石で出来ていて、村のシンボルである金のベルの絵や雑貨屋、加工屋といった文字の類を刺繍した 大ぶりの飾り布と、やはり表面にベルナシンボルを刻印した金鐘が下げられていた。煙突からは絶えずいい匂いがしている。 恐らくムーファから採れるミルクをチーズにして炙っているか、あるいは料理鍋に突っ込んで煮ているのかもしれない。 ふと頭に影が差す。見上げると、見慣れないシンボルを描いた飛行船が悠々と浮遊していた。 飛行船の下には、何やら見慣れない巨大な建築物が見える。化石か鉱石か、光を鈍く反射させ、表面を虹色に輝かせていた。 チリン、コロン、どこかで聞いたような音色に視線を落とす。予想通り、腰の辺りにムーファの頭がぶつかった。 撫でろと訴えるようにぐりぐりと額を押しつけてくる。 両の除角の跡には赤いリボンが巻かれていた。大人しさといい、近隣で家畜として飼われているものと思われた。 「懐かれたようですな」 撫で始めたところで声がかけられる。カシワが頭を上げると、ベルナ地方特有の色鮮やかな織物に身を包んだ男が立っていた。 初老か、それより少々若いか。頭に巻いたターバンと腰布の艶やかな橙色、左手を添えたベル付きの杖が目を引く。 一度ムーファから離れる。彼……彼女か、その雲羊鹿は名残惜しむように顔を上げたがそのうち草を食む作業に戻っていった。 「ふむ。あなたが、ハンターズギルドから派遣されたハンター殿ですな」 男は村の長だと名乗った。彼の問い掛けに、カシワは肯定代わりに頷き返す。 村長は一度大きく頷き、ここが目的地ベルナ村であること、自分の到着を待ちわびていたことを教えてくれた。 「これからハンター殿には、龍歴院つきのハンターとして龍歴院ならびにこの村の諸問題に当たってもらいたい」 「龍歴院?」 聞き覚えのない単語だった。オウム返しをしてから、カシワは村長が視線をちらと後方に送ったのを見る。 つられて村の奥、先ほど見えた巨大な建築物に目を向けた。あれが龍歴院研究所ですな、村長は眩しそうに目を細めた。 「龍歴院はモンスターの生態や古代林といった、様々な個体やフィールドの研究……解明を行っている機関でな。 ベルナ村は研究所のふもとに位置していることもあり、龍歴院の発足の後、彼らと深く連携を結んでいるというわけだ」 あの建築物は、やはりとんでもなく巨大な化石で出来ているものであるらしい。 龍歴院に派遣されたハンターは、ベルナ村、ならびに近隣集落で起こるモンスター起因の問題解決に当たっているという。 曰く、龍歴院の成り立ちは王立古生物書士隊などよりはまだ歴史が浅いのだと。 故に龍歴院の片腕として、あるいはベルナ村の警護として、ハンターらは貴重な人材と見なされているのだそうだ。 言われてみれば確かに、村の中には龍歴院所属と思わしき白と青磁を基調としたロングジャケットを着込んだ者が散見された。 分厚い書物片手の者、メガネの奥を光らせこちらを注視する者、慌ただしく行き交う者、様々である。 「では、ハンター殿。まずは龍歴院の研究員に話をして、ハンター登録を済まされるといいでしょう」 自宅として好きに使っていい、そう案内された建物の前で、長は視線で村の奥に立つ研究員を差し示した。 登録が済んでしまえば、その瞬間から名実ともに「どこそこつきの」ハンターとなる。 いよいよか――夢の第一歩、その実感は今頃になってふつふつと沸いてきた。言われるままに歩を進めた。 湿った落ち葉の群れ、鬱蒼と生い茂る大木、ひやりとする吹き抜けていく森の息吹。 ざかざか足を踏みならしながら、カシワは無造作に眼前の膨らみへ手を伸ばした。ぼんやりと光るキノコの群生だ。 何度か手を手元と群生の間で行き来させ、根元から折ってしまわないように収穫する。 独特の香りがするものが数本、青白く光るものが数本。確認してから、腰に提げたポーチに慎重にしまい込んだ。 周囲は静まり返っていた。鳥の鳴き声ひとつしない。振り向き様、高台に似た岩盤の上に登って周囲を見渡してみる。 やや開けた洞窟内部。背後には、いつからそこに存在していたのか、巨大な美しい巻き貝の化石と、青く艷めく鉱石があった。 同じく、多数の青く発光する鉱石と、微かに聞こえる水のせせらぎ。息を吸い込めば、古代の時代に降りたったような気さえする。 何人もの研究員がここを行き来してきたのだろうか。頭を振り、次に進もうとしたところで―― 『よし! 無事、アオキノコを採取出来たな!!』 ――大声が天空を打った。 驚き半分に上に目を向けると、龍歴院の飛行船、それに乗り込んでいる男の姿が見えた。 朱色と漆黒の動きやすそうな防具、隆々と盛り上がったたくましい体格の、中年の男が一人。彼の名はカリスタという。 腕組みした格好からの、力強い頷き。無意識に頷き返していたらしく、カリスタはうむ、と満足げに腕を解いた。 彼の手には角笛をうまく加工して仕上げたメガホンが握られている。先の大音量の原因はそれだった。 首を上げたままのカシワを見下ろし、彼は再びそれを口に当てがった。 『では早速、調合書を参考に回復薬を調合してみるのだ!』 調合書。反芻してから、カシワはポーチの中から使い込まれた様子の書物二冊を取り出してページを開く。 周囲は鉱石の光でぼんやりと明るい。 字をたどり、同じく取り出した薬草と青白く光る採れたての「アオキノコ」をどう処理するのか、容易に読み解くことが出来た。 無造作に開いた二冊のうち、片方は初心者向けの基礎を書き記した入門書になっている。 肥料やちょっとした回復薬といった薬品を作る母と違い、調合など一度もしたことのない身にとってありがたい借り物だと言えた。 ……真鍮製の金具をあしらえた瓶をじゃかじゃか振っているうちに、目的の薬が出来上がる。 数分前、興味本位でかじった摘みたての薬草の苦さとえぐみなど感じさせない、さわやかな香りがする薬、回復薬だ。 「こんなもんかな……教官! えーと、『上手に出来ました』〜!」 『うむ。見事、調合出来たようだな!』 天空めがけて声を張り上げる。同じように大声が返された。 言われた通り、完成したばかりの薬瓶をポーチに詰め直し、次のエリアを目指すべく岩盤から飛び降りる。 首元にひっそり結んだ橙のスカーフが揺れる――龍歴院所属の折に、ベルナ村村長経由で院から贈られた記念品だった。 『次はハチミツを探すのだ! ハチミツと回復薬で、目的の回復薬グレートの完成だぞ!』 「よしっ、了解!」 カシワが今進めているのは、新フィールド「古代林」に学ぶ、特別講義「訓練クエスト」である。 というのも、龍歴院所属確約の折、受付を担当してくれた研究員から様々なこぼれ話を聞くことが出来た。 そのうち「基礎」を知るのにいい、と強く勧められたのがこのクエストである。 (何せ、父さんと違って大型モンスターを見たこともないからな) あぐらをかきながら、調合書片手に集めたばかりのハチミツを薬瓶に注ぐ。わざわざ漉さなければならないらしい。 適当に混ぜたら駄目なのか、とカシワは首を傾げた。どうもハンターには神経を使わなければならない仕事も多いようだ。 (うーん。遠回りだと思ったんだが、これ受けておいて正解だったかもなあ) 第一に、教えを担当する教官カリスタは声こそ大きい(!)ものの、教え方は丁寧で分かりやすかった。 初めてのことばかりの自分には、これ以上ありがたいことはなかった。 |
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BACK / TOP / NEXT UP:20/01/03 加筆修正:23/01/29 |