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モンスターハンター カシワの書

 サブクエスト : たんと掘れ、炭鉱夫!


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「なかなか、いいのが出ないもんだな」

鋼で強化したピッケルは、残りたった一本。採掘ポイントを前に、カシワは滴る汗も拭わずに嘆息した。
足下に転がるのは鉄鉱石と石ころが数個、マカライト鉱石、円盤石が少量。ポーチには鎧玉がいくつか詰め込まれている。
大陸中央よりやや南下した地域にある活火山、ラティオ火山。
冷え固まった溶岩によって自然形成された足場に、燃えさかる噴火口、ウロコトルらを始めとしたスカベンジャーズ。
豊富な鉱物資源と、龍殺しの実や火薬草といった熱帯特有の植物たち……ここには折り紙つきの危険と恵みが共存していた。
火の国と呼ばれる少数民族の生活圏にほどなく近いこの狩り場で、カシワは単身採掘クエストに挑んでいる。
依頼主は湯煙と紅葉に抱かれる自然豊かなユクモ村。そこで鍛冶を営んでいる、気のいい竜人族の職人だ。

『自分のぺーすで好きなだけ採掘してみぃ。あぅあぅ!』

彼には武具の強化でよく世話になっていた。更には、職人つながりでとある特別な防具の生産を進めてもらっている。
できることなら力になりたい。話はとんとん拍子に進み、カシワは快く依頼を引き受けた。
生産条件を整えるため、間に多数のクエストを乗り切り、改めて彼の必要とする素材「燃石炭」の採掘を任された。
けむり玉を用い、周囲にはモンスターの脅威さえ寄せつけない。慎重に作業を進め、燃石炭は順調に集まりつつあった。
……とはいえ、今のカシワの目的は「燃石炭の納品」だけではない。

「――おーまーもーりぃぃぃー!!」

レアアイテム大好きの相棒ではないが、思わず天に向かって叫ぶ。そのままノリと勢いで、岩盤の上で地団駄を踏んだ。
白いけむりの向こうで、ウロコトルがきょろきょろと上半身を穴の中から覗かせているのが見える。
思考中断、一度首を振り、カシワは再度ピッケルグレートを振り上げた。

「お守り! できれば古びた! 城塞でもいい! 出ーてーこーいー!!」

否、やっぱり中断できていなかった。
ラティオ火山に眠っている鉱物資源の中には、太古の時代に栄え、滅んだという文明の遺産が潜んでいることがある。
「お守り」と言われるものがそれだ。
古びたもの、光るもの……それらはクエスト終了時に、精算品ともどもハンターズギルドに引き渡され、詳細を鑑定される。
鑑定後、返却されるものには得てして特別な力が宿されていた。ハンターがスキルを身に着けるための、特別な力である。
カシワがこのクエストに挑むのは――それこそもう何百回目かすら分からない――その「護石」目当てのことだった。
初回クリアの後には、ユクモ村の加工屋にも「ワテはいいけどにゃぁ、ワレぁ物好きなぅ」と笑われてしまっている。
構うものか、掘り出したお守りを拾い上げカシワは大きく息を吐いた。

(そのための、専用装備だって作ったんだ)

ギルドナイトの赤を基調とした羽根つき帽子のレプリカ、「じゃんぷ」と言われる組織からの報酬であつらえた海賊衣装。
クリノスに見せびらかしたところ、その日たまたま居合わせていたユカはどこか苦いものを噛んだような顔をしていた。

(何度も往復させて、気球船の乗船員には悪いが)

専用装備まで用意し、気合いを山のように持ち込んでの採掘作業。
相棒のあきれ果てた顔、ユカやチャイロの複雑そうな表情。それらを振り切るようにして、カシワは大きく腕を振る。
バキッ、鈍い音の直後、最後のピッケルが砕け散った。
今日はここまで、何者かにそう囁かれたような気がして手を止める。内心、どこかほっとした自分もいた。
いま気付いたように手で汗を拭い、採掘したものを拾い集める。今日の成果はあまりよくなかった。
けむりが晴れ、熱にうねる視界があらわになっていく。ウロコトルが碇口をカパカパ鳴らし、威嚇を繰り返した。
構わず、カシワはベースキャンプに続く南方へと足を向ける。じき、キャンプに迎えのアイルー荷台が来るはずだった。

「っ!?」

そのときだ。背筋を一気に駆け抜ける、おぞましい寒気のような鋭い視線を感じた。
まぎれもない敵意――すぐさま振り向き、気配の主と向かい合う。
……悠々と歩み寄る、一つの巨影。黒く波打つ体毛に、側頭部に生えた二対の角、隆々と盛り上がる筋肉、たくましい両腕。
漆黒の体躯に埋もれた爛々と冥く輝く眼が、その場で身構えたカシワを悠然と見下ろしていた。

(『ラージャン』)

金獅子、それはそう呼ばれていた。雪山をはじめ、人里離れた塔、氷海、原生林にさえ姿を現す、恐るべき脅威の牙獣種。
その姿を見た者、ないし遭遇した者で生きて帰ることができた者はいない、とまで言わしめるほどの超攻撃生物。

「うわわわわ、」

カシワは震撼した、そして、それと同時に駆け出していた。
それもそのはず、護石採掘専用の衣装は大型モンスターとやり合えるほどの防御力、属性耐性など持っていない。
端から採掘運を上げる、クエスト報酬を増やすための幸運をスキルとして盛っただけで、狩りそのものには役立たない。
ラージャン咆哮、刹那、カシワは叫んだ。何事か喚きながらひたすら全力で出口を目指し、一気に岩盤を駆け下りる。
……発見されてしまってからでは、けむり玉は「視界をふさぐ」効果を発揮しない。逃げるより他になかった。
何せ、燃石炭の大量納品のためにキャンプに一瞬で離脱するためのアイテムすらすでに使い切ってしまっている。

「っ、の、この、お、覚えてろこの――」

金獅子の口から、爆ぜる黄金のブレスが一直線に放たれた。
負け犬さながらに捨て台詞を吐きながら、新米狩人は瞬く間に気光ブレスに飲み込まれていく。



 力尽きました
 キャンプに戻ります






「……カシワはまだ、戻らないのか」
「うーん、まだじゃない? 燃石炭きゅーじっこ納品するー、って意気込んでたから」
「九十? ソロでだろう、あいつ正気か」
「いつものことだよ。もう、わたしはーあきらめたー!」

ベルナ村のかたすみ、マイハウス内。
今日も今日とて平和そのものの空間で、クリノスはお気に入りの宝玉磨きに勤しみ、対しユカは書類仕事に追われていた。
クリノスのオトモであるリンクはカシワの留守番担当のアルフォートと共に、弓に装着する薬瓶の調合に励んでいる。
その横ではユカの監視下にあるはずの野良メラルー、チャイロが、ぐうぐう呑気に大の字で爆睡をかましていた。

「今日こそはいいお守り出たらいいね、って言ったんだけど」
「それで?」
「さあ。なんか、死んだ目で火山行きの気球船に乗ってった」
「……頭が痛いな」
「頭痛が痛い、って言ってあげたら? っていうか、チャイロってラージャンと寝方おんなじだよねー。何歳なんだろ?」
「お前たちのオトモと、そう変わらんだろう」
「それ。それより少し上だ、って聞いたけど。なんかねー、精神的な意味でって話。おっさんだなって」
「同意だな」

カシワの護石採掘マラソンは、すでに彼の狩友たちの間では日常茶飯事、恒例行事となっていた。
もはや止めることすら彼のためにならないのである。
ユカはかつて同じように採掘した自身を思い出して嘆息し、クリノスは寝具の上で宝玉を手にごろごろと寝転んだ。
新米狩人が欲していた護石「聴覚保護5s3」片手に喜び勇んで村に帰ってくるのは、これより少し、日が経った後のこと。
「たんと掘れ、燃石炭」。
最強とも呼ばれる金獅子を採掘場主任として据えた伝説と称されるこのクエストに、終わりの日など見えるはずもない。





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 UP:21/11/07