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モンスターハンター クリノスのメモ帳

 緊急クエスト : 「レアなアイツを捕獲せよ!」
(Lis著)

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それは、ギルドマネージャーから“赤いの”と呼ばれるヤツと知り合ってから何度目かの、ヤツが愛し大嫌いだった女の命日が過ぎた頃だった。
“赤いの”は決まって、この時期になると体力的にも精神的にもオーバー過ぎるくらい、クエスト依頼やギルドの仕事をこなす。
いよいよ限界を迎えた頃、自分の怪我でなのか返り血でなのか分からないほどの血液を吸って、重くなったギルドナイト装備で帰ってくる。



その日も同じだった。
狩りの相棒カシワは、オトモのアルフォートと、珍しく“赤いの”の相棒のニャンター・チャイロと、お守り目当ての炭鉱夫をしに出掛けていた。
クリノスは一人残り、いつものインナー姿でベッドの上、手に入れた宝玉等のレアアイテムを磨きつつ、にやにやしていた。
彼女のオトモ・リンクは、用事を言付けられそれを全うすべくルームサービスと共に出掛けていた。
文字通り、クリノスは一人である。

「こっちはレウスの紅玉、こっちはレイアの紅玉……」

両手にそれぞれ宝玉を持ち、まじまじ眺めた後、耐えきれなくなったのか頬に寄せて頬ずりを始めた。

「っあぁ−、もぅ幸せぇー」

ひとしきり頬ずりしたあと、うっとりとまた眺めだす。
クリノスが一人になると始まる、恒例の儀式のようなものだ。
自称トレジャーハンター、自他共に認めるレアアイテム大好きハンターである。
磨き終わった宝玉をベッドに並べ、アイテムボックスからまた別の宝玉を取り出し、頬ずりして磨きベッドに並べる。
持っている宝玉を半分ほど磨いた頃、自宅の入り口から音が聞こえた。
カシワ達が戻ってくるには早過ぎる、リンクだったら戻ってきたとき挨拶がある。
今、このベルナ村を拠点にし家をメインで使用しているのは、クリノスとカシワである。
相棒やオトモでないのだとしたら、客かあるいは、最近居座るようになった“ヤツ”だ。
物音が聞こえてしばらくしても、誰も入ってくる気配がない。
宝玉とイチャつく時間を邪魔されたクリノスは、少し不機嫌になりながらも様子を見に行く。

「なんだよ、せっかくいい気分だったのにぃ……」

入り口まで行き外を見ると、満身創痍の“ヤツ”が倒れそうになった身体を支えて、壁に寄りかかっていた。

「ユカぁ? ってお前、また!?」

クリノスの予想したとおり、入り口で物音を立てたのは赤いのと呼ばれている“ヤツ”、ユカだ。
この時期の何時ものことで、クリノスはユカを支え、しょうがないなあとぼやきながら家の中へと促す。

「……カシワは?」

ぼやきを聞いてか聞かないでか、ユカはカシワの所存を尋ねた。

「炭鉱夫! いたらとっくに呼んでるよ」
「……チャイロは?」
「珍しくカシワについてった! ってかお前、私でも苦労するお前の運搬をメラルーにさせようとするなよ」

自分で役不足なのはクリノスも重々承知しているつもりだ。
170ある身長は、他の女と比べれば十分大きい方だ。極めつけにハンターをしている。
いくら体力や力が他の女と比べて自信があるとはいえ、ユカはそれ以上に大きい。
支え移動に付き合うのは少し辛いものがあった。

「ちょっと! ちゃんと歩いてよ!」

ユカの足がもたつき、ベッドにたどり着く前に二人で地面に崩れる。
かろうじて、地面に倒さないようクリノスを支えると、ユカはそのまま地面に突っ伏してしまった。

「ごめん、大丈夫?」

ユカの返事はない。
いつものことながら、せめてベッドにたどり着くまでの体力は残して置けよと、クリノスは心の中で悪態をつく。

「ユカちゃーん? 回復薬いる?」

突っ伏してるユカの顔を覗き込むように再度話し掛ける。

「おーい?」
「……今」

低い唸りに似た声で返事が返ってきた。

「今、お前を見たくなかった……」
「は……?」

何を言われたのかすぐに理解できず、返事に困った。
そのすぐ後、この時期のユカの行動、チャイロに少しだけ聞かされた過去にあった出来事、これまでの自分に対する態度が繋がり、
クリノスによく分からない怒りがふつふつと込み上げてくる。

「分かっちゃいたが……その姿は目に毒、」

言いかけて、突っ伏していたユカの体が反転する。
地面を見ていたはずが天井が視界に入り、すぐにクリノスの怒った険しい顔に変わった。
ユカの言葉は続いていたが、頭にきているクリノスには聞こえていない。

「うるさい!」

今度はユカが驚き、言葉を詰まらせた。
じゃれると言うのが適切だろう、たまにクリノスをからかい怒らせる事はあっても、ここまで本気の表情は滅多に見ない。
クリノスは仰向けになっているユカの胸ぐらを掴み、その上に跨がるように乗った。

「おい、クリノス?」
「お前が! 人のこと……何なんだよ! 顔見たくないとか言うな!」

ユカは落ち着かせようと上半身を少し起こし、きつく握ったクリノスの手に自分の手を伸ばした。

「おい、少し落ち着け……」
「うるさい! 何なんだよ、ほんと! 何が私のこと好きだって言うんだ!」
「だから、落ち着けって……」
「『好きだけど、今はどうこうするつもりはない』? もう、してる! 色んな事!! された!」

ハンターを目指そうと決めた幼い日。
思春期をむかえても、興味はもっぱら大型モンスターから採れるレアアイテムで、人間の異性になど微塵も興味が湧かなかった。
カシワという少し年上の男のハンターと行動を共にしているが、それも相棒としてのこと。
恐らくイケメンの部類に入るのであろう相棒にすら、異性としての興味はないし、どちらかと言えば兄妹に近い感覚だ。
それをユカは、ここ数年の短い期間でずけずけと入り込み、クリノスにはすぐに理解できない感情を植え付けてきた。
与えられる些細な事に、頭が追いつくはずもなく、クリノスの感情のもやもやは募っていくばかり。
それが、積もり積もって爆発した結果が今まさにこの時だ。

「どうしてくれるんだ、このっ……このもやもや! 意味わかんない!」
「なんだ、嫉妬でもしてるのか?」
「違う! お前が昔。誰と付き合ってようが、利用されてこっぴどく捨てられようが関係ないし、気にしてない!」

酷い言われようだと、ユカは軽く息を吐き、クリノスの言葉を聞いていた。

「よく、よくわかんないけど! お前がこうなのは嫌だ!
 仕事で長期間帰ってこないのも、狩りして怪我するのも、別にいいけど!
 ……勝手にいなくなって、戻ってこなくなるのは、嫌だ」

子供っぽく、少しだけ頬を膨らませて、クリノスは自分の下にいるユカを見下ろした。
握っている拳を軽く撫でられ、次の言葉を催促される。

「お前が悪いんだ、よくわかんない気持ち……責任取れよ! 『一生傍にいろ』くらい言えないわけ? ヘタレユカペッコ」
「それで?」
「……いってらっしゃいとか、おかえり、くらいいくらでも言ってやるから、
 黙っていなくなって、二度と帰らないとか……そんなの、絶対に許さないっ!」

目を伏せて、また頬を少しだけ膨らませた。
ユカは上体を起こし、クリノスを膝の上あたりに座り直させた。

「言い方が悪かった。顔を見たくないわけじゃない」

言いたいことを言い、少し落ち着き俯いてるクリノスにユカが答えた。
胸元あたりをきつく握っている彼女の細い両手首を、ユカの男らしい骨ばった掌が簡単に包み込む。

「お前のインナー姿がよろしくない、と言いたかったんだ。
 マイハウス内でも、ハンターにとっての装備でも、好いてる女のその姿は視覚の暴力だぞ。今度はモンスターでなく、理性と戦えとでも?」

クリノスは話半分に――ああ、男の手って大きいなぁ――と、自分の両手首をいとも簡単に片手で掴むユカの手を、ぼんやりと眺めていた。
少し沈黙が流れたような気がして、しかしそれを破ったのは、ユカの声だった。

「――……だな?」
「え!?」

ぼんやりしていたクリノスの耳に、聞き捨てならない台詞が聞こえた気がして、思い切り顔を上げる。
驚くほど至近距離に、ユカの意地の悪い笑みを浮かべた顔があった。
もう少し近付けば唇同士が触れそうで、さらにそれに驚く。

「だから。ずいぶん熱烈な告白で、情熱的なプロポーズだな? ……俺を『誘ってる』と解釈していいんだよな」
「なっ……!!? ちがっ違うし! プロポーズとか!? してない!」

言われた台詞に顔が熱くなる。
告白も、ましてやプロポーズなど、どこにそんな言葉があったか、クリノスは考えながら慌てて離れようとした。
が、それを許さないとばかりに、両手首を掴むユカの手が動かない。
何をぼんやり手の動きなど眺めていたのかと、今更ながらに後悔する。

「違うのか……俺にはそう聞こえたけどな」
「だから! 言ってない!!」

クリノスはふと気づく。
帰ってきた時よりも、目の前にいる相手が元気に見える。
支えられてもよろけるくらいには弱っていたはずだ。
今はそれどころか、身体を起こし、自分の両手をを抑えつけるくらいの力も出ている。
そして、視界に入る。
床に放り投げられているユカのもう片方の手に見慣れたアイテムが握られている。
“いにしえの秘薬”だ。体力、スタミナ共に全回復させるアイテム(ちなみにゲーム内では最大値もMAX)。

「うわっ、お、お前……っ!」

ユカはにやりと、余計に意地の悪い顔で笑ってみせる。

「いつもお前が怒るからな。今回はちゃんと休んで回復しようと思ってたんだが」
「だ、だったら早くベッドに行って休めよ!」
「いや? そんな姿で可愛く誘われて、応えないのは男として情けないからな」
「いいいいいい、いい! な、情けないままでいとけよ!」

クリノスは力いっぱい抵抗してみる。
悲しいかな、ユカはその様子を意地悪く、嬉しそうに、愛しそうにみていた。






「……お守り探しに行こうと思って、なんでピッケル忘れるんだ俺は。タイミングが悪すぎたなあ」
「タイミングどころかオミャー、空気も読めてねーニャ」

自分のタイミングの悪さを悔やみ呟くカシワに、チャイロが突っ込んだ。
肝心のピッケルを忘れ、取りに戻ればこの状況だった。
気恥ずかしさと邪魔してはいけないという思いで、入口で立ち往生していた。
すぐあとに、ルームサービスとリンクも戻ってきていた。

「クリノスさんいつもの雰囲気と違って、今日は可愛いですニャ! ニャ、ニャイ! 何も見えませんニャ!」

二人の様子を指の隙間から見ていたアルフォートの視界を、リンクがしっかりと隠す。

「でも、あれですニャ。クリノスさんは正真正銘のレアアイテムハンターなのですニャ!」
「まあ今回の場合、アイテムじゃねーがニャ」
「さすがボクの旦那さんニャ! 狙ったレアものは逃がさないニャ!」

オトモ達の会話に、カシワが首を捻る。

「なあ、何がレアものなんだ?」
「「「「!?」」」」

これには、ルームサービスまでもが吊られて驚いた。

「オミャー……さすがに呆れるニャー」
「ボクにはフォローできないニャ」

カシワの質問に、チャイロは呆れ、リンクは匙を投げ、ルームサービスは、悲しげな哀れんだ視線を向ける。

「だ、旦那さん。ユカさんはギルドナイトですニャ。普段から正装でいるから、レプリカと勘違いしてしまう人もいるけど……
 ユカさんが着ているのは、本物の装備品なのですニャ」
「え? 都市伝説……だろ??」
「ニャ、ニャイ……」
「アルフォート、無駄だ。もう、オレ達で火山行くニャ。オレ達にはピッケル不要だからな」
「! ニャ、ニャイ」

いよいよどーでもよくなったチャイロは、カシワの戯れ言を流し、アルフォートを連れて、広場に向かい直した。

「え、違うのか? んん?」
「カシワさん……バカと何とかは紙一重ニャー」
「おい、リンク!」
「えっと、カシワの旦ニャ様。ユカの旦那様は、本当にギルドナイトですニャ。かっこいいのですニャ」
「え? え?」

バカにされ、諭され、カシワは一人混乱している。
ユカのクリノスに対する態度で、何となく彼の気持ちには気づいていたものの、まさか相棒までもがそんな気持ちだったとは。
いや、それよりもやはりカシワにとっては、都市伝説と信じて疑わなかったギルドナイトについての方が、より混乱させてくれる。

「ボク達も。買い忘れがないか、もう一度行くニャ」
「そうしましょうニャー」

リンクとルームサービスも、もう一度店に向かうべく、チャイロ達に続いた。
一人取り残されたカシワは、必死で頭を整理させながら彼らを追いかける。

「ピッケルは買えば済むから……なあ、やっぱギルドナイトって都市伝説だよな?」

もうしばらく、カシワの頭の整理には時間がかかりそうだ。






「そう暴れるな。余計にそそるぞ」
「!?」

ユカから逃れようともがいていたクリノスはより一層もがく。
のどの奥からくつくつと笑い、ユカは楽しそうにそれを眺めていた。

「安心しろ、一生可愛がってやるから」
「はっ? かわ……え!?」
「あー……訂正。一生掛けて責任取ってやるから」
「お前っ、前言が訂正されてない! ていうか、する気ないだろ!」
「……さて」

おもむろにクリノスを抱えユカが立ち上がる。

「風呂でも入るか、背中を流してやろう」
「!? いいいいいいいいいやいいいい! 絶対、背中だけじゃ済まないでしょ! 下ろせ、ばか!!」

聞いてか聞いてないでか、ユカはクリノスを抱え楽しそうに、奥へと向かっていった。






緊急クエスト レアなアイツを捕獲せよ
依頼主 ポッケ村、村人A

依頼内容

うふふ。こんにちは、レアアイテム大好きハンターさん。
貴女に名指しで依頼するわね。
最近そちらのベルナ村のマイハウスに、レアなアイツが頻繁に出没しているようなの。
是非、捕獲して欲しいの。
あ、うっかり貴女が捕まっても構わないのよ?
クエスト成功の報告、待ってるわね!

目的地 ベルナ村マイハウス

メインターゲット 報酬金 0z
獰猛化ユカペッコの捕獲

サブターゲット なし






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 UP:21/11/07